四十一話目 魔法少女は気づきたい

 ◇ ◇ ◇


 三人の安否確認をしようと思って連絡したところ、なんか住所が送られてきた。

 来てくださいってことで向かってみれば、そこにあったのはマンション。何と、環ちゃん用の家の一つみたい。

 ……お金持ちって凄いねぇ。しかも、一室じゃなくてワンフロアを所有してるみたい。なんで?


 今は部屋にお邪魔してる。

 千恵ちゃんに案内してもらった部屋には、一面に紙の資料が用意されていて、その束の中で環ちゃんと芹香ちゃんが倒れていた。

 じ、事件性がある。


 まさか彩花の仕業? いや、それなら千恵ちゃんが平然としてるのがおかしいよね。

 一体何があったんだろう……。


「お嬢様。美羽さんがお見えです」

「うぅ、美羽さ~ん」

「美羽さん、お疲れ様です。千恵、お茶を……」


 二人とも目の下に隈が出てるけれど、ちゃんと寝てる?

 てか平日だけど学校行けてる? 大学はまだしも、中学校は休んじゃ駄目だよ?

 この書類の山は何だろう。見て大丈夫なやつかな? 通されたってことは大丈夫だと思うけれど、中学生だもんね、一応見ないように気をつけよう。


「一応聞くけれど、これは彩花のせい?」

「ち、違いますわ。大体芹香さんのせいです!」

「私のせいにしないでよ! 手伝わせたのはそっちじゃん!」

「先にこちらの手を借りたいと言ったのはそちらでしょう! 魔法少女支援策の都合でずっとこんな調子なのです!」

「はいはい、喧嘩しないの。とにかく、元気なら良かった」


 この二人は仲がいいのか悪いのか。

 ……こうなると、彩花がどうして私にあんなことを言ったのかが余計にわからなくなるかな。

 気を引くのが目的じゃなかった? ってことは、本当にあれらを言いに来てたのかな。

 その途中で私と争う可能性も考えてた。逆算すると、私が怒る可能性を考慮してた?

 私の――。


「うう、本当は美羽さんのお世話になる予定なんてなかったのに……」

「わたくしも巻き込みたくないと……」


 なんか悔やみ始めた。

 これ私の方考えてる場合じゃないかな。

 もう、この子たちは。


「子供が大人の都合を気にするものじゃありません。いいんだよ、頼りなさいって」

「だって……」

「その……」


 二人して凄い気まずそうな顔するねぇ!

 それどころか、顔を寄せてこそこそ話まで始めたよ。

 私に聞かれたくない話かな。

 まあ、本当に彩花に何かされたわけじゃなくて良かった。


 多分この子たちじゃまだ彩花と戦えないと思うからね。

 あの子は初見殺しが得意だから、正面からごり押しできないなら本当に強い。

 狙われたら逃げられない。


「美羽さん。先ほど彩花さんのお名前を出されてましたが、何かあったのですか?」

「うん。ちょっとね」


 彩花が魔法少女続けてただなんて、話しても信じてもらえるのかな。

 妖精と契約してない魔法少女なんて私は聞いたこともなかった。この子たちに言ってもわからないよね


「ひょっとして、彩花さんが魔法少女に変身したのですか?」

「えぇっ! な、なんでそれを?」


 千恵ちゃんが驚いた様子は全くない。

 完全に予想通りって顔だ。

 内緒話していた二人が勢いよくこっちへ振り向く。


「彩花さんが変身なさったのですか!?」

「美羽さんは大丈夫ですか!?」

「え? ああ、まあ、うん、大丈夫だよ」


 そう答えると、芹香ちゃんはほっと一息を。環ちゃんは、苦しそうな表情になった。


「みんなは、彩花が魔法少女の力を失ってないって、知ってたの?」

「……はい。先日、芹香さんが本人の口から直接教えてもらったそうですわ」


 その先は環ちゃんの口から、色々と教えてもらった。

 環ちゃんたちが何をしているのか、彩花がどういう風に見えていたのか。

 私を関わらせないようにした理由まで。

 全部は教えてもらえてないみたい。後ろめたさを感じている芹香ちゃんの様子を見れば、まだ隠し事をしていることはわかった。


 彩花と芹香ちゃんが最近よく関わってたことの理由かな。多分だけど。

 無理に聞き出す? それは良くない。

 軽く諭すぐらいにしておこうか。


「……わかった。でも、三人は少し大きな勘違いをしてるみたいだね」

「勘違い、ですの?」

「うん。三人はまだ、中学生なんだよ。本当なら、何も考えず楽しく遊んで、色々と学ぶだけでいい年のはずなんだ」


 魔法少女になった以上、それだけでいられないのはよくわかる。

 だからといって、普通のありがたみを忘れていいわけじゃない。

 私なんかの場合と、この子たちは違う。


「困ったら大人に頼る。辛くなったら辛いと泣く。学校には行って、友達と遊ぶ。それでいいんだよ」


 二人とも、何か言いたげな顔だね。

 芹香ちゃんだけはすました表情で部屋の隅でじっとしてるけど。


「じゃあこの書類は全部魔法少女支援策についてってこと?」

「はい。加えて彩花さんの身辺調査記録と、妨害行為を行っている集団についての調査記録が混ざっております」

「千恵ちゃん説明ありがとう。私が見ても大丈夫?」

「武様から許可は頂いております」


 想定済みなんだ。というか、この様子だと千恵ちゃんだけはバレること前提で動いてたっぽいかな?

 補佐役としての動きが身についてる……。


「じゃあ、私も手伝うから。そもそもなんでみんなでこんなことしてるのって感じではあるんだけど」

「お父様から後継者教育としての一環だと……」

「ああ……。じゃあ、うん、私からは強く言えないかな」


 お金持ちの家は大変だね。

 芹香ちゃんはさっき環ちゃんの力を借りようとしてって話が出てたから、巻き込まれ事故みたいなものかな。


「なるほど。彩花が何かしてると思ったけれど、ひょっとしてこれ関係で何かしてるのかな?」


 二人とも露骨に動揺して動きが止まった。

 うーん、可愛らしい。


「だから私には関わらせないように、か。気をつかってくれたのかな? ありがとう」

「うぅ……ですが、満足に処理できていないわたくしはまだまだ未熟ものですわ」

「繰り返すけどまだまだ子供なんだから気にしなくていいんだよ」


 本当ならそれこそ、全部国がやらないといけないことじゃないの? ここら辺の書類調整とかも。

 なんでそうしなかったんだろう。環ちゃんのお父さんも知ってるんだよね?

 国に任せられない理由……敵……ああ、そういうこと。

 てことは、本当に彩花はこの件に関わってるんだね。


「しばき倒しておけばよかったかな」

「ぶ、物騒ですわ!」

「ごめん。本当に彩花が迷惑かけたね」


 えっ。そこでどうしてきょとんとするの?

 この妨害してきた奴ってのは彩花の事なんだよね?


「多分、彩花さんではないです……」

「え? でも、え?」

「状況とタイミング的に、これまでの妨害行為に彩花さんが絡んでいる可能性は低いと思われます」

「ちょっと資料を読ませてもらっていい? 少し集中するね」


 何か、全然話が繋がって見えてこない。

 彩花が妨害してないんだとしたら、あの子は本当に何をしようとしてたの?


 資料を読む限り、多分妨害行為をしてたのはあの引き抜き行為してた人達かな?

 魔法の特徴が一致してるし、見たばっかりだからすぐに思い当たる。あの人払いの魔法なら、同じようなことができるはず。

 彩花はその人たちの手助けを得ていた。

 てことは関わってるもんだと思ったけれど。彩花が関わってるとすれば、かみ合わないところが幾つかある。


 この資料が間違ってないのなら、環ちゃんたちが言う通り彩花は無関係に思える。

 どういうこと?

 考えられる可能性を列挙してみよう。

 手は組んでいるけど、別々で動いてる場合。別々に動く理由はないし、私の時だけ協力する理由がない。

 手は組んでいない。じゃああの魔法はなんだったのって話になる。

 手を組んだのが、すぐ最近だった場合。……これは、一応あり得る選択肢になるのかな。矛盾はしない。


 そうなると、気になるのはどうしてもどうして? というところ。

 彩花の事だから、相手が環ちゃんたちの邪魔をしているのは分かってるはず。知らずに手を出しただなんてへまをする子じゃない。

 芹香ちゃんを気にかけていたのもそう。明確な意思をもって、導こうとしているのが分かる。

 その内容ってのも、芹香ちゃんが私に隠そうとするような内容で。確実に最終着地地点を見据えての行動だ。


 わからない。わからない。わからない。


『残念ながら、もう私の手を離れたよ。本当に、最後のピースが綺麗にはまってくれたおかげで』


 彩花は自分の計画についてそう言っていた。

 状況から考えるに、この二人の行動が彩花の目的へと導くんだと思う。

 あの子の悪だくみを止めるために辞めさせる?

 できるはずがない。


 芹香ちゃんから秘密の内容を聞きだせば対策も――それだけはあり得ない。

 二人の様子から見て、気づいてないうちに誘導されている可能性が高いのも確か。

 あの子だけが、私たちよりも確実な未来を見ている。


『もう一度聞くよ。何のために、美羽は魔法少女になったの』

『そこから目を逸らし続けていると……近いうちに、取り返しがつかないことになるよ』


 ずきりと頭が痛む。やかましいと黙らせようにも、頭の中の何かは言うことを聞きはしない。

 駄目だ。顔には出すな。三人に、心配させちゃ駄目だ。

 結局、私にできることは少なくて、今後は私も手伝うから、二人はなるべく日常生活を大事にするように言い聞かせることしかできなかった。

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