二十一話目 魔法少女は心配したい

 ◇ ◇ ◇


 自宅に帰って、のんびりムード。

 んー、久しぶりにいい運動したなぁ。動いた動いた

 明日はどんな風に変わってるだろう。それもちょっとだけ楽しみ。


「ん?」


 スマホが震える。取り出してみると、クリムセリア、芹香ちゃんから電話だ。

 ポチっと通話ボタンを押して、通話に出る。


「もしもし」

「あっ、今お時間大丈夫ですか?」

「うん、私は大丈夫だよ。どうしたの?」

「プリズシスタについてなんですけど……」


 おや、明日に備えての話かな? 何だろう。


「何か困ったことがあった?」

「言おうかどうか、迷ってたんですけれど、やっぱり美羽さんには相談した方が良いかなって思ったんです」


 言おうか迷ったってことは、あんまりよくない話かな。

 何があったんだろう? どうやって戦うかの相談途中に何か良くない傾向でも見られたとか?


「何かあったの?」

「んー、具体的には言えないんですけど、どこか怖いんですよ」

「怖い」


 あの子が怖い。怖いか。

 どういう怖いだろう。不良を相手にしたときの怖さではないだろうし。


「その、すみません言葉にするのが下手で。危ないとかの方がしっくりくる気がします」

「いいよ。ゆっくり整理しながら話してね」


 必死に言葉を選んでる感じがする。

 優しい、いい子だ。


「……何というか、少し前までの私を見ている気がするんですよ」

「少し前の、芹香ちゃんを?」

「はい」


 ふむ。これはじっくりと話を聞いた方が良いかも。

 あの時の芹香ちゃんは相当に追い詰められていた。もしも、私が見逃してるだけでプリズシスタが同じような状況なら、対応してあげないといけない。


「なんでかまでかはわからないんですけど、私を見てる時の目がおかしいんですよ」

「おかしい、というと?」

「なんて言うんでしょう。プリズシスタが指示を出すって話になってたじゃないですか。私に対しては、凄い顔色を窺ってたなぁって」


 ……ふむ。人見知りをするタイプにはあまり見えなかったかな。


「ごめん。もう少し具体的に聞いてもいいかな」

「はい。でも、上手く言えなくて……」

「じゃあ私から質問するね。プリズシスタは、指示を出したときに怯えてた感じだったの?」

「はい」

「作戦が決まって、指示を出すと決まった時には?」

「それは……その時には、安心してたような気がします」


 なら、やっぱり人見知りってわけじゃなさそう。

 人に指示を出すのが怖い? 対人関係の不信? 明るい子だから、そんな風にはとてもじゃないけど見えなかった。

 思い出せ。何かヒントはなかったか。


『それでも! わずかでも可能性があるならば、わたくしはやるべきなのですわ!』

『今のままではダメですの。今のままでは、魔法少女としての役割を果たせていない、役立たずですわ!』


 最初にあったの時の発言が、思い返された。

 役立たず。その単語によって、可能性が一つ思い浮かぶ。


「――自己肯定感の欠如」

「え?」

「ごめん。一回電話切るね。ありがとう、何とかしてみるよ」


 一方的な形になっちゃったけど、芹香ちゃんとの通話を終了する。

 私はなんだかんだ魔法少女歴は長い。長いから、いろんな魔法少女を見てきた経験がある。

 だから、どんな子が魔法少女になるのかもよく知ってる。基本は善良な子が選ばれるんだけど、強く魔法少女になりたい、誰かの助けになりたいと思う気持ちも影響してる。


 そして、時々いるのが、魔法少女であることしか自分の価値を信じられない子。

 誰かのために戦う魔法少女になることで、自分の価値を見出そうとする子がいる。

 それはどういうことか。生きるために、どうしても理由を必要としてしまうタイプの子だ。


 あの立ち居振る舞いが、虚勢の可能性がある。


「負け続けても続けてる。苦しいと感じてはいた。やるべきという発言」


 不思議なぐらいに繋がっていく。特徴が合わさっていく。

 直接プリズシスタに連絡する? いや、直接聞いても答えてくれるはずがない。

 こういう子は、心配させまいと必死に隠そうとするんだから。特にお世話になっている人に対しては。


「やる気があるのは嘘じゃなかった。特訓には本気で取り組んでたと思う」


 それは、魔法少女であり続けるため。思えば、魔法少女に強く固執してる傾向はある感じがした。

 きっかけは何だろう。人間関係にありそうな雰囲気がする。相手の顔色をうかがうってことは、他者評価が必要になるんだから。


「――先に連絡かな」


 考えるのは動きながらでもできる。なら、先にできることはしておこう。

 真面目なところはある子だったから、多分他の子に連絡はしているはず。プリズシスタにはB市の魔法少女だから、C市とD市の魔法少女にメッセージを送る。もしもプリズシスタから連絡が来てたら、教えてほしいって。

 すぐに連絡は返ってきた。セレネシアからだ。


 どんなやり取りをしたのかを教えてもらう。基本は他愛のない話、でも、やっぱりセレネシアを持ち上げている節が強いとのこと。

 コミュニケーションの一環として、相手を褒めるのはそう。でも、褒め返すと、一瞬返事が止まったらしい。

 自己肯定感の低い子にありがちな症状だ。褒められることに慣れてなくて、脳が拒絶反応を起こす。


 それで、最終的にはプリズシスタについて聞こうとしたところ、連絡が途絶えたとの事。

 ありがとうと伝えて、私は頭の中で情報をまとめる。


 多分、芹香ちゃんが感じたプリズシスタの危うさは正しいと思う。

 だから私も全力で対処する。

 魔法庁のカウンセリングの人たちは何をしているんだと思わなくもない。立て続けにこんなことが起こるんだから。

 今度新橋さんに苦情を入れておこう。


「B市の穂坂環……うわ、調べたら出てきた。企業の社長の娘さんなんだ」


 私も知ってるような企業だ。本当にお嬢様だったってことだね。

 本当なら、普段の生活を調べるような真似はしたくない。

 でも経験則で知ってるんだ。魔法少女であることでしか自信を持てない子は、必ず問題を起こす。

 耐え切れないんだ。心が、体が、魔法少女の大変さに。


 特に、プリズシスタは魔人とまともに戦えない。全戦全敗だなんて言われても戦い続けてるなんて、冷静に考えて異常だ。

 どれだけの葛藤を胸に抱えていることやら。……魔人と真っ当に戦える私たちを見て、何を思っていたことか。

 もしも、私のこれらの考えが全部杞憂なら、それはそれでいい。心配性だねで笑い話で終わる話だ。


 さて、こうなると直接連絡するべきかもしれないけれど……。

 なんて声をかけるべきだろう。

 話がしたい? ちょっと相談に乗ろうか? 違うな、どれもこの手の子の心を開かせられない。

 いっそのこと、明日の訓練まで待つのが正しいのかもしれない。


 実際に面と向かってあって、プリズシスタはしっかりと魔法少女としてこなせてるよって自信を与えてあげることが正解なのかもしれない。

 でも、何だろうこの不安感は。そんな悠長な事していてもいいのだろうかという不安感。


 迷いに迷って、そろそろ普段は眠る時間になっても悩んでいると、不意にスマホが鳴る。

 誰だろうと思ってみると、魔法少女アプリに連絡が入っていた。連絡の送り主は、トリムシスタ。

 送られてきたメッセージを見て、私は即座に通話モードへ切り替えた。


 お願い、出て欲しい。

 この文面を見て、そのままにだなんてできるわけがない。

 数回のコールの後、良かった、出てくれた。


「はい。何でしょうかルミコーリア」

「何でしょうか、じゃないでしょ!」


 思わず声を荒げてしまう。よくないのに。

 焦りで、配慮が足りていないことにも気が付けなかった。


「プリズシスタが魔法少女を辞めるかもって、どういうこと!」


 何が起きたのか知るべく、私は彼女から詳しい事情を聴きだすのだった。

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