十七話目 魔法少女は導きたい

「うーん。うーーーーーーん」


 魔力制御の感覚を二人に叩きこんで、少し様子を見た結果なんだけれどさ。

 ぶっちゃけてしまうと、私が見た限りではプリズシスタに戦いの才能はない。

 魔法も直接戦闘向きじゃない、本人の動きも、少し見た感じ決して良くはない。

 私は専門家じゃないから断言はできないけれど、私が教えるという条件に限って、この子がクリムセリアぐらいに強くなれるイメージが湧かない。


 じゃあそれを伝えるかというと、そういうわけにもいかないわけで。

 だって……この子は、わざわざルミコーリアを探して弟子入りを申し込んでくるぐらい熱心な子なんだから。その意気込みは汲んであげたい。

 だから、どうにかして活躍できるようにしてあげないといけないんだけど……ううん。


「ルミコーリア、大丈夫ですか?」

「クリムセリア、気を使ってくれてありがとうね。ちょっと考えてるだけ」

「……プリズシスタについてですか?」

「そうだね」


 まあ、バレバレだよね。

 個人的にはもう一個だけ気になることがあるけれど、考えるべきはプリズシスタについてだ。

 軽い組手してみた感じ、咄嗟の判断とか俊敏さには欠けるから肉弾戦はさせたくない。

 でも、魔力制御技術は悪くない。体は動かないけど、魔力は動かせてる。だからこれを活かしたい。

 活かす方法は、思いついている。でも、これは決して彼女の望みを叶えられる方法じゃない。


「……前提条件を確認したいんだけど、プリズシスタはどういう魔法少女になりたいの?」

「それはもちろん、魔人を倒し、人々を守る魔法少女に、ですわ!」

「うん、それは分かるよ。でも、今回は優先順位を聞きたい」

「ですわ?」


 あ、その疑問の出し方かわいい。じゃなくて。


「プリズシスタ自身の手で魔人を倒したいのか。それとも、人々を守れるなら、魔人は最悪倒せなくてもいいのか」

「それは――」


 迷ってる。今の私の問いは、暗にどちらかを選べと言っているようなものだからね。

 私の目から見て、彼女は彼女の理想の魔法少女になれない。そう、私は言ってしまった。

 後悔はしてない。教える側の立場として、理想を追い求めるよりも最善を追い求めるべきだと私は思うから。


「――当然、人々を守ることですわ。私の信じる魔法少女は、自分の利益のために戦うものではありませんもの。一瞬でも迷ってしまったこと自体が恥ずかしいですわ」

「……わかった」


 プリズシスタの目には、悔しさが滲んでる。同時に、強い意志も輝いてる。

 不甲斐ないなぁ。もっと私に何かがあれば、全部の願いを叶えてあげられたかもしれないのに。


「やっぱり、プリズシスタの魔法は他の魔法少女とのコンビネーション前提での戦いになると思う」

「補助的な役割を果たせ、とおっしゃるのですね」

「そう。直接プリズシスタが戦うという観点で言えば、幻影は非常に弱い魔法だよ」


 本人もわかってることだけれど、教えを請うた人から言われるのは厳しいものがあるみたい。明らかに、プリズシスタの表情が曇った。


「弱点も多い。相手に傷も負わせられない。そのうえで、プリズシスタに足りてない部分を補ってくれてるわけでもない」

「わかってますわ。でも――」

「そのうえで!」


 あえて、彼女が上げた声に被せるようにして声を張り上げる。


「他の魔法少女と組み合わさった時、プリズシスタの幻影の魔法は、極めて強力な魔法になる」

「……はぇ?」


 まったく予想もしていなかった、って表情をしてるね。

 それもそのはず。だって、これまでトリムシスタとデュオで戦っていたのに、プリズシスタは大して活躍できていなかったんだもの。

 聞いた話では、プリズシスタが倒れて、敵が油断した隙にトリムシスタの魔法で倒すのが基本戦術になっていたみたい。


「プリズシスタは、今まで幻影をどういう風に使ってた?」

「それはもちろん、囮役ですわ。光の兵隊を作り出して、数の脅威があるって……」

「その発想が、全てを邪魔してたんだ」


 幻影なんだから、相手に見せるもの。低燃費だからいっぱい出せる。

 これらは単体で使う場合の発想だ。私がこれから提案するものは、そもそも誰かと一緒に戦うこと前提の使い方になる。


「プリズシスタの幻影の魔法。その最大の使い道は、『魔法偽装』だと思う」

「魔法偽装、ですの?」


 頷く。ここから先はかなり難しいことを要求することになる。

 もちろん、できるようになるまで付き合う覚悟はあるし、できるようにする方法も考えてる。

 後は、彼女たちが最後までやる気を保てるかどうかだ。


「例えば、クリムセリア、あなたの魔法は何?」

「はい? 私の魔法は、『炎を操る魔法』です」

「ありがとう。トリムシスタは?」

「私は『切り取る魔法』と言い表せばよいのでしょうか」

「うん、そうだね」


 これらを聞いても、プリズシスタはピンと来てないみたい。

 そりゃそうだよね。


「私の経験則なんだけれど、魔人は私達魔法少女が魔法を使うことを知っている」

「当然ですわ!」

「そう、そのうえで、私たちがそれぞれ固有の魔法を使う事まで知っていると思ってる」


 クリムセリアが一足、あっと気が付いた顔をした。

 遅れて、トリムシスタも目を大きく開いて驚いた顔になった。


「確かに、私、炎を見せたら他の攻撃方法を警戒されたことありません」

「ありがとう。じゃあ、私の仮説は正しそうだね」

「で、では」


 トリムシスタが震える声で、私が言いたいことの先を答えてくれる。


「プリズシスタは、私の魔法が『切り取る魔法』以外のものであると、魔人に誤認させられるということでしょうか?」

「――その通り」


 この強さは、非常にわかりづらいものだ。

 でも、トリムシスタは理解している。理解してくれている。

 それもそのはず、彼女の魔法は、決まれば一撃必殺と言っても過言ではないものだから。


「それが、どうしましたの?」

「プリズシスタ。もし、私の魔法が確実に決まるとすれば、どう思います?」

「そんなの最強ではありませんか! でも、そうはできないから困っているのですわ」

「できるのです」

「え?」

「プリズシスタ、あなたならできるのです。私の魔法を、必中のものに」


 トリムシスタの魔法の欠点は、相手がその場から動くだけで避けられる当てにくさにある。

 では、もしも『動くことに合わせてカウンターしてくる魔法』の類だと相手が思いこんでいれば? そう、思わせる手段があるとすれば?


 プリズシスタも、遅れて気が付いた。自分の魔法の強さを。

 魔法が判明したとわかれば、相手も油断する。その油断を、容赦なく刈り取る。

 二人でならできる。では、三人では? 四人では?

 数が増えれば増えるほど、その凶悪さは増していく。


「プリズシスタ。あなたが目指すべき先は、多くの魔法少女を束ねて戦う集団戦、その指揮者になることだよ」


 もしも、プリズシスタの魔法をフルに活用して、多数の魔法少女が共闘するような場面があるとすれば。相手は、あまりにも膨大な量の情報量を捌かなければいけなくなる。

 集団戦になれば、幻影は魔法の誤認以外でも活用しようがある。


「例えば、味方の魔法少女の幻影を見せる。それを動かす。それだけで、相手はどっちが本物かの選択を強要される。例えば、味方の魔法の幻影を見せる。相手に投げつける。それだけで、相手に避けるかどうか考えさせられる」


 仮にクリムセリアが二人いたとして、あの火力がどっちから飛んでくるのかわからない。

 相手からすれば、本当に嫌な状況だと思う。

 しかも、プリズシスタの幻影は一瞬で多数を生み出すことができる。

 確認した限り、種類も別に出すこともできる。攪乱、誘導にはもってこいだ。


「もちろん、実戦で即座に判断して魔法を使うのは凄い難しい」

「ど、どうすればいいんですの」

「簡単だよ。できるようになるまで、体に覚え込ませればいいんだから」


 えっ、と困惑の声が誰かから漏れた。

 私はそっと、三人から距離を置き、向き直る。


「私が相手になる。三人がかりで、かかってきて」

「そ、それは!」

「まともにやれば無理かもね。でも、幻影を上手く活用できれば、攻撃ぐらいは当てられるでしょ」


 クリムセリア、プリズシスタ、トリムシスタの三人の動きを見てた感じ、本気でやれば私に一撃ぐらいは入れられるんじゃないかって思ってる。

 でも、それはプリズシスタがしっかりと働いた時の話。

 だから繰り返そう。プリズシスタがしっかり自分の能力を活用できるようになるまで。


「今からの練習メニューは、私相手の実戦形式の組手。じゃあ、さっそく始めよっか。時間がもったいない」


 プリズシスタの幻影はよく見れば見破れる。でも、魔力制御をしっかりすれば見破りづらくさせられる。触れればバレちゃうけどね。そこはご愛嬌。

 体で覚えていこうか。戦いの場において、咄嗟にできないことはできないのと同じだから。

 それじゃあ……始めようか。悪いけど、それなりに本気でやるからね。

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