十二話目 魔法少女は相談したい

 ◇ ◇ ◇



「こんにちは、新橋さん」

「此度はご足労いただきありがとうございます、久遠さん。本来は私の方から伺うべきなのですが……」

「やだなぁ。新橋さんは日夜魔法少女たちのために働いてて忙しいじゃないですか。研究室にもまだ入ってないんですから、時間ぐらい捻出できますよ」


 今日、私は新橋さんと話をするために魔法庁までやってきていた。

 魔法庁っていうのは、魔人被害が出始めて魔法少女が現れて、ちょっと既存の枠に捉えるのは厳しいから新しく作られた庁らしい。まあ、私にはよくわからないけれど、魔法少女関係は魔法庁で決まってるぐらいに思ってる。

 このぐらいの認識で困ったこともないしね。


 応接室? に案内されて、互いに向かい合うように座る。


「本題に入る前に……日常生活の方はどうですか? 支援の方に不備があるとかは」

「いや、正直十二分には貰ってますよ。お金も特典も。使ってない方が多いですもん」

「何か不足していることがあれば遠慮なく仰ってください。用意しますので」

「あはは……」


 魔法少女には数々の特典がある。例えば、魔法少女専用アプリ経由で政府加盟店での食べ放題クーポンが発行されたりするし、夏休みシーズンには旅行とかも行かせてもらえる。ああ、もちろん魔法少女アプリ自体でじゃなくて、連携しているアプリが存在するんだけど。

 家族にはアプリの景品で当たったとか説明してるみたい。


 二十歳になった私は、バイトとかもできない分生活費を稼ぐ手段がないので、それ用の金銭支援も貰ってる。

 けどねぇ、私はバイトとかの人間関係に憧れてるのよ。一緒に働く仲間と雑談したり何だったり。そりゃ、楽しいことばかりじゃないだろうけれど、一生魔法少女やってるわけにもいかないだろうし、経験は積んどきたい。


 十六歳で辞める子が多いのもそういう事じゃないかな?

 魔法少女やってると人間関係がまばらになるから、羨ましいんだよね同年代の子たちが。十六にもなれば、後輩の魔法少女たちが育ってきてるから、気持ち的にも辞めやすいし。

 下の世代が育つと、メディアの注目もそっちに移っていくしね。名誉欲の子たちも少しずつ冷めていくというか。


 そもそも魔法少女に選ばれるような子たちって根本的に人の役に立ちたくて、物欲が薄いって子が多いとポムムは言ってた。魔法少女の力を犯罪に悪用するようなことがあってはならないからって。

 似たような性格の子を選んでるから、行動も似通うんだろうねー。

 ある程度行くと、普通の女の子に憧れるのすら同じなんだろうし。私もそう。


「それで、今日はなんのお話が聞きたくて私は呼ばれたんですか?」

「この間クリムセリアが倒した魔人が、三大極大魔人を名乗っていたと聞きました」

「んー。ああ、確かにそんなこと言ってましたね。らん、何とか? ちょっと名前までは憶えてないですけど」


 なんか特別なのかな? 私が相手している連中は全員似たようなこと言っているけれども。

 流石に全員が全員同じようなことをいうから、いちいち覚えるのは止めちゃった。


「そこで、倒したときの状況を詳しくお聞きしたくてですね」

「いいですよー。クリムセリアからは聞いたんですか?」

「容体が安定してから、お話はうかがいました」


 そりゃそうか。

 クリムセリア――芹香ちゃんは、結局入院することになった。

 魔法少女には治癒専門の子がいて、怪我はその子に治してもらったけれども、よっぽど消耗が激しかったらしい。

 家族にはなんて説明したんだろう。それっぽいこと言ったのかな。ショックを受けて貧血みたいな。


 魔法少女が怪我して入院すると、期間が重なってたことから、周りから魔法少女じゃないかって疑われたりすることがあるのが心配かな。

 政府側がカバーストーリー用意してくれるみたいだけどさ。心配は心配。


「それじゃあ話しますけれど――」


 取りあえず、私が見たことをざっくりと話す。やっぱり心配になって後を追いかけたら魔人騒動に出くわしたこと。

 それで変身して行ってみれば、クリムセリアがボロボロになって倒れてたこと。

 魔獣たちはなぎ倒したけれど、魔人はクリムセリアが倒したいって言ったから譲ったこと。

 ざっくりと、それらを話した。


 話を聞いた新橋さんは少し難しい顔をしていた。


「……ふむ。クリムセリアから聞いた話と一致しますね。ありがとうございます」

「ええ、私で力になれたなら幸いです」


 これが何か大事なのか、とかは聞いても答えてもらえなさそうだよね。

 だから、聞かない。偉い人の考えることはよくわからないから。

 ただ、新橋さんは魔法少女の事をよく考えてくれてるってことは分かってる。負担状況だとか、メンタルケアだとかに熱心に手を入れてくれてる人だから。


「私の方からも一件相談があるんですけれど、いいですか?」

「はい。なんでもどうぞ」

「クリムセリアでの件なんですけれど――」


 私は今回の発端となった、クリムセリアが追い詰められてた件について話した。

 これは、政府がクリムセリアをアイドルとして積極的に全面に押し出したのが影響したと思ってる。だから、政府には反省してもらいたい、とも思ってる。

 今後こういうことをするなら、メンタルケアを重点的に、かつ孤立しないように配慮してほしいという内容を、大雑把にまとめて伝えた。


「……なるほど。現場での意見、大変参考になります。こちらの不備で申し訳ございません」

「謝るなら、クリムセリアに何かご褒美をあげてくださいね。苦労したのはあの子なんですから」

「是非そうさせていただきます。他に何かございますか?」


 他に、かぁ。うーん、特にないんだよなぁ。

 私の方はまだまだ辞められそうにないし、この話を新橋さんにしても仕方がないし。

 ああ、そうだ。これを聞くだけなら大丈夫かな?


「じゃあ、お言葉に甘えて一つ質問なんですけれど」

「はい、何でしょうか」

「あのニュース、ルミコーリアがクリムセリアの師匠だってどのぐらい広まってますかね……」


 あっ、すっごい微妙な表情になった。これひょっとしなくても相当広がったな?


「えーっと、ですね。我々としては魔法少女当人の意向をできる限り汲みたいと考えておりまして……」

「辞めさせてはくれないのにですか?」

「それは、はい。申し訳ありませんが、国家の存亡に関わりますので」


 もう、本当に大げさなんだから。たかだか魔法少女が一人いなくなっただけで国が滅ぶわけないじゃん。

 でもまあ、悪い気はしない。必要とされてるってことだから。

 それ以上に青春したいって気持ちが強いから、辞めたい気持ちは変わらないんだけどね。


「それでは、本日はこれでお開きということで。貴重なお時間ありがとうございました」

「いえいえ、暇な大学生ですし、協力できるならしますよ」

「ありがとうございます」


 そのまま、庁の出口まで見送りしてもらう。

 わざわざそこまでしてくれなくていいんだけどなぁ。新橋さんは丁寧だから、本当に好感が持てる。

 無理してないといいけれど。官僚だから大変なんだろうなぁ。


「お姉さん!」

「あれ、芹香ちゃん!?」

「えへへ、来ちゃいました」

「もう退院して大丈夫なの?」

「はい! しっかり治してもらいましたから」


 元気いっぱいにその場でどこにも怪我はないですよとくるくる回って見せる芹香ちゃん。本当にかわいらしい。

 ともかく、後遺症がないようでよかった。学校にも、これで戻れそうだね。


「えへへ」

「おっと。もう、甘えたがりかな?」

「人肌恋しいんですー」


 その後はこっちに寄ってきて、ぎゅっと抱きしめてくる。

 こんな楽しい感じを出されたら、怒るに怒れないや。

 師匠だなんだって、世間では割と好意的に受け取られてるけれど、一部のクリムセリアファンの人たちは否定的に捉えてるみたいだし。

 今後、芹香ちゃんは苦労することになるんだろうな。私のせいで。


「あー、今私のせいでみたいなこと考えてましたね?」

「はぇっ!? そ、そんなことないよ?」

「いーえ。考えてました。この芹香ちゃんにはそのぐらいお見通しです!」


 本当に元気だなぁ。いや、元気でよかった、だけれども。


「今日はなんでここに?」

「えへへ、美羽さんが来てるって聞いて、迎えに来ちゃいました!」

「そっか、ありがとうね。じゃあ、近所でお茶でもしてから帰ろうか」

「本当ですか! やったぁ! 美羽さんとデートだデート!」


 あの一件で、本当に吹っ切れたみたい。時々顔を出していた暗さが見えなくなった。

 色々と変わってはしまったけれど、良い方向に転んでるんだとすればいいな。


「……あと、ネットの使い方について、芹香ちゃんには言いたいことがありますからね」

「ええっ!」


 軽く笑いながら、私たちはカフェで楽しくお茶をした。

 和やかに、今回の終わりが平和なもので良かったと感じながら。








~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 これにて第一章クリムセリア編完結です。


 また、ここまでで面白いと思っていただけましたら、☆、フォローして応援いただけるととても嬉しいです。


 では、引き続き第二章プリズシスタ編もお楽しみください。

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