第14話 収穫祭前日、大神殿にて(2)

「勇者イートバニラの故郷ティロット村の名物は、サツマイモ。そして村一番大きくて、村一番古い大風車。この2つの情報に加えて、『サツマイモ栽培発祥の地』、『風車が勇者となった証』という情報を加えたら、1つの可能性が見えて来る」


 俺がそう言うと、大司教マグマルマと神官たちは「気付いたのか」と言う顔を俺に向けていた。

 そう、これらの情報が全て事実だとすると、導き出せる答えは――




「勇者イートバニラが、サツマイモ栽培するために、犠牲になったという事だ」




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 私の仮説は、こうだ。


 昔。ティロット村では、とある運動があった。

 それはいま栽培している作物から、サツマイモを栽培するように変えるという、農民達による抗議活動だ。

 なんでサツマイモに変えたかったのかは、今となっては想像するしかない。他の村と差別化を図りたかったからなのか、あるいはサツマイモの方が収穫量が増えるという試算があったからなのかは分からないが、ともかくティロット村ではそういう活動があった。


 どの時代でも、貴族や王族などといった上の者に意見するというのは、非常に反逆的な行為として受け入れられる。それでもなお、彼らには村長という上の者に、その要求を通したいという欲望があったのだろう。


 その抗議活動は激化し、最終的に当時の村長は農民達の訴えを組んで、サツマイモを栽培する事に決めた。


 ――とまぁ、ここまでは良い。問題はその後だ。


 要求が通った事で浮かれた村人たち。そして、彼らは思わぬことをしでかしてしまう。


 そう、大風車に火を点けたのだ。そう、恐らく火事で燃えたのだ。

 あの風車は、あの村で一番古い建物だ。つまりは、他の建物が建て替えられる前に、何らかの事情で建て替える事態になったと考えるのが自然だろう。

 可能性としては、魔王軍による攻撃もあるが、俺としては誰かが意図的か、偶然かは分からないが、ボヤ騒ぎを起こしたと考えている。その方が、この後の仮説にすんなりといけるからな。


 そして、大風車が燃えると、もう1つ、燃えそうな建物がある。

 それは村長の家。いまの村長であるアケルの家は、風車の丁度横にあった。あの大きさの家だ、村の敷地から考えて今も昔も、あそこにあったと考える方が自然だろう。


 そうして、風車と村長の家が燃えてしまった中、問題が生まれる。それは、誰がこの事件の処罰を受けるか、だ。


 サツマイモ栽培に変更するというのは、そんなに簡単なモノじゃない。当時から考えると「その時の村長の決定を、村人たちの手で無理矢理変更させる」というくらい、大きな事だったのだろう。

 そんな中、村長の家が燃えてしまったのだ。当然、誰かが責任を取らないといけない。


 そこで白羽の矢が立った、つまり"村長の家を燃やした責任を取る"事になったのが――



「勇者イートバニラ、彼らだったんじゃないか?」




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「そうして、イートバニラは勇者となった。魔王を倒した英雄という称号の前に、彼は"村の責任を代わりに負ってくれた犠牲者"という事で、勇者と呼ばれるようになったのだろう」


 皮肉な話だ。

 もし仮に、俺の仮説が全て事実だとするならば、イートバニラにとって、"勇者"という称号は、迷惑な事を押し付けられる存在に過ぎないのだから。


 まぁ、俺の話は、あくまでも仮説だ。いくつもの情報を取捨選択しながら、こうなんじゃないかと考えただけの、あくまでも仮説であり――



「お前らが考えた説とも合っている、という事だな」



 ――大司教マグマルマと神官たちが、俺の仮説を聞く度に顔を歪ませていたのを考えると、そういう結論になるよな。


 そう、コイツラもまた、俺と同じような仮説に辿り着いたのだ。

 そして、守護龍様を怒らせる方法を思いついたのだ。


「それがこのサツマイモ。そうだろう?」

「バカバカしい、妄想だな。仮にいまお前が話した事が事実だとしても、そんなサツマイモなんかで、守護龍様が怒り狂うとでも?」

「あぁ、そう思うね。何故ならこのサツマイモの名前は――」


 そう、アケル村長は実に頭が良い。話している内容からしても、彼がぼんくらでない事はすぐに理解できる。

 そんなぼんくらじゃないアケル村長が、自分の村があの勇者イートバニラの故郷だと知ったとしたら、村の特産品であるサツマイモに、新品種にこう名付けるんじゃないだろうか。



「――『勇者・・サツマイモ・・・・・』、だろう?」




 この国で一番大きな出来事は、やはり勇者イートバニラ一行による魔王討伐である。それは200年も経った今でも、色濃く残っている。

 そして商魂逞しい人達は、その勇者達一行をビジネスとして活躍させることにした。


 ――ここは、勇者様一行が泊った宿です。

 ――ここは、勇者様達が村の子供達と遊び疲れて寝転がった草むらです。

 ――ここは、勇者様達が修行のために使ったかもしれないという謂れのある大樹です。


 などなどと、勇者様との縁を使って、観光地ビジネスを展開している。いわゆる、勇者ビジネスというヤツだ。

 実際、ティロット村の先代村長さんとやらは、今から10年ほど前に、大風車を潰して、新たに勇者イートバニラの黄金象を建てようとしたのも、勇者の故郷に勇者の像を置くことで、勇者ビジネスとして一旗揚げようとしたから起こした行動なのだろう。


 そんな中、アケル村長が勇者の故郷であるティロット村を盛り上げようとして、村の作物であるサツマイモで良いのが出来たら、そりゃあやっぱりつけるよな。

 『勇者』の故郷で出来た『サツマイモ』、『勇者サツマイモ』ってなぁ。


 それが、守護龍メサイアウト様にとっては、許せなかったのだろう。




「守護龍様が燃やした倉庫、あそこに入っていたのも勇者サツマイモだって事は想像がついている。守護龍様はそのサツマイモの事がよっぽど嫌いだったんだろう、燃やしたいほどに。

 魔王を倒したからこそ、勇者と呼ばれた。それは名誉の称号だ。誇っても良い。

 だがあの故郷の村で、イートバニラに与えられた勇者という称号は、"勇者リーダーとして、責任を取れ"という不名誉な称号だ。それはただの侮蔑だ。


 守護龍様は旅の中で、その事を勇者様から聞いたんじゃないか? 自分の村で起きた、過去の出来事の1つとして。


 だからこそ、許せなかったのだろう。

 相棒であるイートバニラは、サツマイモのために故郷を追われたのに、そのサツマイモに『勇者サツマイモ』なんて名前が付けられたら――」



 俺がそう、推理を披露していたその時である。




「――あぁ、きっと何もかも焼き滅ぼしたいと、強く願うだろう。私達の・・・思惑通りに・・・・・


 大司教マグマルマは、そう自白したのであった。

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