第31話 夏目 海斗の峻別
俺の警告が
俺もレーナも、いつも通りの学校生活を送っている。
今もレーナと一緒に理科室で実験の授業を受けた後、教室に戻るために廊下を歩いていた。
「今日の実験すごかったねー!アルミニウムと磁石を組み合わせただけなのに、上に置いた筒が勝手に動くなんて!」
隣を歩くレーナは興奮がおさまらないのか、目をキラキラさせながら歩いていた。
今日の実験は、いわゆるローレンツ力と呼ばれる、磁場の中に置いた導体に電流を流した際、その導体に力が作用する現象を確認するための実験だった。
ローレンツ力は電磁気学の基本的な概念で、有名なところではモーターの動作原理として知られている。
最近は、レールガンへの応用もニュースになっていたか。
そんなことを考えながらレーナと歩いていると、教室にたどり着いた。
そのまま教室に入ろうとすると――
「ねえねえ。
「九条さんがこんなに長く学校休んだの初めてだよね。先生は風邪だって言うけど、本当かな……?」
そんな会話が隣のクラスから聞こえてきた。
そちらを見ると、男女問わず10名近い生徒が集まって、九条を心配する会話を続けている。
どうやら九条が人気者というのは本当らしい。
そうか。九条は学校を休んでいるのか。
「ねえねえ、
九条の抱えるストーカー問題を知っているレーナは、心配そうな顔をして俺に話しかけてきた。
「――レーナの気持ちも分かるが、これは九条の問題だ。本当に危なくなったら、大人たちが動く。だから心配するな。」
そう答えておく。
「……そうだよね。海斗くんも気にしてくれているみたいだし、そこは安心かな。私に手伝えることがあったら言ってね!」
いや、正直俺は何も気にしていない……。
さすがに口に出す訳にもいかず、俺とレーナはそのまま自分たちの教室に入った。
そのような会話をした放課後、レーナは塾があるということで先に分かれ、俺は習い事に行くため、駅への道を歩いていた。
すると――
「――そこの君!!」
後ろから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「――――――――――」
俺は、石田の
頭が急速に冷えていくのを自覚しつつ、振り返る。
「――警告はしたはずだ。」
そう告げる。
だが、石田はそんな俺の言葉が耳に入らないのか慌てた様子で
「最近、九条さんに会えないんだ!君、何か理由を知らないかい!?」
そんなことを言ってくる。
「知らん。」
短く返す。
だが、石田は俺の言葉に納得ができなかったのか、さらに会話を続けた。
「そんなはずは……。そんなはずは無いんだ……。九条さんに会えないなんて。君は本当に理由を知らないのかい!?」
だから知らん。
もはや呆れて言葉も出ず、そのまま1人で慌てている石田を放って、駅に向かおうと
「――君が知らないなら、あの金色の髪の女の子に聞いてみるべきか……?」
そんな言葉が、俺の後ろから聞こえた。
「――――――――――」
俺はこの瞬間、この男への対応方針を決定した。
そして、石田を置いて、駅への道を歩き始めた。
石田とのやり取りがあった日の翌朝、俺は九条の家を訪れていた。
以前に公園で相談を受けた後、家まで送った際は、まさか再度訪れることになろうとは夢にも思っていなかった。
インターホンを鳴らす。
『――はい。九条です。』
大人の女性の声だ。
おそらく、九条の母親だろう。
「おはようございます。九条さんの同級生の
九条は学年の人気者だ。
理由としては真っ当だろう。
『まあ!わざわざ家にまで来てくれるなんて……。
九条の母親はそう言って、インターホンを切った。
しばらく待っていると、玄関のドアが開き、
「夏目くん……。」
その顔は、以前に公園で話した時に比べて、明らかに衰弱して見えた。
「朝早くに悪いな。」
「いや、大丈夫だ……。でも突然、どうしたんだい?」
そう話す九条に、俺は用件を伝える。
「事情が変わった。お前の抱えるストーカー問題を解決するため、俺にも手伝わせてくれ。」
その俺の言葉を聞いて、九条は驚きに目を丸くした。
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