第3話 それぞれの戦い
【お姉さん】
主人公。特殊な性癖の持ち主。
【アイリス】
捨てられた大樹に住むエルフの年長者。1158歳。仲間を守るため、いにしえの魔術を使ってお姉さんを異世界から召喚した。
しばらくして、私は大樹の中の部屋で一人になった。
「よし、やるか」
アイリスちゃんには「ちょっと瞑想をするから、一人にしてほしいな」とだけ伝えて、ほかの部屋に移動してもらった。
私はステータスウインドウを開く。
アイリスちゃんが不安そうにうつむいている姿がそこに映る。
そう、さっき気づいたのだが、このステータスウインドウには強化する対象の現在の姿を見る機能がついている。まあ確かに、強化の効果がどれだけあるのかリアルタイムで確認したいこともあるだろうから、こんな機能がついていてもおかしくはないだろうけど。
ただこの表示機能はそれだけじゃなくて、ほかにもいろいろな効果がついている。
例えば、表示の回転、周辺障害物の透過、思考の確認、などなどなど。
これを作った人は、どんな使い方を想定してたんだろうね?こんなのもう悪用しろと言っているようにしか思えないよ。
「うへへへへ…」
いままで意識してなかったけど、私が着せられていたこの服はエルフの服なのかな。生前はこんな服持ってなかったし。私がいままで居た世界のものと比べるとやっぱり品質があまりよくなくて、特にこの下着なんて近くでよく見ると様々な色の糸が混ざっている。
まあ、そんなことはどうでもいいか。私は手に持っていたパンツを放り投げると、ステータスウインドウを開いた。
しばらくして、私が部屋の外に出たのとほぼ同時くらいに、大樹の扉が大きく開け放たれた。
アイリスちゃんとは別のエルフの女の子が息を切らしながら飛び込んでくるところだった。あの子もあの子でかわいいけど、今はそれどころじゃないので彼女かわいさを語るのはやめておきます。
「た、たいへん!アイリスちゃん!魔族がすぐそこまで…」
エルフの女の子はアイリスちゃんをちょっと見た後で、私の存在に気付いたようだ。言葉がそこで止まる。
「ま、まさか…その人は…」
私はアイリスちゃんの肩を優しくたたいて声をかける。
「大丈夫、アイリスちゃん。行っておいで」
「…ああ」
アイリスちゃんはいまきっととてつもなく不安なのだろう。それはステータスウインドウを見なくてもわかる。表情だけはかろうじて平静を保っていたものの、小さな肩がかすかに震えているのが分かった。
強化ポイントの効果が本当にあるのかどうかは、アイリスちゃんにも、私にもわからない。だからいきなり実践で試してみるしかない。
でも、私はやれるだけのことをやった。
アイリスちゃんに続いて私も大樹の外に出る。アイリスちゃんに召喚された私はアイリスちゃんの魂とつながっている。だから、アイリスちゃんが生きている限り私は傷つくことはない。だから、私が魔族に襲われても問題はない。
でも、今心配なのはそこじゃなくて、アイリスちゃんが無事に魔族に勝てるかどうかだ。
果てしなく遠くまで、黒い姿が大地を埋め尽くしている。これが全部魔族なのか。これならば確かに熟練の戦士が数人いたところでどうにもならないだろう。
魔族たちに向かって立つアイリスちゃんの背中が、いつもより小さく見える。
急に、魔族の群れがうなりをあげて動き出す。まるで黒い大波が襲ってくるかのように、アイリスちゃんに向けて殺到する。
「私は…私は…」
アイリスちゃんが自分自身を奮い立たせるように何度も言い聞かせる。
うつむいていた顔を上げて、魔族をにらみ、ちいさな腕に力をこめる。
あと数メートル。アイリスちゃんに飛びかかっていく魔族たちの姿は、まるで一匹の巨大な生物のようだ。
スローモーションのように感じられる緊張の中、魔族達がアイリスちゃんに触れるその瞬間。
「私は!おねえちゃんを!信じてる!」
その叫びとともに、アイリスちゃんの右手から光線が飛び出した。
最初は一本だけかと思った。でも違った。同じ太さの光線が、全ての魔族の頭部めがけてきらめいた。
アイリスちゃんに飛びかかっていた魔族も、はるか彼方で様子をうかがっていた魔族も、すべて。
そして数秒後、そこには草原だけが広がっていた。もともと何もなかったかのように。
…まあ、これにはアイリスちゃん本人が一番ドン引きしていた。
「は、え…えぇ…」
何が起こったかまだ理解できていない様子で、構えた右手をまだ下ろせないでいる。
「え…?」
「なに…いまの?」
「夢…?」
ほかのエルフの女の子たちもみんな訳が分からない様子だった。
よし、ではここでお約束のアレをやっておきますか。あれ?私何かやっちゃいました?
誰も言葉を発しない中、いつまでも状況が先に進まないのもアレだったので、私が真っ先にアイリスちゃんをほめに行った。
「ははは。いやーやっぱりアイリスちゃんすごいねー。まさか一撃で決着がつくとは」
アイリスちゃんの首がゆっくりとこっちを向く。
「い、いったい、何をしたらこんなことになるのだ…?」
「何って、そりゃ何をしただけですけどね…」
未成年(エルフ年齢換算)の少女の前で何が何なのかは言わないほうがいいだろう。
私は、アイリスちゃんへの愛を高めるためにやるべきことをやっただけだ。
大樹の部屋の中で、私はアイリスちゃんへの愛を高めたのだ。アイリスちゃんが絶対に魔族に負けないように、何度も何度も。本当に指が疲れたよ。
アイリスちゃんを守りたいという気持ちを、高めに高めて高めまくった。その結果として、事前の私の予想通り桁違いのポイントを獲得することができたのだ。
強化ポイントの効果がわからないからアイリスちゃんがどれだけ苦戦するか不安だったけど、やっぱりあれだけポイントをつぎ込んだならそりゃ圧倒的な強さになるよね。
アイリスちゃんが呆然としながら、ステータスウインドウを開く。
そこには、「10000000強0化0ポ0イ0ン0ト0:000000P」と表示されていた。6ケタ以上は想定してなかったみたいだね。表示がバグっちゃったよ。
「こ、こんな、莫大なポイントを…?」
「まあ、それはアイリスちゃんを強化した後のあまりのポイントなんだけどね…」
「そ、そんなに、私たちのことを…」
アイリスちゃんが泣き崩れる。
「な、なにもお礼をできないって、わかってるはずなのに…!それなのに、こんなにポイントがたまるくらい、私たちのことを、守りたいって…!」
「あ、あー…うん。そうだよー。本気で守りたいって思ってるからねー。あはははは…」
私は苦笑いした。こんなに感激してもらえたなら、アイリスちゃんに本当のことは伝えないほうがいいだろうな…。
さて、戦闘が終わった後、アイリスちゃんはすぐに気を失ってしまった。ほかのエルフの女の子(宝石のようにかわいい)によると、ただ泣き疲れているだけで特に問題はないということだった。
みんなを守るという責任がよっぽど重かったのだろう。大人でも勝てなかった敵を相手に国を守るなんて、やっぱり彼女のような幼いエルフの女の子が一人で抱えるには責任が大きすぎたのだ。
私の前では強がっていたけど、やっぱり彼女は見た目通りまだまだ幼い女の子。
すやすや眠っているアイリスちゃんを背負って、私は大樹に向かって歩き出した。
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