兄が私に隠していたこと。
黒い猫
第1章
第1話
春――と言えば「出会い」や「別れ」が連想されやすいだろう。
そして、この「出会い」と「別れ」が交錯する一つとして『クラス替え』というものが存在する。
「おお! 一緒なクラスか!」
「えー、今年もお前と一緒かよー」
「なんだよー! いいじゃねぇか!」
「あーあーうるさいっ!」
なんて口では言っているけど、実は嬉しさが隠せていない男子生徒の姿とか。
「一緒なクラスだって!」
「嘘っ! やったー!」
喜びを既に爆発させている女子生徒。
「……離れちゃった」
「うん。でも、休み時間には遊びに行くから」
「部活は一緒だし。ねっ?」
そうかと思ったらクラスが離れて泣きそうな子を励ましている友人の姿。
「……」
本来であればこうした「前の学年で友達だった子と一緒なクラスになれるかな?」とか「誰と一緒なクラスになるのだろう?」といった不安と期待を持ってこの日を迎える人が多く、今も玄関前に張り出されたクラス分けの結果を見て一喜一憂しているのが生徒がほとんどだ。
「――あ、二組か」
しかし『
その途中の廊下では既に新しい教室に荷物を置き終えた生徒たちの姿がチラホラと見え、友達と楽しそうに話している人たちの姿。
「確か、二組は……と」
ようやく見つけた教室の中を見ると、そこには廊下と同じように楽しそうな会話をしている人もいるにはいた。
しかし、もちろんそんな人たちだけではなく、自分の机で一人読書をしたり音楽を聴いて過ごしていたりする人もいる。
そして、中には話しかけるタイミングが分からず挙動不審になっている人もいて……と、それぞれリアクションは様々だ。
この学校では毎年『クラス替え』が行われている。
つまり、たとえ一年生で仲良くなったとしても二年生でも同じクラスになる可能性が必ずある訳ではない。
そうなると、せっかく仲良くなれてもクラスが違えば時間割が違う事もしばしばで、たとえ休み時間でも場合によっては移動教室や着替えなどの関係でなかなか顔を合わせるのも難しくなってしまう。
仁比山は今年三年生になるが、実は二年生の時に行われた初めてのクラス替えの後にようやくその事実を思い知った。
しかも「休み時間になったら遊びに行くから」と言っていた一年生の時の友人だった人は新しいクラスで新しい友達が出来たらしく、仁比山の事は後回しにする事が増えた。
でも、仁比山も仁比山で新しいクラスで友達を作れば良かったのだけど、最初の出足が遅かった事も災いし、結果として二年生の時はほぼ一人で過ごした。
そして今となっては「良い経験」として仁比山自身納得している。
ただ、その時の事を思い返すと「寂しかったなぁ」とは思いはするが、実はそこまで気にしていない。
きっとそれは友人も相手もそうだろう。
どちらにしても、三年生である今年は最終学年。今の季節を迎える頃には卒業だ。
たとえ今から新しい友達を作ったとしてもすぐに卒業になってしまうし、受験だってある。それならばいっその事友人など無理に作らずとも勉強に集中していればあっという間だろう。
「――ここか」
黒板に張られた座席表から自分の名前を見つけ出し、仁比山はゆっくりと自分の席へと向かって腰を下ろした。
「……」
ちなみに仁比山の席は六列ある列の真ん中の一番後ろの席だった。
「……よかった」
正直な事を言うと、実は後ろに誰かがいるというのはあまり好きではない。前ならともかく、後ろがうるさいのはどうにも落ち着かない。
もちろん休み時間であれば席を外せばまだ問題はない。
ただ、授業中ともなるとそう簡単な話ではないだろう。だからこの席は仁比山にとってはものすごくありがたかった。
「――と、ここだな」
そんな事を考えている内にどうやら仁比山の前の席であろう男子生徒も来たらしく、そして私の予想通り男子生徒はそのままその席に座った。
「……」
見た感じはそれなりの高さはあるものの、目の前の黒板を隠してしまう程ではない。
これには仁比山は思わず「はぁ」と安堵のため息をついた。
なにせ、クラス替えの前の席はかなり体格の良い男子生徒が前に来てしまったせいで授業中はかなり苦労した。
しかし、今回はどうやらその心配はなさそうだと思いため息をついたのだが……。
「ん?」
仁比山は小さめにため息をついたつもりだった。しかし、どうやら目の前にいる男子には丸聞こえてしまったらしく、仁比山の方へ体ごと向けた。
「あ、すみません」
決して悪気があった訳ではない。しかし、こんなタイミングでため息が聞こえたらきっと良い気はしないだろうと私は謝った。
「……」
しかし、当の男子生徒は私の姿を見るなりなぜか固まっている。
「?」
そして実は仁比山自身も「どこかで見た事がある様な?」と思っていた……のだだが、見た目に分かりやすい特徴があるとも言えずどうにも思い出せない。
「仁比山って……仁比山だったのか! 久しぶりだな!」
「??」
ようやく話したと思ったら男子生徒は何やら嬉しそうな顔をしている。しかし、仁比山自身が「久しぶり!」と嬉しそうに言われても全く誰か分かっていない。
「覚えてないか? 二井見だよ。
「隣に住んでいた?」
自身を「二井見」と言った男子生徒をよく観察したものの、なかなか合致しない。
「そうそう。町内会のお祭りとか学校も一緒に行っただろ?」
「……」
仁比山の住んでいる町内会では毎年バーベキューなど色々なレクリエーションやお祭りなどが行われており、飯山もそれに何度か参加した事があった。
その時は確かに同じ町内の子たちと一緒にお祭りなど楽しんで……今となってはあの時が一番楽しかったとも言える程の思い出……ではある。
「にいみ……ああ!」
「やっと思い出したか」
そこからようやく懐かしい思い出の中から一人の男子を引き出した。
同じ町内で同じ学校。しかし、ある日突然家族全員引っ越しをしていなくなってしまった仁比山の小学校時代の友達の一人だった。
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