異世界監獄に放り込まれた俺、冤罪だけど塀の中で最強になる

石黒忍

第一章 異世界監獄に放り込まれた俺、冤罪だけど塀の中で最強になる

第1話 異世界監獄に放り込まれた俺、

冤罪だけど塀の中で最強になる


昼下がりの繁華街。雑踏のざわめきに

紛れていた俺の耳に、突然、甲高い

悲鳴が突き刺さった。


「危ないっ! 上だっ!」


人々が一斉に足を止め、頭上を指差し

ながら叫んでいる。俺もつられるよう

に視線を上げた。


ビルの屋上。欄干にかすかに揺れる人

影があった。逆光に溶けるような姿は

ただ立っているだけに見えた。


次の瞬間、その影が──落ちてきた。


重力に引きずられる肉体は、まるで時

間を裂くように迫ってくる。俺の目は

釘付けになり、足は一歩も動かなかっ

た。


避けようと思ったのか、それとも助け

ようとしたのか。気づけば俺の体は、

真正面でその影を受け止める位置にあ

った。


衝撃。呼吸が砕け、視界が暗転する。


地面に倒れ込む音すら、もう遠くに聞

こえていた。


──俺の人生は、その一瞬で終わった。


光の粒が形を結ぶ。現れたのは、小

さな影だった。


背丈は子供よりもさらに低く、人間

の半分ほど。まるで妖精のようだ。


薄い金色の髪が光を透かし、背中で

は小鳥の羽根がぱたぱたと揺れてい

る。


顔立ちは幼く、中性的。少年とも少

女ともつかず、口元には妙に生意気

な笑みを浮かべていた。


「ふん、やっと目を覚ましたな。僕

は下級天使ルーベル。ここは“死者

の行き先”を決める場だ」


「行き先……?」


「そうさ。死んだ人間は必ずここに

来る。そして僕ら天使が、天か地か、

どこへ行くかを決めるんだ」


「じゃあ俺も……裁かれるってこと

か?」


「その通り。お前は──監獄行きだ」


裁きの宣告。心臓が凍りついた。


「待て! 俺は何もしてない! 罪

人じゃない!」


「ふん、言い訳は聞き飽きた。死者

は皆そう言う。でも決めるのは僕ら

天使。間違いなんて──ない!」


ルーベルは胸を張った。

その無邪気な確信こそが、最大の誤

りだとも知らずに。


暗闇を抜けた先は、石造りの大広間

だった。


高い天井。壁に並ぶ松明。前方には

玉座のような席に、裁判官めいた天

使たちが列を成していた。


「死者よ、名を告げよ」


低く響く声。逃げ場はなかった。


本名を出す気にはなれない。俺は憧

れていた名を口にした。


「……ライゼルだ」


瞬間、裁判官たちの目が光った。


「記録に照合──確認完了」

「罪名、反逆と虐殺」

「囚人番号、六六六」

「行き先、深淵監獄」


ざわめきが走る。


「なに……あのライゼル……!?」

「処刑されたはずの裏切り者が……」


全身が凍りついた。俺は違う!ただ

巻き込まれただけなのに──


抗弁の声は誰にも届かない。天使の

宣告は絶対で、石槌が鳴り響いた。


「判決。被告ライゼル、深淵監獄へ

収監──」


光が弾け、俺の体は再び奈落へと叩

き落とされた。


光に弾かれ、俺の体は奈落へ落下し

た。


重力が千倍になったかのような衝撃

の後、石畳に叩きつけられる。


「ここが……深淵監獄……」


見渡す限りの鉄格子。錆びた鎖。空

気は血と汗と腐敗の匂いに満ちてい

た。


「新入りか……?」


低く唸る声。影のような囚人たちが

鉄格子越しに俺を睨んでいる。


やがて看守が現れた。全身を鋼の鎧

で覆い、手には鉄槌を握っている。


「囚人番号六六六──ライゼル!」


その名が響いた瞬間、牢獄全体がざ

わめきに包まれた。


「六六六……だと……!?」

「あの裏切りのライゼルが蘇った…」


「おい、距離を取れ!」

「目を合わせるな!殺されるぞ!」


視線が恐怖と憎悪で突き刺さる。俺

はただの巻き込まれた人間なのに。


──だが、ここでは誰もそれを信じ

てはくれなかった。


数刻後、光がまた揺れた。


ルーベルが戻り、顔が青い。


「確かめてきた。裁定庁へ行って、

裁判官の前で“名”を伝えた」


「台帳を開いたら、事故の記録が

出てきた。内容を読んで分かった」


「落ちたのは、あの飛び降りの人。

お前は、巻き込まれただけだ」


「僕が、扉の誘導を誤った。……

僕のミスだ。前代未聞の失態だ」


俺は息を呑んだ。胸が熱い。


「で、どうなった?」


「大事になった。審級会議だ。

僕は“随行の罰”を受けた」


薄い金色の髪に光の紋が走る。


「この紋がある限り、僕は君から

離れられない。監視と補助の任だ」


小さな羽根が震えた。気丈に笑う。


「……責任は取る。必ず出口まで

辿り着かせる。約束する」


独房に、はじめて灯りが差した。


──こうして俺は、冤罪のまま深淵牢獄に落とされ、

小さな生意気天使ルーベルをお供に、塀の中で最強を目指すことになった。

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