第3話 魔王討伐の旅へ

 俺が異世界に召喚されて三か月後。とうとう魔王討伐の旅に出ることになった。

 旅のメンバーは俺、フェリクス、そして討伐士のシャノン、騎士団長のダグラスの四名だ。


 シャノンは平民でありながらも討伐士としてはSランクという最高ランクを所持。しかも年齢は十九歳と最年少。小柄な体型を活かし、素早さと手数で勝負する双剣遣いだ。

 ダグラスはベネティン侯爵家の長男で、アーマンド王国騎士団団長。防御の要であるタンクを担っている。敵を引きつけ攻撃から仲間を守るのだ。しかも三十二歳という男盛り。唯一の既婚者でかなりの愛妻家だそうだ。

 

 この人選になった理由は、最初は魔王討伐メンバーとしてこの国の精鋭を数人集めたのだが、俺の補助魔法や開発した新魔法にすぐに適応できたのがこの二人だけだったからだ。

 なるべく早く討伐に向かう必要があったため、他のメンバーの成長を待っていられなかったのだ。なにせ、今もあちこちで魔物の被害は拡大中なのだから。


 シャノンはSランク討伐士として戦闘センスは抜群で、魔法はあまり使えないものの俺の補助魔法を上手く利用して立ち回る。

 ダグラスは騎士団長なだけあって、こちらも戦闘センスは抜群。しかも魔力量も多く、俺の開発した大きな盾を展開する防御魔法も早くに身につけた。

 シャノンは素早い動きを主流にした遊撃を、ダグラスは後衛である俺を守るタンクとなったのだ。


 そして『勇者』となったフェリクスは主戦力。『賢者』の俺は全員のサポートと魔法全般。

 四人という少数でありながら、バランスの取れた討伐メンバーができあがった。



「よし、討伐完了っす!」


 シャノンが魔物にとどめを刺すと、大きく跳躍して俺の側へ降り立った。シャノンは元々素早い動きが得意だったが、俺の補助魔法によりフェリクスよりも早く動ける。

 縦横無尽に動くシャノンの動きに魔物も対応できず、ここまでまったく危なげなく討伐が進んでいる。


「やっぱソウタさんの魔法はすげぇっすね! 俺もうソウタさんの魔法なしで生きていけないっすよ~!」

「ははは、大袈裟だな。シャノンだから上手くやれるんだよ」

「謙遜するな、ソウタ殿。あなたの魔法はこの世界に新たな風を吹かせてくれた。この防御魔法というのも我々では思いつかなかった」


 この世界には攻撃魔法しかなかった。それが不思議でどうしてか聞いたのだが、その返答が「攻撃は最大の防御だろう?」と言われたのだ。

 恐ろしいほどの脳筋の世界……だからこの世界では魔力量が多い方が有利で重宝される。シャノンは魔力量は少なかったが、持っていた戦闘センスと持ち前の機転のよさで魔法がなくても戦える方法を編み出した。それで今やSランク討伐士となったのだからすごい。


「それに身体強化の魔法はシャノンでも使えるようになったじゃないか。俺がいなくても十分やっていけるよ」


 俺は今まで見た漫画やアニメなどからいろんな魔法を生み出した。その内の一つが身体強化だ。

 これによりシャノンは俺の補助魔法がなくても素早く、しかも攻撃の威力も上がり魔物を簡単に屠ることができるようになった。主戦力であるフェリクスの出番がないことも多いのだ。


「ただ多くの魔物が一斉に襲ってきたら、ソウタの魔法に敵うものはないね」


 魔王討伐の旅では馬車に乗っての移動だ。道中、かなりの数の魔物が襲ってきたことがあった。そこで俺は魔物を全部結界の中に閉じ込めて、その中に高威力の攻撃魔法を放ったのだ。

 魔物はその一撃で全滅。それを見ていたフェリクスたちは唖然としていた。


「ただそのあとのソウタさんは大変だったっすけどね~」

「……現代育ちにはキツかったんだよ」


 恐ろしい見た目の魔物だったが、何かの命を奪う行為をしてしまったことと、魔物の死骸を見てしまったことで俺は気分が悪くなって吐いてしまった。

 精神的なダメージがかなり大きくて、吐きながらぼろぼろと泣いてしまったんだ。


 そこで思いついたのが精神安定の魔法。急いで自分にかけたところすぐに落ち着くことができ、それからは魔物が現れるたび自分にこの魔法をかけている。

 じゃなかったら今シャノンが討伐した魔物の死骸を見て平気でなんかいられないからな。


「ソウタ、そこまでつらい思いをさせてしまってすまない。不甲斐ない我々の責任だ」

「い、いやっ……もうそのことはいいって言ってるし、それと、あのっ……距離が近いんですけどっ……!」


 フェリクスはさらっと俺の腰に手を回すと慣れた動きで俺を抱きしめる。毎回すごく緊張するから本気でやめてほしい。

 俺の世話係として側にいてくれる時から、なぜかフェリクスは俺との距離が近い。最初はそうでもなかったのだが段々と近くなっていったのだ。

 よく肩を抱かれるなぁと思っていたら、抱きしめられるようになり。最近では頬をするりと撫でられたり、寝る前には頭にキスをされる始末。


「ソウタ、あなたのことは私が命を懸けて守ると誓う」

「あ、ありがとうっ……だけどフェリクスも自分の命を大事にしてくれよ」

「ああ、ソウタを残して死ぬようなヘマはしない。心配してくれてありがとう」

「ひゃっ……!」


 フェリクスは嬉しそうにふわりと笑うと俺の頭にキスを一つ。異世界ってすごい……こんなことを平気でさらっとやるんだもんな。日本育ちで奥手な俺には到底真似できない仕草だ。

 フェリクスは男女どちらからも人気が高く、誰にでも分け隔てなく温和で優しい。だから平凡な男の俺にでも平気でこんなことをする。

 とんでもない美形にこんなことをされて、近すぎる距離感に慣れないから毎回心臓が暴れて大変だ。


 気を取り直して馬車に乗る。

 魔物が溢れているというのは本当で、道中ちょくちょく魔物に襲われる。だがこの最強メンバーがいるおかげで旅は順調だ。


「よし、今日はここで野営にするか」


 日が暮れてしまったため、ダグラスの一言で今日はここで休むことになった。馬車が止まるなり俺は馬車をぐるりと囲むように結界を張る。このおかげで寝ていても魔物に襲われる心配はない。それでも念のために、とひとりは見張りとして起きているんだけど。

 

「本当にソウタさんがいるから野営が楽っすよね~。野営とは? って思ったっすもん」


 実は外から見れば普通の馬車なのだが、その中は空間魔法によりとんでもなく広くなっている。男四人が余裕で寝られるくらいだ。

 それ以外にも俺は空間魔法を使ってインベントリまで作っている。馬車から降りるとそのインベントリからテーブルと椅子、出来立てのように湯気が立ち昇る食事をテーブルの上に次々と出していった。

 食事は途中で立ち寄った街で大量に購入し、俺のインベントリへ収納している。俺はそれを取り出しているだけ。

 この魔法も漫画やアニメで見たものの再現だ。


「普通なら野営中の食事は干し肉や乾物が主流だ。こんな出来立ての料理を食べることはできん。しかもぐっすり眠れることで体の調子もいいまま。俺も空間魔法を練習しているが、なかなか上手くいかん」


 騎士団長であるダグラスは、騎士団で遠征することもあるそうで早く身につけたいようだが今のところは成功する兆しがない。

 どうやらかなり難しい魔法のようでフェリクスですら未だに使えない。


「まぁのんびりやればいいよ。ってか食べようぜ。お腹空いた!」

 

 本来の野営とはかけ離れた食事。まるでピクニックのようだ。お酒はさすがに用意していないが、美味しいご飯を毎日食べられるというのはお腹だけじゃなくて精神的にも満たされる。

 お風呂に入るなんてこともできないため、俺はみんなに浄化魔法をかけて汚れを消している。おかげで臭い匂いも一切しないし体もすっきりぴかぴかだ。

 浄化魔法は重宝するということで、討伐メンバーはシャノン以外、この魔法が使えるようになっている。


 食事も終わり、しばらくお茶を飲みながら歓談していたがそろそろ寝ることになった。

 今日の見張りはフェリクスだ。王太子であるフェリクスにひとりで見張りなんてさせられない、とダグラスとシャノンは止めたのだが、フェリクスは「自分も同じ討伐の仲間なのだから特別扱いは不要」と見張りをしている。

 王族なのに偉ぶったところもなく、王族だからなのか責任感も人一倍強い。フェリクスは本当にいい男だと思う。

 

「フェリクス、無理してないか?」

「大丈夫。ソウタに言われてからはちゃんと体を大切にしているよ」


 俺が召喚されて間もないころ、フェリクスの目の下には隈ができていた。しかもそれを化粧で隠していたんだ。

 フェリクスは王太子で公務も忙しいのに、最近の魔物被害が拡大したことで討伐にも出かけていた。まともに寝ることもできず、でもみんなに心配かけさせられないと気丈に振舞っていたんだ。


 どんなに健康な人間でもそんなことを続けていたらいつか倒れてしまう。そこで俺はフェリクスに無理やり睡眠の魔法をかけて眠らせることにした。おかげで隈は綺麗に消えてすっかり元気に。

 責任感が強すぎるのも考えものだ。ただ無理しなければいけないほど、この世界が大変な状況だったということでもある。


「さ、ソウタやみんなはゆっくり休んで。おやすみ」

「おやすみ、フェリクス。何かあったら遠慮なく起こしてくれよ」

「うん。ありがとうソウタ」

 

 フェリクスを残し、俺たちは馬車の中へ戻った。ふかふかのベッドに入るとすぐに眠気がやってくる。

 魔王討伐まであと少し。頑張らなければ。

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