第三章 瓜二つ

第11話

 雪がしんしんと降っていた。

 背の高い男はそっと、女の後をつけた。

 身なりは半俗半僧はんぞくはんそう入道にゅうどうだった。

 剃ったつるりとした頭に月の光が差す。

 堀の深い目鼻立ちは夜の世界でもモテそうだった。

 世間は師走のためツケや月賦払いの滞納に頭を悩ませている。

 夜だというのに長屋は夫婦喧嘩でかしましい。

 川の堀にかかる橋を女が渡っている時だった。

 一気に駆けた男は女の背に飛び蹴りを食らわせ、あっと女が口にした時には冷たい川の水面みなもへ落ちていた。

 女が手にしていた提灯は橋の上で小さく燃えていた。

 柄を持ち川へ捨てる。

 男は懐から数珠を出し、手に掛け水面の波紋に手を合わせる。

「貴様の罪は産まれてきた事だ。今すぐ浄土へ葬ってやる。怨むなら俺ではなく己の不甲斐なさを呪え、惑いながら死ぬがよい」と言って、その場を去った。

 男の歩法は特殊で足音は無く、また見ていた者も居なかった⋯⋯。

 姦しい長屋の喧騒だけが夜の町を響かせていた。

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