『未公開映像ファイル No.17 : キャンプ場に現れたモノ』
「山間キャンプ場・炊事場カメラ記録」
この映像は、2023年7月、岐阜県内の山間キャンプ場で撮影された防犯カメラの映像である。利用客から、「昨晩の食べ残しやビールの缶が消えていた」「周囲から異臭がする」と管理棟に報告があり、管理人が確認した。
記録時間は午前1時21分から3時06分。
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夜のキャンプ場。焚き火は消えかけ、テーブルの上に、食べ残しが乗った紙皿と缶ビールが残っている。
1時25分、右奥の林から何かが現れる。人のように見えるが、まるで蛇のように地面を這いずっている。服は着ていないが、全身が体毛に覆われているのがわかる。一見、猿のようにも見えるが周囲のものと比較するに、その身長は成人男性ほどはあるように見える。
そして、“それ”はゆっくりとテーブルに近づいた。まるで滑るように動いている。
テーブルの前に来ると、おもむろに立ち上がり、皿の上の肉を一切音を立てずに食べた。手は使わず、顔を近づけそのまま丸呑みしていった。
そして驚くことに、ビールの缶をしばらく見つめたかと思うと、缶ごと丸呑みにしたのである。
数分後、テーブルの上は空になった。
“それ”はしばらくじっとしてから、頭を少し上げた。よく見ると、鼻や口にあたる部分がない。
いや、我々が口だと思っていた部分は、まるで虚空のように黒くへこんで見える。
“それ”は、ゆっくりとテントの方向を向いた。そして、じわじわと近づく。中では三人の若者が眠っている。
テントの前に着くと、しゃがみ込んだ。その姿勢のまま、1時間以上、ぴくりとも動かない。覗き込むわけでなく、ただ入口の前でじっとしていた。
3時02分、突然動き出し、来た方向へと戻っていく。這いずるように這っていく姿は、人間の動きとは思えなかった。そして森の中へと帰っていった。
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翌朝、そのキャンプサイト利用者が通報。テーブルの皿の上に残された食べ残しと缶ビールは消えていた。
代わりに、テーブルの上と地面に灰色の“毛”のようなものが大量に付着。そして、なにやら形容し難い強い臭気が残っていたという。
管理人が丹念に清掃を行ったが、数日の間、同じ場所から臭いが上がり続けたのだそうだ。
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我々は、その地方の山に詳しい専門家に話を聞いた。
「たいていのキャンプ場では、バーベキューなどの後の食べ残しは夜間絶対に放置しないように呼びかけられています。野生動物を呼び寄せ、トラブルにならないため。とされています。表向きはね」
しかし、あの山は違う。と付け加えるようにこう告げた。
「あの山には、人ならざるモノが棲んでいる。それを呼び寄せないためにも食べ物を放置してはいけないとされています。彼らは呼び寄せてしまったのでしょう。人ならざるモノを」
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スタッフの間でも、この映像を公開するべきかどうか意見は分かれた。
しかし、専門家の話をキャンプ場の管理人に伝えると、客足が遠のくことを恐れたキャンプ場側が公開するのを控えてほしいと懇願してきたことにより、映像はお蔵入りとなった。
── 夜の山では、食べ物の匂いが何かを呼び寄せることがある。しかし、それがただの野生動物とは限らない。なので我々はおすすめする。キャンプ場ではテーブルの上を片付けてから就寝することを。
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