『未公開映像ファイル No.15:廃墟探索配信』

 この映像は、ある動画配信者グループが撮影した探索企画の未公開素材をもとに編集されたものだ。


 彼らは登録者数10万人を目指す中堅YouTuberで、話題性を狙って地方の廃墟ホテルに潜入した。その映像データが番組宛てに匿名で送られてきた。

 配信当時もかなりの視聴者がいたそうなので、ご存じの方もいるかもしれない。





 カメラには、懐中電灯の光に照らされる廊下が映っていた。天井は剥がれ落ち、壁紙は湿気で黒ずんでいる。配信者のひとりが冗談めかして叫ぶ。



「おーい、出るなら出てきてくださーい!」



 仲間の笑い声が響く。

 だが、奥から「ドンッ」と重い音が返ってきて、空気が変わった。





 やがて彼らは、大広間らしき場所にたどり着く。天井の梁が半分崩れ、床の上にはガラス片や鳥の死骸が散らばっていた。カメラがその中央を捉える。


 そこに、誰かが立っていた。

 白い服の人影。顔は暗がりに隠れて見えない。



「……おい、スタッフ?仕込み?」



 配信者の声が震える。

 誰も答えない。人影はぴたりと動かず、やがて小さな声で何かを呟いた。





 最初は聞き取れない。

 ぶつぶつと、壊れたラジオのように途切れた声。



「……あ…………はさ……ぬ……そ……て……なさ……」



 配信者が近づこうとした瞬間、カメラが激しく揺れる。

 人影が一歩前に出たのだ。

 白い顔がレンズいっぱいに迫り、はっきりとこう言った。



「もう…………お前は……」





 映像はそこで途切れる。

 残されたのは、悲鳴と逃げ惑う足音だけだった。


 この映像をリアルタイムで見ていた視聴者からは、配信終了後に「急に吐き気がした」「頭痛で救急搬送された」といった報告が寄せられたそうだ。

 さらに編集のため、この録画を確認したスタッフの中にも体調を崩す者が続出。


 後に判明したことだが、この配信の後、配信者達本人はその後、消息不明となっている。


 番組チーム内で映像を確認した際も、複数のスタッフが頭痛や吐き気に見舞われ、確認作業は中止された。現在この映像は「危険な映像」として封印され、放送禁止となっている。



── 言葉の意味は不明。だが、不思議と誰もが“自分のことだ”と思ったという。

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