『未公開映像ファイル No.10:引きずり込まれた作業員』
これは、とあるトンネル工事現場付近に設置された監視カメラの映像だ。
記録時間はちょうど日付けが変わる頃、すでに作業は終了し、現場は完全に無人となっているはずだった。
しかし、トンネルの奥の暗がりから、ひとりの作業員が泥まみれの姿でよろよろと現れた。
ヘルメットは割れ、作業服は破れ、ところどころに血の痕がにじんでいる。
彼はカメラの方へ手を伸ばし、唇を必死に動かした。
「……たす、けて……」
その直後、闇の奥から伸びた“何か”に足を掴まれる。
体は激しく引きずられ、地面を爪で削りながらも、悲痛な叫び声と共にあっという間に暗闇の中へ消えた。残されたのは泥と血の跡だけ。
――だが、その痕跡もトンネルの入り口付近ですぐに途切れていた。
⸻
後日、警察と建設会社が確認したところ、映像に映っていた人物は実在する作業員のひとりであることが判明した。
しかし、記録上ではその男はその時間にはとっくに作業を終え、すでに帰宅しているはずの時間帯だった。
加えて、行方不明扱いになったまま、今も遺体は発見されていない。
最初、関係者の間では「野生動物、特に熊の仕業ではないか」という説が出た。
しかし専門家は映像を精査した上で、こう断言している。
「熊はその鋭い牙で噛みつき、引きずる事はできても、手で足を掴んで引っ張るなんてことはできません。
ですが、あの映像ははっきりとは見えませんでしたが、明らかに何か手のようなもので足を掴んで引っ張っていたように見えました。
あの“引きずり方”は、野生生物の動きではありえません」
……だが奇妙なことに、トンネルはまだ開通しておらず、出入り口は監視カメラのある一点しかなかった。
それにもかかわらず、映像に映っていた“襲いかかった何ものか”の痕跡は一切発見されず、作業員が内部から出てきた形跡も残されていなかった。
警察が徹底的にトンネル内部を調べたが、血痕も作業員の姿も何も見つからなかったのである。
⸻
その後、警察は「現在も調査中」とだけ発表し、建設会社も「詳細は差し控える」と繰り返すばかりだった。
なぜ彼が“いるはずのない時間”に現れたのか、どこへ消えたのか、誰ひとり明確に答えられなかった。
この映像は「現場の作業員の恐怖を必要以上に煽る」という名目で封印され、現場関係者の間でも口にすること自体がタブーとなった。
後日、ニュースでは「現場作業員が行方不明」とだけ短く報じられたという。
──あの、作業員は一体どこへ消えたのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます