『未公開映像ファイル No.2:エレベーターの女
〇〇県郊外の築三十年のマンション。
一見どこにでもある集合住宅だが、ここにはある不可解な噂があった。
――深夜、エレベーターのモニターに“女”が映る。
数年前、防犯目的でエレベーター内に監視カメラが取り付けられ、各階の乗り場にモニターが設置された。しかし、そのモニターの映像にだけ現れるという“存在”が、住民の間で問題となっていた。
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住人の証言。
「夜中に帰宅したときです。モニターを見ると、長い髪の女が立っていたんです。後ろを向いていて、顔は見えませんでした。
けど、エレベーターが到着すると、中には誰も乗っていなくて…」
「私は子どもを抱えていて……あの映像を見て以来、エレベーターに乗れなくなっちゃって、結局そのまま引っ越してしまいました」
こうした証言が複数の住人から寄せられていた。
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取材班は管理会社の許可を得て、現場にカメラを設置した。その現象を再現するため、何度もエレベーターを呼んでみるも、女は現れなかった。
そして、我々が諦めかけたその時、事態は急変した。
深夜一時過ぎ。エレベーターを呼んでみると、モニターには例の女であろう姿が映し出されたのだ。
髪を垂らし、ワンピース姿で後ろを向いて立つ“女”。
しかし、エレベーターが到着し、扉が開いたが、中は無人であったのだ。
――噂通りの現象が、目の前で繰り返されたのである。
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我々はさらに検証を進めることにした。
スタッフの一人が実際にエレベーターに乗り込み、上階まで上がってみることになったのだ。
上昇するエレベーター。
モニターには、彼の後ろ姿が映っている。
――するとその背後に、“女”が現れた。
髪を垂らし、ゆっくりと近づいていく。
スタッフは気づかない。
女は彼の耳元へ顔を寄せ、何かを囁いた。
次の瞬間、スタッフの体がガクンと崩れ、床に倒れ込む。
そして女はゆっくりと顔を上げ、髪の隙間からこちらを覗くように――カメラを見据えた。
その口元が、にたりと歪んだ笑みに変わる。
その直後、女は姿を消し、倒れたスタッフのみがモニターに映されていた。
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倒れたスタッフは意識を失っていたが、一命はとりとめた。
その後のインタビューで、彼は我々にただ一つだけ語った。
「……確かに聞こえたんです。女の声で、“死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……”って。そしたら急に意識が遠のいて…」
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この映像は危険と判断され、放送は見送られた。
今もなお、未編集のまま社内の保管庫に封じられている。
――今夜も、そのモニターには“誰か”が立っているのかもしれない。
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