第37話 スマイルVSロクサス

 だが、その一刀はロクサスに阻まれた。


「このサイコ野郎が……! 俺が相手だ!」


「ふむ……今の一撃を止める者がこの村に居るとは。少しは楽しめそうですね」


 笑顔の男はそう言った。


「お前、元冒険者の『スマイル』だろ。聞いたことあるぜ」


 ロクサスが言う。


「ほう、僕を知っているのですか。ああ、元同業ですね。そのプレート、金等級。僕は君を存じ上げませんが」


「こっちは知っているさ。笑顔で魔物も人も殺すことから『スマイル』ってついたんだろう?」


 ロクサスの煽りを受けても、スマイルの笑顔に全くの動きはない。


「心外ですねえ。冒険者なら、今すぐこの村を捨てて逃げた方がいいですよ? ただの駐在の冒険者は処分リストに入っていませんので逃げられますよ」


「断るぜ! 俺ァ、この村を守ると約束しているんでな」


「なるほど。ですが金等級程度で勝てると思っているのですか?」


「そいつはやり方次第だろ」


 ロクサスが笑うと、スマイルが首を抑える。


(今だ!)


 それと同時に、ロクサスが距離を詰める。

 が、瞬間、スマイルの全身が震えて、口から水が飛びだした。


「ハハ、君は芸達者だなあ。水魔法で喉に水を生み出して窒息を狙ったのかい? 話の最中に、自分の足から僕の足。そして僕の首まで、目で見えない程度の小さな水の管を作り、僕の喉を水で覆った。面白いけど……格下にしか通用しないよね!」


 スマイルはそう言うと、その剣を振るう。

 その一閃は、ロクサスの左脇腹を見事に切り裂いた。


「駄目だよ、君。僕は君と違ってミスリル等級なんだから油断しちゃ」


 スマイルは今までより、邪悪に笑った。

 ロクサスは顔を歪め、脇腹を抑えた。


「アニキによくも!」


「俺達も行くぞ!」


 取り巻き二人の冒険者が叫ぶ。


「止めろ、お前等! 手を出すんじゃねえ! こいつは俺が殺る!」


「別に僕は何人相手でもいいよ?」


(こいつ等じゃ、数秒経たずに殺されちまう!)


「俺一人で十分なんだよ、氷槍(アイスランス)」


 ロクサスは周囲に二つの氷でできた槍を生み出し、スマイルに向けて放つ。

 それをスマイルは軽く剣で粉砕する。


「ふふ、相手にもなりません。少しずつ村人が集まって来たね。部下が来るまでに全員殺せるかなあ?」


(駄目だ、接近戦じゃ勝負にならねえ。遠距離から、戦うしか……)


「遠距離戦に持ち込もうとしているでしょ。さっさと、君を殺さないとね」


 スマイルはそう言うと同時に距離を詰めて剣を振るう。

 ロクサスは必死にそれを受けるが、一撃一撃が重く止めきれない。

 魔法剣士は魔法と剣の両方を使えるという利点があるが、純粋な接近戦だと剣士に分がある。

 そしてなにより……スマイルの方が格上だった。

 すぐにロクサスの全身は傷だらけである。


「ふう……ふう……」


 ロクサスは肩で息をしている状態である。


「もう限界なんじゃない? 殺してほしいなら、首を刎ねるけど?」


「うるせえよ。お前のへなちょこな剣なんて効くかよ」


「そんなこと言われると、少し燃えるなあ」


 スマイルはそう言うと、激しい突きを放ち、ロクサスの剣を弾き飛ばす。

 そしてそのまま腹部に深々と剣を突き刺した。


「はい、おしまい」


 スマイルは表情を変えない。

 ロクサスの口元から、血が溢れる。

 明らかに致命傷だった。


(すみません、レイルの兄さん。約束、守れないかもしれないです……)


 ロクサスは自分の死を感じ、過去を思い出していた。

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