第34話 沙汰

 山から下りて帰ると、村中の雰囲気が悪い。


「レイル! あんたが居ない間、大変だったんだから!」


 ソフィアがこちらを見て叫ぶ。


「なにがあったんだ?」


「実はね……」


 ソフィアから今日遭った出来事を聞く。

 うーん、それはまずいな。


「アランは何も悪くないが、面倒なことになったな」


「そうなのよ。きっとあいつ等復讐に来るわよ」


「だろうな」


 メンツの問題もあるだろうし、次期領主が腕一本失っているんだ。

 金で解決できるのだろうか?

 そして俺達の想定よりも早く、数日後、領主の使いの者が村にやってきた。


「我々はラービスの領主であるホーキンス子爵の使者である、村長はおられるか」


 使者の背後にはおそらく腕利きであろう兵士が十人程度いる。


「儂が村長じゃ。話を聞こう」


 そう言って現れた村長の顔には既に汗が滲んでいる。

 村中がこの件について気になっていることもあり、多くの者が村長の後ろに立っている。


「領主様は寛大な方だ。あまり大事になることを望んでおられない」


「本当ですか!」


 村長の顔に喜色が浮かぶ。


「ああ。沙汰を言い渡す。ハビエル様の腕を斬った一族全員の引渡し、及びこの村全員の税を三十年間、二倍とすることで許されるとのことだ」


「アランの家族全員を引き渡せ、おっしゃるのですか⁉」


「ああ」


「……引き渡したら、ど、どうなるのですか?」


「聞くまでもないだろう」


 使者は冷たい声色で言った。

 貴族に手を出すこと、すなわち死刑である。


「さ、三十年間も税を上げられたら、俺達も生きていけねえよ」


 村人の一人が呟く。


「お前達全員を殺してもこちらは良いのだぞ? この寛大な処置に感謝するといい。さあ、今すぐその者達を引き渡せ」


「こんなのあんまりではありませんか。レミはまだ幼いのに、無理やり襲われたのですぞ。弁明する機会を下さい!」


 村長が震える声で交渉する。

 その言葉を聞いた使者がため息を吐く。


「愚かな。これだから田舎者は……ハビエル様はその者と話していたら突然襲われたと聞いている。野蛮な村が……早く呼んで来い」


「お断りします! どうか、公平な判断を……」


「後悔することになるぞ。それが回答でいいのか?」


 使者は鋭い目で村長を睨む。


「村人をただ引き渡すなどできませぬ……」


「そうか」


 使者はそう呟くと、護衛の兵士を連れて去って行った。

 村長は使者が姿を消すと、大きく息を吐いてその場に倒れ込んだ。


「はあ~~~~。どうしたら……」


「もっと大きな貴族に助けてもらえないだろうか?」


「そんな貴族の知り合いなど居らんし、こんな出来事で手は貸してくれんじゃろう」


 俺もそう思う。

 直接の知り合いですら、助けてくれるかは怪しい。

 気付いたら、ソフィアが俺の服の裾を引っ張っていた。

 その顔は不安で青くなっていた。


「ねえ……レイル。これからどうなっちゃうの?」


「このままじゃ危険だろうな。この村から逃げることも考えた方がいい」


 俺はそう答えることしかできなかった。

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