第21話 才能
私はあの日からずっと冒険者になりたかった。
「……才能が無い訳ない。だって私は、アダマンタイト級冒険者になる、ソフィアだもの。これからよ」
私は強がりを言いながら、立ち上がる。
「明日から……訓練の量をさらに増やせばいい」
そう決めて、私は自宅に戻った。
◇◇◇
アランに負けてから、ソフィアの訓練の量はさらに増えたようだ。
俺との訓練の後も、一人で夜中まで剣を振っている。
過度の訓練により、質が低下しているのか顔色も悪い。
だが、その無理もいつまでも続かなかった。
朝の農作業中に、ソフィアが倒れたのだ。
「ソフィア!」
クリフさんは叫びながら、すぐに駆け寄った。
「医者を呼んできます」
俺はすぐさま医者を呼びに行った。
「過労だね。無理しすぎだね。ゆっくり休みな」
医者のお婆さんはそう言った。
「そうか。いきなり来てもらってありがとうな」
「別にいいよ。そのために居るんだ。薬も一応置いておくよ」
お婆さんはそう言うと、すぐに帰っていった。
ベッドに寝かされたソフィアは、体を起こす。
顔色はまだ悪く、どこか赤い。
「お爺ちゃん、迷惑かけてごめんなさい……」
ソフィアは目を伏せてそう言った。
「……お前が剣の練習しているのは知っている。だが、日常生活に影響あるなら、止めんといかん。強くなるってのは、日常をないがしろにすることじゃねえんだ」
ソフィアは布団を両手で強く握りしめる。
「ごめん、なさい……気を付ける」
「焦らんでええ」
クリフさんはそう言った。
だが、ソフィアは完全に納得はしていないように見えた。
体が治ってから、すぐソフィアは夜の訓練を再開した。
クリフさんはそれを知り、小さくため息をつく。
このままでは良くないのは、俺にも分かる。
クリフさんからソフィアを任された身としても、ソフィア自身のためにも良くない。
そして、俺は最初からずっと思っていた疑問がある。
ソフィアはなぜ剣士になろうとしているのか。
魔法の才能があんなにあるのに。
ソフィアには一般人とは思えないほどの魔力をその体に内蔵している。
おそらくクリフさんが剣士だから剣を学ぼうと思ったのだろう。
向き不向きでいえば、魔法使いになるべきなのは間違いない。
だが、あれほど剣士になるために努力している者に、魔法使いになるように勧めて良いものか。
俺は考える。
その時、クリフさんに言われた言葉を思い出した。
「その人のことを思って動いたらええ。きっとその思いは伝わるはずじゃ」
ソフィアのことを思って……。
きっと傷つけるのだろう。
だが、クリフさんに任されたのだ。
そして、ソフィアが生きるため、将来のためを思えば、伝えるべきだ。
……多分。
何が正しいのか、分からないな。
やっぱり人の心は難しい。
俺は決意すると、ソフィアの下に向かった。
「どうしたの? 説教なら聞かないわよ。倒れない程度の訓練なら、何も言われる筋合いはないわ」
ソフィアは俺が、訓練を止めるように来たと思ったのだろう。
だが。今回は違う。
「ソフィア、剣を止めて、魔法を覚えないか」
俺ははっきりとソフィアに告げた。
一瞬の沈黙、そしてソフィアの顔が怒気に染まる。
「わ、私には才能がないから……止めろと言いたいの?」
そう言って、睨まれる。
「違う。……すまないな。俺はいつも言葉足らずだ。俺はある程度、魔力が分かる。ソフィアは魔力が多い。それは魔法使いになるうえでかけがえのない才能だと思う。本気で、冒険者を目指すのなら、向いている職業の方が良いと思った。強制ではない、が考えて欲しい」
俺はゆっくりと思ったことを伝える。
ソフィアは俺の言葉を大人しく聞いてくれ、聞き終わった後には真面目な顔になっていた。
「ごめん。私のことを真剣に考えて、言ってくれたのね。ありがとう」
その後、ソフィアは沈黙し、目を瞑った。
悩んでいるのか、眉間に皺をよせ思いに耽る。
「……少し考える時間をくれない?」
「分かった。ゆっくり考えてくれ」
俺は素直に頷いた。
これはソフィアの今後に影響のある大きな選択だ。
ゆっくり悩んだ方がいい。
ソフィアは静かに、考えていた。
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