第18話 負け惜しみ

 翌日以降、俺は狩人をしながら空き時間をソフィアとの訓練に費やした。

 ソフィアによる連撃が俺に襲い掛かる。

 俺はそれを全ていなして、脇腹を木剣で叩く。


「構えが崩れている」


「ぐうぅ……! 何すんのよっ、鬼!」


 ソフィアは膝をつきながら、叫ぶ。


「攻め気ばかりで、基本を忘れている」


 やる気はあるようなのだが。

 ソフィアに指導していると、向こうからアランがやって来る。

 門番の仕事は良いのか?


「レイル君に頼みがあるんだ。どうか僕にも剣術を教えてくれないかい」


 アランはそう言って深々と頭を下げた。

 なぜだ?

 最近、流行っているのか?

 どうすべきか……だが、俺と戦うだけよりも、アランとも戦った方が伸びる気もする。


「分かった。二人に教えよう。ソフィアも問題ないか?」


「別に構わないわ!」


「ありがとう! ハイランドグリズリーと戦った時に思ったんだ。もっと強くならないと、って」


 そう言ったアランの目からは覚悟が感じられた。

 それから俺は二人に剣術を教えるようになった。


 ◇◇◇


 それは見とれるほど綺麗で、無駄のない動きだった。

 軽く披露された形の完成度の高さは、素人の私でも分かった。

 その後、レイルに習って何度も同じ動きを繰り返したけど、まるで違う動きにしかならなかった。

 私は後どれだけ訓練すればあの領域に達することができるのか。


 そう思いながらひたすら毎日剣を振った。

 レイルに剣を習い始めてしばらく、アランまで教わりたいとやってきた。

 練習相手ができた。

 私はその程度の考えで、すぐに受け入れた。

 最初は私の方が、形も上手く、模擬戦の勝ちも多かった。


「肘が曲がっているわよ!」


 と偉そうに私はアランに教える。


「そっか。ごめん……ありがとう」


 アランは素直に従い笑う。

 共に教わってしばらく経つ頃。


「やあっー!」


 アランの重い一撃を受け、私の木剣が宙を舞う。


「そこまで」


 レイルが勝負の終わりを告げる。

 私は初めてアランに負けた。


「や、やるじゃない……!」


 私は負け惜しみでそう言ったけど、内心は悔しさでいっぱいだった。

 アランに……負けた。

 私の方が先に習っていたのに。

 頭は真っ白だった。


 アランが日々上達しているのに、私は気付いていた。

 そこでよぎる。私には才能はないのでは?

 不安を払しょくするように、私は訓練に没頭するようになった。

 レイルとの訓練の後も、夜月明りの下剣を振るう。


 もっと。

 もっと。


 訓練が足りないのだと、そう思わないとやってられなかった。

 だけど、アランに追いつくどころか、アランに引き離されるようになった。

 いつものように、夜中に剣を振るっていると掌に痛みが走る。


「痛っ……」


 掌を見ると、豆が何度も潰れてすっかりぼろぼろだった。

 剣の柄も真っ赤に染まっている。

 紅くなった柄を無理やり握り、私は剣を振る。

 ただひたすら。

 それからいくら訓練していても、決してその不安は払しょくできなかった。


「アラン、模擬戦をしましょう」


 ある日、私は気付けばそう口にしていた。


「……分かったよ」


 真剣な雰囲気を察したアランが頷いた。

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