第三章 伝わる真価

第26話 紅蓮の双華

氷室アリス ――「血塗れの剣姫」


 その姿を一目見た者は、誰もが息を呑む。

 長く艶やかな銀髪を背に流し、透き通るような白い肌に映えるのは、緋色に煌めく双剣。

 気品を帯びた美貌とは裏腹に、戦場での彼女は一切容赦なく、モンスターを切り刻む。

 鮮血を浴びても怯むことなく進むその姿に、人々は畏怖と憧憬を抱いた。


 氷室アリス。

 国に名を轟かせる《S級討伐者》にして、大手ギルド《朱ノ羽》の象徴的存在。

 そして彼女を語る上で外せない二つ名がある。


 ――《血塗れの剣姫》。


 その名は、彼女の戦場での姿から自然に呼ばれるようになった。



◆ 武器


《紅蓮双刃(ぐれんそうじん)》

 氷室アリスが手にする象徴的な双剣。

 通常形態では鋭い緋色の刀身を持ち、連撃と高速戦闘に特化。

 彼女の双剣術は他の追随を許さず、その動きを目で追える者はほとんどいない。



◆ 始解と緋血解放


普段の彼女は《紅蓮双刃・始解形態》を操る。

だが戦局を決定づける瞬間、彼女は静かに前詠唱を口にする。


「紅に咲き、紅に散る……

 我が双刃よ、血華をもって戦場を染め上げよ──」


そして――


「──緋血解放」


その言葉と共に双剣は異形へと変貌する。

《紅蓮双刃・緋血解放》。

刀身には紅の紋様が浮かび、斬撃の残光は花弁のように舞い散る。

ただの武器ではなく、戦場そのものを支配する《血の領域》を展開するのだ。



◆ 必殺の血華


《緋血解放》後に解禁される奥義。

無数の斬撃が花びらとなって舞い散り、範囲内の敵を瞬時に細切れにする。

その光景は、戦場全体を血と紅蓮の花畑に変える。

これこそが彼女の二つ血塗れの剣姫の由来である。



◆ 戦場の目撃と二つ名の誕生


 轟音と焦げた臭いが混じる戦場で、討伐者たちは彼女の戦いを目の当たりにした。

 銀の髪を翻し、紅と蒼の異色の瞳が獲物を射抜く。

 彼女の斬撃の一振りごとに紅の光が舞い上がり、戦場を覆い尽くす。


「……あれが、氷室アリス……!」


 仲間の討伐者が震える声を漏らす。

 斬られるよりも早く「舞い散らされる」魔獣たち。

 その異様にして美しき光景を見た者が、息を呑んで呟いた。


「華だ……紅蓮の……」

「まるで双華が咲いている……!」


 そして、初めて戦場で彼女はこう呼ばれた。


「──紅蓮の双華!」


 この呼び名は瞬く間に広がり、街のニュースや雑踏を震わせる。

 大型スクリーンに映し出された映像に、人々は悲鳴にも似た歓声を上げた。


「すげえ……あれが“紅蓮の双華”だ!」

「アリス様ァァァッ!」


 恐怖と畏怖と、そして熱狂が混じる声。

 氷室アリスはそのすべてを浴びながらも、揺るがぬ表情で前を見据えていた。



◆ 将来の進化形


アリスの力は、未だ完成していない。

現時点では《紅蓮双刃・緋血解放》までが到達点。

だが、そのさらに上――

・《紅蓮双刃・緋血解放『血華・舞踏』》

・《紅蓮双刃・緋血解放『血華・終焉』》


これらは今後、さらなる戦場と運命を経た先に解き放たれる究極の姿だとされる。



◆ 人物像

• 普段は柔らかで笑顔を絶やさぬカリスマ的存在。

• 国民にとっては英雄であり、同時にアイドルのような憧れの対象。

• しかし戦場に立てば豹変し、冷静沈着、無慈悲な《剣姫》と化す。


その二面性のギャップこそ、彼女が人々を惹きつけてやまない理由である。



こうして氷室アリスは、誰もが憧れる存在でありながら、

同時に戦場で最も恐れられる存在でもある。


《紅蓮双刃》が輝く時、そこには常に血と紅の華が咲き乱れるのだ。



◆◆◆◆

【あとがき】

決して氷室アリスの設定プロットを誤って、更新した訳ではございません。

敢えて、このような形で原稿を書きました。


さぁここから新章、第三章が始まります。

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