第12話 現状確認

 暗い石壁に背を預け、神谷蓮は小さく息を吐いた。


 前回の戦闘で手に入れたもの――それは確かに大きな収穫だった。


 視界に浮かぶ無機質な文字列を思い返す。


 【新規スキル獲得:《隠密行動》】

 【新規スキル獲得:《マナリジェネレート(微)》】


 短時間なら自分の存在を消すことができる隠密。

 そして、ごくわずかではあるが、自動で魔力を回復してくれる力。


 この二つを得たことで、自分の戦い方は確実に変わる。


 ――だが。


(万能じゃない。どちらも制約がある。隠密は持続が短く、長く維持すれば効果は薄れる。

 魔力回復も雀の涙程度……あくまで補助に過ぎない)


 力を得た興奮と同時に、冷静さを失わないようにと自戒する。

 油断した瞬間、命を落とす世界なのだ。


 蓮は膝を立てて立ち上がり、ふと視線を下に向けた。


「……試しておくか」


 影の底に意識を向け、短く詠唱する。


「召喚」


 影がわずかに膨らみ、黒い牙が姿を現す。

 シャドウウルフが、濡れた毛並みを揺らして蓮を見上げた。


 続けてもう一度、声を紡ぐ。


「召喚」


 今度は淡い青光を帯びた半透明のゼリー状の影が浮かび上がる。

 マナスライム――先ほど眷族化に成功したばかりの存在だ。


 二体の眷族が並び立つのを見て、蓮は小さくうなずいた。


 システムが反応する。


 【眷族召喚:シャドウウルフ/マナスライム】

 【現在召喚数:2体】


 額にじんわりと汗が滲む。

 同時に二体を制御する――思った以上に集中力を奪われる。


 さらに、MPゲージが微妙に減少していくのが分かった。


(……二体同時でも、召喚自体は問題ない。制御不能ってわけじゃないな)


 だが、気楽に維持できるほど軽いものでもなかった。

 常に神経の一部を割き続ける必要があり、知らず知らず疲労が蓄積していく。


(やはり上限はあるな……。二体までなら許容範囲。

 それ以上となれば、消耗が一気に跳ね上がるだろう)


 蓮は短剣を握り直し、二体の眷族を見渡す。

 黒い牙と、淡く輝くゼリー。


 新たに得た力は、まだ不完全だ。

 けれど、それをどう扱うかは自分次第だ。


 彼は深く息を吸い込み、呟く。


「これで……今の俺の現状、か」


 冷えた空気が肌を撫で、石室の奥で微かな水音が響いた。

 その音を背に受けながら、蓮は歩みを進める。


 次の検証と、次の戦いのために。

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