19:別視点、主人公2

「ということでハバネール先生! 学校休ませてくださいっ!」


「……の、ノエルさん? まず説明をしてくださりますか?」



王子が自分磨きの為に女性との関りを増やしたり、ダンジョンに行こうと決めたころ……。平民出身ながら魔導学園に進学したノエルこと原作主人公は、担任教師にお休みの連絡を入れていた。


まぁ全く説明していないので、先生側としては許可を出せるわけがない、という感じのようだが。



「え、えっとですね。ちょっと気に成ることがあって……、授業に集中出来ないんです!」


「確かに、心ここに在らずという感じでしたね。もう少し集中するように。」


「ご、ごめんなさいっ!!!」



勢いと大声で自身の謝意を示すノエル。


しかしそれがあまりにも大きすぎたのか、担任の先生は目を細めてそれを耐えねばならなかったが……。ハバネール教諭のいう通り、最近のノエルは授業に全く集中出来ていなかった。


理由はただ一つ。先日ダンジョンにて出会った仮面の君(ヴァネッサ)のことである。



(颯爽と現れて私のことを救ってくれたあの人……。うん、もっかいあって絶対にお礼を言わなきゃ!)



鍛練及び自身の使えるお金を増やすため、初心者用ダンジョンに籠っていたノエル。探索としては無事に成功し、数多くの魔石を手に入れ、ある程度まとまったお金を手に入れることは出来たのだが……。その最後に起きたイベントが、問題だった。


音もなく背後から忍び寄り攻撃してきた盗賊らしき存在から助けてくれた存在。


大きな外套で身を隠しフートと仮面で顔を隠していたせいでその男性。一体それが誰なのか解らなかったが、あのままでは自身はあっけなく死んでいて、それを救ってくれたのが仮面の君であることは間違いない事実。ダンジョンの中で顔を隠す様な事をするのはちょっと怪しいが、それがお礼を言わない理由にはならない。だからこそここ最近の彼女はずっと彼を探していたのだが……



「全然見つからなくて……。」


「なるほど。」



視線を少し下げながら落ち込むノエル。もう一度初心者向けダンジョンに行ったり、冒険者ギルドに行って聞き込みしたり、思いつく限りの手を試してみたが、結果はゼロ。もうこうなったら一日中ダンジョンに張り込んで探すしかないのでは! と思い、お休みの申請をしに来たのだ。


そんな相談を受けたハバネール先生は、「青春ですわねぇ、いやまぁ教師としては勉強に力を入れてほしい所なのですが。このままだとちょっと彼女の成績不味いことになりそうですし。」と考えながらも、こういった無茶が出来るのも学生の間だけだと考え直し、少しだけ手助けをすることに決める。



「そうですわね……。ではノエルさん、ちょっとした授業を致しましょう。まずその『仮面の君』ですが、何故正体を隠す様な事をしていたと思いますか?」


「え、それは……。隠したいから?」


「その通り。つまりその男性は、自分の正体が露見すると困る立場なのでしょう。」



そう続けながら、自身の推論を続けていく教諭。


まずダンジョンというものは、開かれているものである。つまり平民や冒険者だけでなく、一部の貴族とばったり会ってしまうような場所でもあるのだ。可能性は低いとしても、『そこにいてはいけない』人間は顔を隠すに違いないだろうと推察する彼女。



「単に顔を隠すだけならば犯罪者という可能性もございますが、盗賊に襲われたノエルさんを助けたこと。その後騎士団の捜索が行われた後に検挙されなったことを考えると、その線はないでしょう。つまり『身分を隠さなければならない程高貴な方』になるのでしょうね。」


「高貴な方……。」


「一部の方には成りますが、公務を抜け出しストレス発散の為にダンジョンに潜る方もいらっしゃいますし、学園にも隠れながらダンジョンに挑む方がいます。単なる体調不良とかでお休み為され、その間にダンジョンに行く。みたいなことをしている方もいられるそうですね。」


「ズル休み……、ですか?」



えぇ、そのように分類されます。という教諭。


無論学園側も、それを知っていて何もしないわけではない。余りにもぞの期間や回数が長ければご自宅まで訪問しに行くし、親御さんにも連絡する。そして内申点もゴリゴリ削られていくわけである。ちなみにその筆頭みたいなヴァネッサ様だが、依然として発覚していない上に学園側からも「マジでヤバめの病気患わってるっぽい、ご自宅でも勉強できるようプリントとか出してあげなきゃ……」という感じで扱われている。



「それに……、もう一度聞きますが、ダンジョンの外に出た瞬間、騎士団の方と出会ったのですね?」


「あ、はい!」



その返答を聞き、少し口元に手を当て考えた後。再度説明を始めるハバネール先生。


彼女の聞くところによると、その日冒険者ギルドに『国の騎士団がこれからダンジョンに向かう』という連絡は入っていなかったという。無論ギルドは国や貴族の献金に負け情報を秘匿することはあるが、ここでは『事前の連絡が無かった』という所にだけ注目すればいい。



「つまりその騎士団は、もしかすると『仮面の君』を守るための集団だったのかもしれません。高位の方となると、ダンジョンにでも護衛が付いて行くのが基本。少々お高いですが『帰還』の魔道具を使えば、一瞬で外に離脱することが出来ます。何かあった時は『帰還』で離脱し、後は騎士団が全力で安全地帯まで護衛する。」


「はえー。……あ、つまり! ダンジョンの外で騎士団の人がいるところに向かえば!」


「えぇ、もしかしたらお会いできるかもしれませんね。」



かなり良い所まで予測する先生。


まぁ本当は外で待っていた騎士どころか、ノエルを襲った盗賊までヴァネッサ様の護衛なのだが……。流石にそこまではたどり着けないご様子。けれどノエルからすれば十分すぎる答えだったようで、ようやく手掛かりを手に入れた大喜び。また人の鼓膜を破壊する様な大声で、お礼を言います。



「ありがとうございます先生!!! じゃ、じゃあ私! 早速行ってきますねぇ!!!!!」


「ぅッ」



お礼を言い終わると、喜色満面なお顔で走り去っていってしまう彼女。


余りにも声が大きかったせいか、今度はふらついてしまう先生でしたが……。とりあえず今回は先生個人の裁量で、『課外授業』扱いとしてくれるご様子。本来ならば無断欠席なのですが、若者の恋を応援しての、判断なのでしょう。


そんな優しい先生に眼もくれず、ただ自身の感情に従って走り始めたノエル。速攻で寮へと戻り、自身の制服をベッドの上にシュート。ダンジョンで活動する時の装備に着替え終わった後。即座に走り出します。向かうのは勿論、冒険者たちと共に多くの情報が集まる、ギルド。


其処に飛び込み馴染みの受付嬢の人を確保、その肩を振り回しながら『ダンジョンの外に騎士団がいる』場所を聞き出し……、お礼と共に再度ダッシュ。


ようやくたどり着いたのが……。



「ここだ! えっと確か……、『鼠と腐肉の迷宮』!」



ギルドが推奨する、初心者用ダンジョンの次に向かうべき迷宮。それがここ、『鼠と腐肉の迷宮』である。


その名の通り鼠のような動物型モンスターと、ゾンビのようなアンデッドが出現する墓場モチーフのダンジョンだ。毒などの状態異常を扱い魔物が多いため、毒耐性の防具や毒消しが必須なのだが……。全速力で走って来た彼女にそんな用意はないし、情報収集もほとんどしてない。


仮面の君に『会いたい』『お礼したい』という気持ちだけで走って来た彼女はもう止まらないのだ。視界にダンジョンの外にいる騎士の人たちを収め確信を持ちながら、勢いを止めずに全速力でその中へと入っていくノエル。


そんな猪突猛進状態な彼女が、『最初から観察していた』騎士たちの視線に気が付くわけもなく……。




「おい、あの子入れてもいいのか?」


「あぁ先行チームの奴から聞いたが、どうやらお嬢様の御友人らしい。“大事な方”とも言っていたそうだ。」


「この前ちょっと調べたが、学園に通う平民の子らしいぞ。あそこに平民で入れるってのはかなり優秀なんだろうし、もしかしたら才能を見込んでのスカウトなのかもしれんな。」


「なるほどねぇ、もしかしたら未来の同僚に。青田買いってやつか。」


「……未来の護衛候補を『大事』っていうか? いやあの人ならいいそうだが……。もしかして『コレ』か? お嬢、殿下のこと嫌いらしいし。もしかしたらソッチなのかもしれん。」


「何ッ、百合だとッ!? 私もその話に混ぜろッ! いや混ざってる場合ではないッ!」


「あ、馬鹿ッ! コイツいる前でそんな話するな馬鹿ッ!」


「不肖ベリアンヌッ! お嬢様と御友人の様子を確認するため、追跡しますッ! ご許可をッ!」


「出せ分けねぇだろ馬鹿ッ! おいお前らも手伝え! このバカ女止めるぞ! 御友人にしろ、そういうのでも、お二人の時間を護衛である俺らが邪魔するわけにはいかないだろうがッ!」


「は、私が百合の間に挟まる愚物だと言いたいのかッ! お嬢様にご理解いただいたこの癖を!? ひっそりと端っこから眺めているのが至高だというのに!? い、幾ら隊長でも許さんッ! 決闘を申し込むッ!」


「……え、お前。お嬢様に性癖の話したの?」


「もちろんです! 以前馬車の中で護衛させて頂いたとき、ガールズトーク致しました! 故郷では誰にも理解して頂けなかったのですが、お嬢様は親身に聞いてくださり、しかもより良いシチュエーションの話にまでしてくださって……! お嬢様の為なら私、300回ぐらい死んでも構いませんッ!!!」


「…………お前減給な。」


「何故ッ!?」




気が付かない方が幸せでしたね、うん。





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