16:ボス戦ですわ!



というわけでやってきましたダンジョン最終階層。


まぁ初心者用のものですので一番下でも5階まで。そこまで深くありませんし、道中で出て来た魔物も初心者に相応しい雑魚たち。そしてわたくしの眼の前に位置する、地獄へと繋がるかのような物々しい扉の向こうにいるのも……、コボルトが5匹と可愛らしいもの。


確かに以前のわたくし、始めてダンジョンに入ったレベル1の頃では絶対に勝てない相手でしたが、今の私レベルは9。カンスト真近なわけです。転職前に大きな成果を上げておきたいところですし、経験値的にもボスを倒せばちょうどレベルが上がるくらい。挑むには最適な相手と言えるでしょう。


というかもうすでに適正レベルを大きく超えているわけでして、そろそろここをクリアしてしまいたいんですけど……。



「考え直してはいただけないでしょうか?」

「我々としては反対です!」

「もっと準備を整えてからでもよろしいのでは?」


「護衛チームとしましては、満場一致で反対でございます。」


「なんで???」



私に付いて来てくれている護衛さんたち。先に進んで罠の解除や魔物の間引きをしてくれているらしい先行チームの皆さんと、私に何かあった際は即座に救援に飛び出せるよう後ろから付いて来ている追跡チーム。その両方、さらに全員から反対されてしまいます。


え、えっと。まず確認なのですが……。今現在の私の実力を皆さんは知ってますよね? この先にいるボスがコボルト5人組で、十分勝ちきれるってことは解ってますよね?



「無論です、恐れ多いですが指導もさせて頂いているので。」

「メキメキと実力を伸ばしておいでで……、幼き頃から御傍に降りました自身は感無量であります!」

「コボルト五匹程度では、十分に勝利することが出来るでしょう。」


「しかしながらダンジョンは何が起きるか解りません。更に『勝てる』というのは『無傷で勝ち切れる』という意味ではございません。お嬢様を無事に返すよう申し付けられている我らとしては、反対以外ございません。その辺りのことはお嬢様もご理解いただいているとは思うのですが……。」


「んもう! わからずや! ……まぁ解ってはいますけど。」



護衛の皆さんとしても、今の私の実力で敗北する様な事はない、というのは半分くらいがご納得して頂いている事実です。しかし以前私が隠しフロアを見つけて突撃したことが彼らの頭の中に残っているのでしょう、幾ら初心者用のダンジョンと言ってもイレギュラーが起きるのであれば、ボス部屋で起きてもおかしくない。そう考えるのもおかしくない話でしょう。


そして彼らが求めている結末と、私が求めてる結末も違います。私からすればコボルトに勝てばそれでいいのですが……、護衛の皆様の立場からすれば、『無傷』が大前提です。幸いこれまで一度もダメージを受けることはありませんでしたが、ボス戦でもそうなるとは限らない。しかもこれまで道中の相手も、大体3か4匹。5匹は初めてのことです。


隠しフロアの時は壁を上手く使って1対2を連続で繰り返すことが出来ましたが、今回は1対5です。心配になるのは理解してますし、止めてくれるのは彼らの忠義の表れなので、感謝しかないんですけど……。



「あのね、皆様。そもそもですが、わたくしこれからどんどん他のダンジョンに潜っていきますのよ? 皆様が強いのは理解してますが、いずれ上回りますし、皆様が付いて来れない様な高難易度ダンジョンにもいくつもりです。いま発見されているのでしたら『竜の樹海』とかですかね?」



原作で1年目の時に最高難度として出現していたダンジョンを上げながら、彼らに淡々と説明を行います。


何度も言いますが、わたくしの目的は『この世界を楽しみ抜くこと』。これすなわちゲームに出ていたダンジョンを全部攻略しちゃうというものに他なりません。その過程でどんどんと強くなっていきますし、その強さでこの身に降りかかる原作の『ヴァネッサの滅亡に繋がる』イベントもぶっ壊せたらいいなぁ、って思ってます。


今はまだ護衛の皆様に勝てると思いませんが……。いずれ追い越すのは確定事項なのです。



「そんな時にはもうお留守番しかお願いできないわけですから、今の内から慣れて貰わな……。あれ、どうしたのみんな?」


「え、そうなの……!?」

「て、てっきり簡単な所まわられたらご満足いただけるのかと……。」

「だ、だったら私らもっと強くならないと不味くね?」

「訓練の時間、倍にしなきゃ。」

「いやその前にお止め……、出来てたらそもそもダンジョンにお連れしてないか。」

「お嬢様のことだし、止めたら強行なさるものな。」

「昔、野生の熊が見たいって言って飛び出した結果。飼いならして共にお帰りになった時はもう心臓止まるかと……。」

「に、肉壁ぐらいには成れるか?」


「み、皆様~?」



「「「すいませんお嬢様、少々お時間頂きます。」」」



あ、うん。じゃあ待ってるわね、うん。


そう言うと、顔を合わせて話し始める護衛の皆様。と、というか私。軽く潜ったら満足すると思われてたのね。いや確かに普通のご令嬢のことを考えれば間違いではないのかもしれないけど、ちょっとショックですわ。今度から屋敷の中でもダンジョン好き好きと叫んでいた方がいいのかしら? 解りやすいし。


あと懐かしい話してる子いましたわね。故郷の領地でお友達になった熊のウォッカ君。今何してるのでしょうか……、最初ペットにしようとしたんですけど、まだ若いオスで結婚のお相手を探している感じでしたので途中で森に返しちゃったんですよねぇ。結構懐いていたし、そのまま騎獣かペットにしようとしてたのに。仕方ないこととはいえ残念でしたわ。



(もう結構たつし。無事お相手が出来ていればお子さんが出来てるでしょうねぇ。今度領地に帰ったら探しに行ってみましょうか?)



とまぁそんなどうでもいいことを考えていると、護衛の皆様の中で何かの方針がまとまったようで、此方に話しかけてくださいます。



「お嬢様のお気持ち、理解いたしました。しかし流石にお一人でボスに挑まれるのをただ待つわけにはいきません。そのためボスの間に一度に入室できる6名、つまりお嬢様を除いた5名をお連れ頂きたく思います。」


「あぁそういう。」



この世界のルール的な奴なのですが、ダンジョンのボスの間は入場制限が掛かっているのです。一度に入れるのは最大6名で、それ以上入ろうとすると弾かれてしまう感じです。まぁゲームでは単なるパーティ上限だったのですが、この世界では『6人がダンジョン攻略に最適に人数』という風に神様が決められている、みたいな感じに伝わっています。あ、ちなみにダンジョンの入り口に入場制限はありませんので、やろうと思えばボス以外は100人近いパーティを組んで移動する、ってのは可能だったりします。


して、護衛に付いて来てくれるということですが……。




「勿論大丈夫です。私が危なく成ったら割り込んで止めてくれる、ってやつですわよね? とてもありがたいですし、守ってもらっている身なのです。拒否することなんてありませんわ。」


「ご理解いただきありがとうございます。既に同行させて頂くメンバーは選出済みですので、どうぞお進みください。」


「何から何まで感謝ですわ! じゃ、楽しんできます!!!」



護衛の皆様のまとめ役、彼にそう言いながら、ボス部屋へと続く扉を蹴っ飛ばして中へと進みます。


見た目はかなり重厚な扉ですが、そこまで重くないのはゲーム作中でも語られていたこと。勢いよく開かれたそこに突っ込めば、見えてくるのは想定通りコボルト五人組。全員がナイフで武装した魔物たちです。


ささ、これから先は楽しい楽しい戦闘。精神を切り替え……、




全力で挑むのみ。





「ギャ! ギャギャー!」


「ㇱ!」



此方を視認した瞬間、即座に動き出すコボルトたち。そこに狙いをつけ、全力で引き絞った矢を放ちます。


寸分たがわずその胴体、心臓の位置へと突き刺さる矢でしたが……。おそらく骨か何かに阻害されてしまったのでしょう、後ろに吹き飛ばすことには成功するも、まだ動いていることから殺し切れていません。ですが再度立ち上がりこちらに接近するまで、多少時間がかかることは確か。一旦思考の外に置き、残り4匹の応対に動きます。



(距離15、もう一発弓!)



まだ弓の距離と判断し、即座に背へと手を回し、矢をつがえます。


しかし仲間が打ち抜かれたのを見ていたのでしょう。武器や腕を抱え、防御しながら相手が進んでいることを理解します。しかしその防御は、低能な魔物に相応しいというべき拙さ。無駄な動きをしたせいで、他の急所が露わになっています。


次に狙うのは、腹。



(そこッ!)



先頭を走っていたコボルトに突き刺さるの鉄の鏃。先程のように骨などに阻害されることなく直撃したソレは、確実にその内臓を破壊し尽くします。すぐに命を失う重要器官ではないため即死とはなりませんが、もう一度攻撃すれば即死するであろう消耗具合。


本音を言えば、ここで殺し切りたいところでしたが、削りとしては十分。思考を弓から近接へと切り替えるために、持っていた矢を後方へと放り投げながら、背負っていた槍を引き抜きます。



(距離10! ちょっと遠いが十分!)



そしてその勢いのままに、全力の踏み込み。


足の動き、体の動き、腕の動き。そのすべてを槍に乗せて、全力の突きを放ちます。狙うのは勿論先ほどの矢で貫かれ動きが鈍ったコボルトと、その背後にいる無傷のコボルト。確実に殺すため胸部、心臓に向かって叩き込まれたそれは、確実にその2体の生命活動を奪い取ります。


更に、追撃。


槍から手を離し、フリーへ。踏み込みによって加速した肉体を止めるよう、空いた足を地面に叩きつけながら、跳躍。その勢いの向きを水平から垂直へと切り替え、狙うのはまだ生き残っているコボルトの頭部。体に捻りを咥えながら、全力で蹴り飛ばします。骨を砕いた感触が全身に響きますが、未だ殺し切れた感覚は無し。一旦無力化と考え、未だ無傷のコボルトへと。視線を向けます。



(武器突き上げ、落下時狙い! ならッ!)



引き抜くのは、宝箱から手に入れた愛用のレイピア。


空中ゆえに踏ん張れず不安定なことは確かですが……、コボルトという小柄な魔物と比べると、細い体しか持たない私でも、体格差は上。落下の重力と共に体重をかけながら、敵の掲げるナイフに向かって剣を差し込みます。甲高い金属音と共に弾かれた後、より奥へと進んで行く切っ先は確実にその腕を貫き……、破壊。


これにより、残るコボルトは負傷したのが3匹のみ。しかし手元にある武装は突きしか出来ないレイピアと、まだ使っていない背負った矢のみ。



(負傷とはいえ、一気に3方向から同時に攻撃を受ければ、どれかは喰らいます。そうなれば護衛の方が割り込んでくるのは確実。出来る限りこの場は一人で切り抜けたい私からすれば、それは敗北に等しい。……ならッ!)



胸に突き刺さった矢をそのままに走り寄って来るコボルトと、頭をふらつかせながら寄って来るコボルト、そして至近距離で左腕しか動けないコボルト。


どれも負傷し勝ち切ることが可能な相手と言えど、油断は命取り。即座に策を組みあげ、行動に移します。



「仲直りの握手をしましょうッ!!!」



握り取るのは、至近距離にいたコボルトの左腕。未だ生き残っているがゆえに、それを使い私を殴ろうとして来るその根っこを掴み……。近い方のコボルト、胸から矢を生やしたそれに投げつけます。


上手くぶつかり、彼らが姿勢を崩している内に……、狙うのはふらついているコボルト。全力で走り寄り、直前でジャンプ。狙うのは再度その頭部で、ひびが入ったであろう頭蓋骨。そんな大きな弱点があるのなら、叩かぬ以外の選択肢はありません。


足裏をしっかり合わせ、ドロップキックをお見舞いします。



「ぶっとべッ!」


「アギャッ!?」



全身に響く、砕き切った音、っし、のこり2!


吹き飛んだコボルトに視線を送らず、着地した直後に走り出すのは、先ほど投げ飛ばしたコボルトたち。残る相手は2で、既に両方とも手負いの状態。普段は三つの武器を使い分けながら攻略する相手ではありませんが……、既にレイピア1本で殺し切れる相手!


もう、負けは無しッ!



「チェストィィィ!!!!!」



より近い位置にいた左腕だけのコボルトに向かって、叩き込む全力の刺突。確実に首元へと叩き込まれたそれは、頸動脈と神経を確実に貫き、絶命させます。そしてそのレイピアへと目が行った最後のコボルトに向かって叩き込むのは、拳。


いえ正確に言うならば……、背負っていた鏃。


貫いた瞬間にレイピアから離れたこの手。次に掴んでいた鏃を再度その胸に叩き込むことで、心臓を破壊。最後のコボルトを殺し切ることに成功します。


そして湧き上がる感情を押し込めながら、その場からローリングで移動。周囲の安全を確認し、殺したはずのコボルトたちが既に動いていないことを確認しきった後……。脳内に響く、小気味良い電子音。


えぇそうです。戦闘終了時に起こる、経験値の取得。そして経験値によって起こる、レベルアップ音ですッ!



「っしゃッ! 勝利ぃ!!! あ、ですわぁぁぁぁ!!!!!」





[STATUS]

Name : ヴァネッサ・ド・ラモルヴィーヌ

Race : 人間 (転生)

Age : 15

Job : 貴族

Level : 10 (MAX)(+1)

EXP : 62 / 62


HP : 12 / 12 

MP : 14 / 14 


ATK : 5 (+1)

DEF : 2 

M.ATK : 7 

M.DEF : 9 

SPD : 12 (+1)

LUK : 14


SP : 10 (+2)


Skill Slots: 0 / 3







ーーーーーーー




※SP(ステータスポイント)はレベルカンスト時に更に追加で+1されるため、現在ヴァネッサ様は10P分を自由にステータスへと割り振り、強化することが出来ます。




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どうかよろしくお願いいたします。


次回はお友達をお屋敷に呼びますわ~!

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