第10話  追撃

第10話 追撃

 港の埠頭に停められた一台のバイク。

 将武がヘルメットを掲げ、息を切らす姉と弟を迎えた。

「よく帰ったな、二人とも!」

「兄貴……おにぎり、まだある?」

「もちろん。三つとコーラもだ」

 短い笑いが広がる。だが――その直後、闇に赤い点が無数に灯った。

 空に浮かぶ影。

 数十機の黒いドローンが一斉に旋回を始め、赤いセンサーライトを彼らに向けた。

「……来やがったか」

 コウキが超電磁銃を構える。

     *

 最初の爆撃。

 小型爆弾が埠頭に降り注ぎ、コンクリートが砕け、海水が弾け飛ぶ。

「伏せろ!」

 将武が二人を庇いながら転がり、船の残骸の影に身を隠した。

「リナ、俺が撃ち落とす!」

「待て。数が多すぎる。撃っても……」

 言いかけた瞬間、リナの目に青い光が宿った。

「……やるしかない」

 スーツのラインが青白く輝き、リナは爆煙を切り裂いて跳躍した。

 拳が空を裂き、一機のドローンを叩き落とす。

 爆散した破片が夜空に火花を散らした。

「無茶しやがって……!」

 コウキは歯を食いしばり、超電磁銃を連射。

 稲妻の光が闇を切り裂き、ドローンの編隊を撃ち抜いていく。

     *

 その様子を少し離れた港湾道路から見ていたのは南雲武だった。

 煙草を噛みつぶし、視線を鋭くする。

「……やっぱりあの女だ」

 多田が隣で声を上げる。

「ナマさん、あれ……人間ですか?」

「さあな。だが――少なくとも俺たちより必死に戦ってる」

 無線に応答が入る。

『警視庁より。港にて未確認戦闘、直ちに応援を!』

 南雲は短く答えた。

「応援不要。……俺が見届ける」

     *

 夜の港を切り裂くように、八咫衆が影のごとく現れた。

 黒装束の忍がドローンに飛び付き、刃で胴体を切り裂く。

 一機、二機と墜落していく。

「やはり来ていたか……」

 リナが低く呟く。

 忍の一人が近づき、短く告げた。

「小野リナ。ここは退け。追撃は我らが受ける」

「でも――」

「生き残ることが使命だ」

 忍はそれ以上言わず、再び闇に溶けた。

     *

 埠頭の端に停めていた将武のバイクに三人がまたがる。

「兄貴、定員オーバーだぞ!」

「文句言うな、乗れ!」

 エンジンが唸りを上げ、黒いマシンが弾丸のように滑り出す。

 背後でドローンが追いすがり、赤い閃光を照射する。

 コウキが振り返り、超電磁銃を撃つ。

「姉貴、支えて!」

「任せて!」

 リナは弟の体を支え、彼の射撃を安定させる。

 稲妻が夜空を裂き、追撃の編隊を次々に爆散させた。

     *

 だが――最後尾から、一際巨大なドローンが姿を現した。

 通常の倍以上のサイズ、機体下部には大型ミサイル。

 赤い眼のようなセンサーがリナを捉える。

「大型か……!」

 リナの瞳が光る。

 バイクが急旋回し、海沿いの橋へと飛び込む。

 背後では、怪物のようなドローンが猛獣の叫び声にも似た爆音を立てながら迫ってきた。


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