異世界に妹を置いて来た俺、禁忌の扉で迎えに行く 〜なぜか恥ずかしがり屋のアンデットがモジモジしながらついて来た〜
お小遣い月3万
第1話 妹と禁忌の扉を抜けて異世界へ
妹を異世界に置き去りにして来た。
俺の家は千年以上も続く古い神社で、現世と異界の境界を守っていた。
異界は神々や魔物が住んでいると言われていて、10年に1度だけ
言い伝えでは扉の向こう側から魔物が出て来たことがあるらしい。
強い魔物だったらしく、人間では手がつけられなかった。
8つの頭と8つの尾を持ち、体は山のように大きい蛇。
どんなんだよ。
背には苔とか杉が生えて、自然と魔物が一体化していたらしいのだ。
その魔物の名前はヤマタノオロチ。
人間には、その魔物を倒すことができなかった。
だから俺の先祖様は扉の中に入り、強い冒険者を連れて来た。
冒険者だから性格は荒かったらしい。
せっかく連れて来たのに冒険者はなかなか魔物退治に行ってくれなかった。
1人の少女が魔物の生贄に捧げられることを知り、ようやく冒険者は魔物退治に行った。
そして彼は魔物を倒して、生贄になりそうだった少女と結婚した。
彼の名前はスサノオ。
古事記では神様として扱われている。
冒険者を連れて来た大谷家は、扉から魔物が出て来ないように祈りを捧げる役割を担うようになった。それが神社設立の起源である。
扉が出現する時は神社の気が高まるらしく、参拝者は急激に増えた。
なんのお知らせも告知もしないのに、強い気に引っ張られて人が集まって来るのだ。
10年に1度のお祭りである。
神社の周辺では出店が立ち並び、参拝者がひしめき合っていた。
夜の8時までお父さんとおじいちゃんは
扉に入れるチャンスは夜だった。
当時、7歳だった俺は虫取り網と虫を入れるカゴを持って、本殿に向かった。
異世界には、まだ誰も捕まえたことがない虫がいると思った。
もっと言えば新種のクワガタやカブトムシが狙いだった。
図鑑で大きな黄金色に輝くヘラクレスオオカブトを見て以来、友達が行ったこともない場所で虫取りをしたかった。
今思えばバカである。
海外なんて到底行けないから、異世界で虫取りをしようと思ったのだ。
「お兄ちゃん」
とミユが不安そうな顔をして、靴を持って俺に付いて来た。
当時のミユは5歳で、まだ幼稚園の年長さんだった。
俺にべったりくっ付いて来る甘えん坊の妹だった。
笑顔が可愛くて、クリッとした二重で、よく笑う女の子だった。
「ミユは付いて来るな」
と俺が言うと妹は悲しい顔をした。
「やだぁ〜」
「お兄ちゃんは怖い場所に行くんだ。鬼が出るかもしれないんだよ」
「虫とり行くんでしょ? ミユもついて行く」
「違う。鬼退治に行くんだ」
と俺が言う。
「アミ持って?」
と妹が尋ねた。
俺は自分の手に持ったアミを見る。
「そうアミを持って」
「嘘だ。虫とりだもん。ミユもついて行く」
俺も異世界がヤバい場所であることはなんとなくはわかっていた。
だからミユを異世界へは連れては行けない。
「付いて来るなよ」
「ヤダヤダ」
とミユが叫ぶ。
俺達がわーわーと叫んでいたせいで、コチラに向かって誰かが来る足音が聞こえた。
俺はミユに向かって、シッと人差し指を立てる。
そして本殿の中に入った。
杉で作られた古い建物は黒く風化していた。100年に一度だけ建て替えが行われるらしい。屋根は
神様の家と教えられて育ったから本殿は神聖な場所だった。
入ることは禁止されている。
だから初めて入る。
異世界へ続く扉なんて、絶対に入ってはいけない。
ミユは俺の服を掴んで離そうとしなかった。
仕方なねぇー。連れて行くか。虫を捕まえたら、すぐに帰って来るし。
本殿の中は夏なのに涼しかった。それに月の光も入らないくらいに暗い。
リュックから持って来ていた懐中電灯を取り出して、神様の家を歩いた。
「お兄ちゃん」と不安そうにミユが言う。
「怖かったら帰れよ」
「帰るのも怖い」
とミユが言う。
歩いていると、明かりが灯された部屋があった。
その部屋に入る。
ロウソクが灯されていた。
本物のロウソクではなく、電気で着くタイプのロウソクだった。それがちょっと近代的でホッとする。
座布団が2枚。
ココでおじいちゃんとお父さんが祈祷しているんだろう。
そして壁一面にお札が貼られていた。
見ただけで、息を飲んでしまいそうな古びた扉があった。
未来から来た猫型ロボットが取り出す扉のように、壁に設置されているわけではなかった。
部屋の中心に扉が佇んでいる。
誰もが直感的に、この扉が異世界に続く扉だと理解できる。
「誰かいるのか?」
とお父さんの声が遠くから聞こえた。
そして本殿の中に入って来る足音が聞こえた。
ヤバい。
お父さんに見つかったら怒られる。
それに俺の虫取り計画が消えてしまう。
俺は慌てて、扉に近づいて行った。
「お兄ちゃん」
と不安そうにミユが言う。
「お前はココに残っとけ」
「ヤダよ」
「ケンジとミユか?」と父親の声が聞こえた。
その声は、もう近くまで来ていた。
焦りと怒りが入り混じる声だった。
俺は慌てて、異世界への続く扉を開けた。
お父さんから早く逃げないと、という思いがあった。
それに、みんなに自慢できる虫を捕まえたかった。
妹は不安そうに俺の服の袖を握り、異世界に付いて来た。
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