第6話 失われた光と蛇の胎動

アゼルは、ヴァール王の側近を通じて、彼との間に秘密の盟約を結んだ。


そして、自らが集めた兵士たちを率いて、ライアス王のいる王宮を襲撃する。


夜の闇に包まれた王宮は、突然の襲撃に混乱に陥った。


剣と剣がぶつかり合う音、人々の悲鳴、そして燃え盛る炎が、夜空を赤く染めていく。


ライアス王は、自らの寝所に迫りくるアゼルの姿を見て、驚きを隠せないでいた。


彼の顔には、怒りではなく、理解にも似た表情が浮かんでいた。


「アゼル……貴様は、私を裏切るのか……」


アゼルは、ただ静かに、父を見つめた。


その瞳には、かつて父を尊敬していた光はなかった。


代わりに宿っていたのは、深い悲しみと、決意に満ちた光だった。


「父上……あなたの平和は、多くの犠牲の上に成り立つ、偽りの平和です。私は、アリシアを……そして、この世界を、あなたの歪みから救わねばならない!」


アゼルはそう叫ぶと、懐から短剣を取り出した。


それは、ライアス王がかつて、アゼルに与えた忠誠の証だった。


ライアス王は、アゼルの言葉を聞き終えると、静かに微笑んだ。


「そうか……お前が、私とは異なる『意思』を持つというのなら、それもまた、この世界の理か……」


ライアス王は、アゼルの悲痛な決断を認め、自らの腹に剣を突き立てて命を絶った。


血に染まった王の死体と、彼の信じた偽りの平和が、そこに横たわっていた。


こうして、アル・エテルナは、アゼル王の悲痛な決断によって、新たな時代へと突入した。


しかし、それは決して、平和の夜明けではなかった。


それは、さらなる悲劇へと続く、終わりなき混沌の序章に過ぎなかった。



第5章 深淵からの侵食

満ち足りた光の中に生まれた「意思の歪み」は、やがて世界を破滅へと導いた。


それはアル・エテルナを蝕む病巣となり、我らが故郷に深き傷跡を残した。


されど、絶望の中にも、世界は未来への「種」を紡ぎ出したのである。



アゼルは、ヴァール王の言葉通り、父ライアス王を討つことで、アリシアの病が奇跡的に治った。


約束を果たしたヴァール王との間に新たな同盟が結ばれ、アゼルはアル・エテルナの王として即位した。


彼は、愛する妻を守るため、そして父とは違う「正しい平和」を築くために、強大な力で世界を統治した。


人々は恐れを抱きながらも、再び安定した生活を取り戻していった。


アゼルが築いたのは、表面上は完璧な調和に満ちた世界だった。


しかし、その平和は脆いものだった。


アゼルが王として即位してから4年の月日が流れた。


彼の強大な力と、その統治方法に反発する者たちが、水面下で蠢いていた。


彼らは、アゼルの弱点、すなわち、彼が最も深く愛する王妃アリシアを狙った。


ある日、アリシアは毒を盛られ、病床に伏した。


アゼルは、過去の出来事が繰り返されるかのような現実に、ただ無力に、愛する妻の命が静かに消えていくのを見守ることしかできなかった。


「アゼル……アリスを……どうか、幸せに……」


アリシアは、最期にそう言い残し、息を引き取った。


彼女の瞳に宿っていた、夜空のような光が永遠に失われた瞬間、アゼルの心も共に砕け散った。


彼の心は、アリシアへの深い愛が、そのまま深い憎しみへと反転した。


彼は、妻を奪った世界と、その世界の理に復讐することを誓う。


その時、アゼルの内に宿った、悲しみと怒りという負の感情に誘われ、世界の理を喰らう災厄「蛇」が魔力の塊となって現れた。


「チカラが欲しいか……」


それは、アゼルの心を蝕み、彼を世界の破壊者へと変えるための、甘い囁きだった。


「チカラが欲しい……この世界を壊す為のチカラが……」


アゼルは、蛇の魔力を受け入れた。


「もう、何も失いはしない……」


彼の声は、かつてないほどの冷たさを帯びていた。


アゼルの心を喰らい、世界に現れ出ようとする蛇の胎動は、アル・エテルナの終わりを静かに告げていた。



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