ごはんで描く世界地図

木咲 美桜花

第1話 地図の上のひとくち

教室の窓から差し込む午後の光に、私は目を細めた。


いつもの放課後のはずだった。


しかし、次の瞬間、世界はふわりと揺れ、机の上に広げた地図が光を放ちながら宙に浮かび、私を吸い込んだのだ。


目を開けると、そこは見知らぬ街並み。


瓦屋根の家々が連なり、石畳の道には朱色の鳥居が幾重にも続いている。


遠くに見える山々は、薄紫色の霧に包まれ、川の水は光を反射して七色にきらめいている。


空には二つの太陽がゆっくりと沈みかけ、桜色の雲がふわりと浮かんでいた。


「……え、ここは……どこ?」私は小さく呟いた。


胸の奥が不思議な高鳴りで震える。


足元には市場が広がり、屋台には見たこともない料理が並ぶ。


小さな団子のようなものから、魔法の火で焼かれたおにぎり、香ばしい香りを放つ巻物のような料理まで。


思わず手を伸ばすと、焼きおにぎりをひとくち噛む音が**パリッ**と響き、口の中でジュワッと旨味が広がった。


あまりの美味しさに、思わず目を細める。体の中まで温かくなるような幸福感が、じんわりと広がる。


通りを歩くと、耳に入るのは小川のせせらぎ**サラサラ**、竹林を渡る風の**サワッ**、遠くの鳥居に結びつけられた鈴の**チリリ**。


屋台の焼き餅が返される音、茶碗に温かいお茶を注ぐ**ポタッ**という音 すべてが生きているように感じられた。


ああ、これが魔法の世界の息遣い……。私は胸を躍らせた。


市場の奥に進むと、和服を思わせる衣装をまとった人々が笑顔で行き交う。


「いらっしゃい、旅人さん。今日のおすすめは焼き栗です!」


温かい声と笑顔に誘われ、私は小さな籠に焼き栗を入れた。


ひとくちかじると、皮が**カリッ**、中の栗はトロッと甘く、口の中に秋の香りが広がる。


「……すごい……」思わず小さく呟いた。


地図を見ると、金色の光で次の目的地が示されている。どうやら、この地図はただの


地図ではなく、旅の指針になる魔法の地図らしい。


小さな漆塗りのスプーンを握りしめ、私は深呼吸した。


「これって……冒険、始まるってことだよね?」


歩きながらふと見上げると、街角の小さな神社では祭りの準備が進んでいる。


提灯が風に揺れ、灯りが**チカチカ**と瞬く。


甘い匂いの団子屋台が並び、子どもたちの笑い声が響く。


ここは異世界なのに、どこか懐かしい、日本の風景そのものだ。


夕暮れが近づき、空が茜色に染まるころ、街の奥に小さな茶屋を見つけた。


引き戸を開けると、ほのかに香る抹茶と焼き餅の匂い。


座布団に腰を下ろすと、店主がにこりと笑いながらお茶を注ぐ。


**シュワッ**と湯気が立ち上り、飲むとほろ苦さの中に甘みが広がった。


一口ごはんを食べるたび、体も心も温まり、知らない世界に少しずつ馴染んでいく。


小さな冒険、出会い、そして味わったご飯のひとつひとつが、私を少しずつ成長させてくれる気がした。


これは、ただの異世界でも、ただのごはんでもない。


地図とごはんが織りなす、心躍る異世界の冒険物語。


ふわっと香る出汁の匂いに誘われ、今日も新しい味を探す旅が、静かに、そして確かに始まったのだった。

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