クズによる国家転覆?!最強のクズは仲間を集めて、国に復讐する?

もぶだんご

第1話 クズとクズは引かれ合う?

 ある日の夕刻、静まり返るBARに2人の客が入ってきていた。特に関係の無い2人は、それぞれ、カウンターの端に座る。


 席に座ろうとした時、二人の間で巧妙なバトルが行われていた。先に入った男は最速で、出口に近い端の席を取りに行っていた。それと同時に、女は自身のハンカチを男の椅子に落としていた。


 男はそのハンカチを見て、当たり前のように無視をする。しかし、それは女の想定内だった。


「マスター、最高級の酒とつまみを頼む」


「...かしこまりました」


 それを聞いたマスターは、目を細め、その男を見てから、ゆっくりと返事をした。このBARは客がいないというだけで、置いてある品物はどれも一級品。


 街にいる冒険者や傭兵程度が頼めるものではない。しかし、その男の指につけられた指輪を見て、躊躇うことなく注文を受けた。


 それを聞いた女の口角が、人知れず上がりだした。


「マスター、私にも同じものをお願い」


「...かしこまりました」


 男には見えない角度の舌舐り、マスターは意図を理解し、その注文を受けた。その時、男と女の視線が合った。


((こいつ、同類だ))


 そして、もちろん思考さえも合致した。


 酒が置かれ、ツマミも机に置かれた。その間、静かなBARは客の来店さえもなく、2人の酒と時間だけが進んでいく。


「ねぇ、それだけで終わるつもり?」


「...ほう」


「マスター、彼に同じお酒をもう1杯お願いするわ」


 女は値段に目もくれず、そう言い切り、男の隣に座る。落としていたハンカチを見つけた体で、だ。


 男もその意図を分かってか、即座に作戦を切り替えた。その為、マスターから酒を貰う時、同じくこう告げる。


「マスター、この女にも最高級の酒を頼む」


「かしこまりました」


 この時、マスターは久々の大儲けに内心喜んでいた。しかし、先程と同じ酒は既に空っぽ、裏にあるワインセラーへと酒を取りに行く。


 その足取りは軽く、注文されたもの以上の酒を持ってきていた。本来貴族ぐらいにしか出さないあろう酒は、やっと日の目を浴びたのだ。


「お待たせ致しました...っ!?」


 しかし、そこには誰もいなく、静まり返ったカウンターが閑古鳥を鳴かしていた。マスターは一縷の望みをかけ、お手洗いを見に行くも、もぬけの殻。


「私とした事が...は、早く被害届けを出さなくては...」


 マスターは、閉店の看板を店に掲げ、鍵を閉めてから、冒険者ギルドへと向かっていった。その足取りは重く、その目には親の仇と言わんばかりの怨嗟の炎が、静かに燃え盛っていた。


 時を同じくして、人気のない路地裏で、2人の男女が向き合っていた。食い逃げをしたクズ2人である。


「どうしてくれんだ、テメェのせいで犯罪者になっただろうが」


「先に逃げたのはアンタでしょ。どうしてくれんのよ」


 クズ2人は、自身に非はないと言い切るほどには腐っていたが、既に時は遅く、この男、数十件に及ぶ食い逃げ、強盗、殺人をしているクズである。


 そして、女の方、こちらはハニートラップで荒稼ぎし、強盗、殺人も行うクズである。この手段で男を破産させた結果、借金奴隷に落ちた者もいる。


 そのクズ2人は、何の因果か、あのBARで巡り会ったのだった。


「はぁ...これでこの国には居られねぇな。お前もとっとと、この国を出ろよ」


「それは出来ないわね」


「あ?どうしてだ?」


「私はある男を探している。その情報を得るまではこの国から出られないの」


「どんな男だ?」


 男は興味本位からか、女に対し、探し人の特徴を聞いた。女は少し言い渋るが、自身を多少知られることよりも、情報が欲しかったようだった。


 その為、この王国の城を見ながら、女は話し始めた。


「前提として、私はその男を殺すために、生きている。家族の...一族の仇を取らなければならない。その男の情報だが、半年前、王国騎士団を追放された男だ」


「半年前...ねぇ。そいつは、騎士団長ルイン・アルブレイドかい?」


「その通りだ」


「はっはっはっ!指名手配されているビッグネームじゃねぇか!余っ程のクズだからな。そりゃあ命を狙われるか」


 それを聞いた女は、ナイフを抜き、男の首元に当てていた。もちろん、男もその動作は見えていたが、殺す気がないと分かり、抵抗はしなかった。


 その代わり、殺意の籠った目を女に対して向けていた。それは、何かを察したようでもある。


「あんた、あのクズと関係があるんだろ?」


「黙れ、貴様如きが私の兄を愚弄するな」


「はっ、兄がクズなら妹もクズか!お前らの親が可哀想で目も当てられねぇな!」


「貴様ァァ!!」


 女は怒りに任せ、首筋に当てていたナイフを深く突き刺そうとしていたが、既に気を失い、男にもたれかかっていた。


 そして、それと同時に、真っ白なコートに赤いライオンのエンブレムを入れている女が現れた。


「ボス、お目当ての者は捕まえられましたか?」


「リンクス...か、ああ、確保した。アジトに戻るぞ」


「はい」


 そう、このクズ男の目的は、最初からこのクズ女だった。何が目的か、ボスと呼ばれるクズ男はクズ女を誘拐した。


 そうして、女を拘束した状態で、アジトと呼ばれる場所に引き返した。


「さぁ、そろそろ起きてもらおうか、お姫様」


 クズ男はバケツの水をクズ女に浴びせ、強制的に目を覚まさせた。クズ女は、即座に暴れ出すも、抵抗は出来ないことをすぐに知る。


「...何が目的?」


「目的...か、トッププレデター。まずはこれで十分か?」


「...王国を敵に回す集団が、私になんの用?」


「そうだな。てめぇの目的の手伝いをしてやる。ニナ・アルブレイド」


「なぜ私の名を...」


「それは大事な事じゃねぇ。俺らも個人的にルイン・アルブレイドには用があってな。どうだ?ウィンウィンだろ?」


 トッププレデター、一部からは革命家と呼ばれる王国に敵対するテロ集団。


 このテロ集団の情報は殆どなく、分かっていることは、コードネームが動物由来だという事と赤いライオンのエンブレムを身につけている事だけ。


 そして、この集団は平然と人を殺す。それに、ニナはこの男の目的には気がついていた。自身ををダシにして、兄であるルインを殺そうとしている事を。


「一つだけ...条件があるわ」


「状況が分かってんのか?」


「ええ、分かっているわ」


「面白ぇ、言ってみろ」


「私を殺すのは、兄と会わせてからにして」


 それを聞いた男は笑いだした。圧倒的な重圧の中、命乞いでもするのかと思っていたところに、歪な家族愛を垣間見た。


 殺したい相手に1目会いたい。なんて健気な少女なのだろうか。


「いいぜ、お前の願いを聞いてやる。コードネーム、ホープ...喜べ、儚い希望」


「くっ...」


「俺のことは、なんて呼んでもいいが、仲間からは、クズリだのボスだの言われている」


「分かったわ。クズ」


 それを聞いたクズ男、クズリは、拘束しているニナの顔の横に強烈な蹴りを入れる。その威力はおおよそ人のものとは思えず、壁をひび割れさせた。


 クズリはニナの顎を掴み、見下ろしながら、目を合わせる。それも、強烈な殺意を帯びた目を。


「口には気をつけろ。出なきゃ、テメェの兄に会うという希望が消え去るぞ」


「...」

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