第3話
そしてレンガ風の建物の教師寮に着く。
最上階には明かりがついているのが確認できる。
誰かいるのは確実。
そして教師寮の入口には
「セキュリティロックがかかってる……。」
専用の鍵がないと入れないようになっていた
「仕方ない、今日は諦めよう。」
「誰か先生に用事かな?」
「うわっ!?」
後ろから声をかけられ思わず声を上げてしまった。
「すまない、そんなに驚くとは……。」
振り返るとジャージを着ているガタイの良い男性。
恐らく……。
「えっと、体育の先生ですか?」
「あぁ、西雲 比翼(さいうん ひよく)。レスト学院の体育を担当しているよ。」
やっぱり。
しかし、さっきの東雲先生といい
背後に人に立たれているのに気づかないなんて
お姉がここにいたら気が緩んでるとか言われて投げ飛ばされる……。
「それで誰か先生に用事かな?よかったら呼んでこようか?」
「い……いえ、転入してきたばかりなのでちょっと学校敷地内の散歩を。」
「あぁ、そうだったんだね。入口を行ったり来たりしてたから何か困ってたのかと。」
完全に私って不審者だ。
「教師寮って六階建てなんですね。大きくないですか?」
「そうだね、でも一、二階は男性職員の部屋、三、四階は女性職員の部屋。五階は共用施設で実際に使っているのは五階までだからそんなものかと。最上階は物置になってるみたいだよ。僕は入ったことないけど。」
「物置……。」
最上階を見上げて数秒後、電気が消えた。
一体何の物が置いてあるのか。
「それじゃ僕はこれで。暗くならないうちに帰るんだよ。」
そう言うと西雲先生は教師寮ではなく校舎の方へ歩いていった。
これ以上は収穫なさそうね。
踵を返して寮へ帰ろうとしたら教師寮の玄関のドアが開いた。
振り返るとそこには一人の女性。
顔立ちは私達と変わらないくらいだろうか、でもスーツ姿で杜若色のショートカットが似合う凛とした雰囲気の女性だ。
その人と目が合う。
「あなたもしかして……。」
そう言ってその女性は私に駆け寄る。
「やっぱりこの魔力……この前は大丈夫だった?」
「えっ……えっと……学校の先生ですか?いや、魔力って裏世の人?」
「あぁ、ごめんなさい。挨拶が遅れたわね。」
そう言うとその女性は胸ポケットから名刺入れを取り出し私に名刺を一枚渡す。
「暁傘下貴族巴家直轄組織ヌヴリエ。統括長の巴・ミリアナ・弓矢よ。」
弓矢さんへ連れられてそのまま教師寮へ行きエレベーターに乗って六階でおりる。
エレベーターが開くと指紋認証パネルがあり弓矢さんがそこに指を乗せると目の前の頑丈なドアが開いた。
そこには向かい合うように並べられた机と椅子が十人分。
でも今は誰もいない。
壁には世界地図や裏世の地図が貼られている。
「こちらへどうぞ。」
そして応接室のようなところへ案内されて
数分後、今は出されたお茶を飲んでる。
さて、どっからツッコめばいいのか。
「藤代 日晴ちゃんでいいかしら。」
「私のことも筒抜けなんですね。」
「刃黒さんから話は聞いてたから。基本は手を出さなくていいとは言われてたんだけど。あっちゃんから倒れたって聞いてたから心配してたのよ。」
「えっ……えっと……あっちゃん?」
「時雨 篤志君。担任なんでしょ?」
「えっと……どうして時雨先生がヌヴリエと……。ヌヴリエって確か裏世と表世を結ぶ情報通でしたよね。」
「まあ、そんなものよ。……あっちゃんとは色々あってね。もう随分な付き合いよ。それで、本当に身体は大丈夫なの?」
「えぇ、今はなんとも。ご心配おかけしました。」
「まあ、あなたとしては知らない人から心配されるとは思ってなかったでしょうけどね。一応流日ちゃんから事の成り行きは聞いてたから。」
「姉と知り合いなんですか?」
「お互い情報収集の専門だもの。もちろん足の引っ張り合いじゃなくて情報交換の仲としてお世話になっているわ。」
そうだったんだ……。
まあ、家中のことに関心を持たない私も悪い。
「えっと……それでここはどこなんですか?昔のレストの卒業アルバムでは裏世管理対策本部と書かれていて、学校の先生からは物置って言われてましたけど。どう見てもオフィスですよね。」
「えぇ、ここはヌヴリエの本部よ。レスト学院は元々裏世の人が作った学校でね。裏世の子も通えるようにしてて、そんな子を補助する名目で裏世管理対策本部が作られたそうなの。結果として裏世の子は集まらなくって本部も解散しちゃって、使われてない場所をヌヴリエで使わせてもらってるって感じかしら。」
刃黒様……私を派遣する理由付けテキトーすぎる。
「ヌヴリエはどうして表世にあるんですか?裏世の組織なら通常裏世にあるものかと思うんですが。」
「そうね……表世にも魔力を狙って来る悪い人や魔法生物が現れてるからってとこかしら。」
魔法生物……。
「確か昨日、魔喰がレストの森に現れたって。」
「えぇ、多分日晴ちゃんの魔力を感知したんでしょうね。」
私のせいか……。
「日晴ちゃん。魔力の遮断ってできる?」
「う……いえ、わけあって私は十年ほど引きこもりで、恥ずかしながら自分の魔力がそれから変わってないものと思ってたのでまさかの魔喰が吸い寄せられるほどとは。」
「日晴ちゃんの魔法って?」
「カード魔法です。使っているのは初心者向けのものなので消費魔力も威力も小さいです。」
私は太ももにつけているカードホルダーから武器のカードを取り出し机の上に広げる。
「カード魔法……話には聞いたことがあるけどこれが……。」
弓矢さんは並べられたカードを興味深そうに眺めている。
「カード魔法は使うカードによって消費魔力が変わってきますけど枚数を調整すれば魔力不足になりにくいので……ずっとこれを使ってたし、藤代から出ることもなかったし、だから自分の魔力貯蔵量を把握出来てなくて……ヌヴリエの皆さんにはご迷惑をかけてすみません。」
「謝ることはないわよ。でも魔力の遮断ができないのは色々と不便でしょう。」
弓矢さんは立ち上がって私の前まで来て手をかざす。
途端ふわりと服を羽織ったような感覚がした。
でも何か服を着たわけじゃなく
違和感はすぐに消えた。
「移動結界魔法よ。これで魔力が遮断されて敵に魔力を勘付かれることもなくなるわ。まあ、触れられたらそれまでだけど。」
「移動結界魔法って……そんな上位結界魔法をかけてもらっていいんですか?」
「気休めだもの。根本的な解決にはならないわ。一番は日晴ちゃんが魔力の遮断をできるようになれればいいわね。もし良かったらヌヴリエのメンバーを紹介するわ。魔力を遮断する方法って人によって色々だし。ヌヴリエも色んな魔法使える人が集まってるし。あっ、もしかして藤代専用で遮断する方法とかある?それならそっちにお任せしたほうがいいかしら。」
「え……えっと、お姉に聞いてみます。」
こんなにトントンと事が運んでいいものなのかな。
いや、それだけ私の魔法遮断が急務なのよね。
「そう、何かあったらさっきの名刺の番号にいつでもかけていいから。」
「あの……どうして初対面の私にこんなによくしてくれるんですか?私、なにも返せるものなんて……。」
「別に見返りを求めているわけじゃないわよ。私が力になれるなら困っている人を助けたいだけよ。」
そういうことをサラリと言えるなんてすごい人だなぁ。
そして弓矢さんと別れて私は寮で電話をかけてお姉に報告。
『そう、弓矢さんと会ったのね。』
「うん、まさかヌヴリエの本部が表世にあるなんてびっくりしたよ。」
『そうね、私も最初聞いた時は驚いたけど……いえ、それより魔力遮断の話よね。』
「ちなみに藤代専用の何か方法ってあったっけ?」
『別にないわよ。逆にヌヴリエの方に手伝っていただけるならそうしなさい。あなたも久々に色々な人と交流を持てるいい機会になるでしょう。謝礼は私のほうからちゃんと渡しとくから。受け取ってくれるかは別問題なんだけど。本当にいい人すぎて心配になるのよね、弓矢さん。』
お姉がそう言うなら本当にいい人なんだろうなぁ。
『それにしても日晴の魔力が魔喰を呼び寄せるほどのものだったなんて……迂闊だったわ。ここ数年は体術ばかりで魔法の方は全然私は相手してなかったから。』
「ええ……本当に。」
色んな意味で……。
『それじゃまた何か進展があったら教えてね。でもくれぐれも無理しないのよ。』
「分かってる……ありがとう、お姉。」
そしてその後、弓矢さんに電話をして
今週の土曜日にヌヴリエの人に会わせてもらうことになった。
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