最終話 悪役令嬢モノの王子に転生したので知識チートで令嬢たちを幸せにします
夜を押し上げるように、城の中庭に朝の光が差し込んだ。
封印の柱跡――白い痕の縁が薄く輝く場所に、二つの影が現れる。
ヴァリスと、彼の胸に抱かれたレイナだった。
「あっ」
フェリルの短い声に、そこにいた者たちの視線が一斉に集まる。
フェリルの肩にもたれて眠っていたミリアがぱちりと目を開け、次の瞬間には跳ね起きていた。
「レイナの馬鹿!」
「レイナ姉様!」
同時に声が響き、二人は逃がすまいとするようにレイナへ抱きつく。
押し倒される勢いで抱えられ、レイナは目を瞬かせ、それから泣き笑いの顔で「ただいま」と囁いた。
少し離れたところで、エルフェイン公爵とアグレイア侯がヴァリスに歩み寄り、揃って礼を取る。
「よくぞ御無事で」
「殿下、何と言ってよいか」
アグレイア侯ライヴェールは言葉にならず、ただ深く頭を垂れた。
ヴァリスは頷き返し、戻った実感とレイナを取り戻した達成感を抱きつつも、まずエルフェイン公に確認する。
「教国の動きはどうなっていますか?」
「まだアルス様が待機しておりますが、問題は――」
「もうあいつら絶対攻めてこれないから安心して!」
父の言葉にかぶせるように、ミリアが叫んだ。
彼女の声は久しぶりに無邪気な明るさを取り戻している。
ヴァリスとレイナは顔を見合わせる。
「……どういうこと?」
「
エルフェイン公の言葉にまたしてもミリアが割り込む。
「やっぱ神様に愛され過ぎてんのよねー」
ミリアはピースサインを作り、軽口を飛ばした。
「"
驚きに、ヴァリスとレイナの声が揃う。
レイナは慌ててミリアの身体を確かめはじめた。
「身体は大丈夫ですの?! どこか痛くありませんの?!」
「ちょ、レイナ、やめて。あんっ♡ そこはダメ♡」
ミリアの変な声が聞こえたが、ヴァリスは聞かなかったふりをした。
その隣でフェリルは穏やかな笑みを浮かべている。
ヴァリスから離れたアモン――“コマちゃん”が、フェリルの頬に甘えるように擦り寄っていた。
「そうか、アモンの力による魔力供給――」
ヴァリスは小さく息を整える。
本来は使うことが出来ない
「――ホント、キミの存在こそが一番の
フェリルは照れたように笑い、コマちゃんの頭を撫でる。
ヴァリスの脳裏に前世の物語『王冠と純潔の檻』がよぎる。
令嬢たちが"幸せになるだけの物語”の主人公――堂々たる"チート"は、やはりフェリルなのだ、と。
* * *
「ごめんなさい、お父様」
レイナはライヴェールの胸へ飛び込んだ。侯は驚きに一瞬固まったが、すぐに両腕で娘を抱きしめる。
「お母様が助けてくれたの」
「ローラが? それはどういう――」
戸惑いを見せるライヴェールに、ヴァリスは少し躊躇してから"銀の腕輪"を取り出し、
光の文字が、静かな声を連れて現れる。リーン、と鈴を鳴らすような調子の"ローラの言葉"が、ひとつずつ場に落ちていく。
「……これは、ローラの声」
ライヴェールの耳にローラの本当の想いと願いが彼への愛の言葉と共に流れ込んでいく。
「……」
ライヴェールの腕から力が抜け、膝が落ちる。
今度はレイナが父を抱きとめる番だった。
「……ああ、ローラ。俺はこんなにも何もわかっていなかったのか……すまない」
悔恨の声に、ヴァリスは胸が締め付けられる。
すでにこの世を去ったローラの本当の願いと想いをライヴェールが知ることで、新たな苦しみが生まれるのかもしれない。
だが、これを知る権利と義務は、彼には確かにあるのだ。
泣き崩れるライヴェールを支えたまま、レイナが囁く。
「お父様、わたくしは、愛し合うお父様とお母様の間に生まれました。それを誇りに思います」
長く続いた親子のすれ違いは、ここで"終息"した。
その光景に胸が暖かくなる。
そして安堵が広がったその刹那、ヴァリスの身体からどっと疲れがきた。
まずは休みたい――そう思える今の状況に、ヴァリスは静かな幸福を覚えた。
* * *
レイナの救出から"半年"が過ぎた。
ヴァリスとレイナの婚礼、ならびにヴァリスの即位はいったん"延期"。
国内の混乱収拾と周辺国との外交を優先した。
そして、いま、武王アルスと王妃ミナは連れ立って"周辺各国を行脚"している。
儀礼を避けがちだった武王と、公の場にほとんど出なかった王妃が、"二人揃って姿を見せる"ことの意味は大きい。
疑念は薄れ、国境は静まる。
この巡回を考えたのは、ヴァリスだった。
ローラの件で負い目を抱えて日陰に退いたミナと、その原因を作ったアルス。
懸念が払拭された今、"遅すぎた新婚旅行"も兼ねて、王国のために働いてもらう――"一石二鳥の作戦"である。
「さすが、殿下。転んでもタダでは起きない悪辣さですな。国の王たるものそうでなくては」
ロズハイム公が口角を上げる。
「もう少し言い方があるでしょう?」
ヴァリスは肩をすくめた。宰相役としてのロズハイム公は、軽口と実務を巧みに両立させる。
また大きく立場が変わったのはミリアだ。
安全保障上の理由から、アモンを使役する精霊使いフェリルの存在は"対外非公開"のまま。
結果として教国は、
さすがにこれを蹴ることは教国の存在意義を大きく揺るがせることに繋がる。
嫌々ながらもミリアは聖女認定を改めて受け、"儀礼式典"に限って定期往来することになる。
「三日ぐらいで行き来できるようにしてくれないと身体が疼いて、あっちで浮気するかもしれないわよ!」
「聖女が言うような脅しじゃないだろ?! しかも、こっちにいるときでもそんな頻度はどっから来た!」
脅し(?)に応えたわけではないが、教国方面の"精霊機関車の軌条"は優先整備され、"往復二日"で行き来可能に。
巡礼路としての需要も生まれ、教国側も「信仰の広がり」として歓迎した。
そして、旧ベルテア王国――いまは"ベルテア領"。
ヴァリスの判断で、ここは"自由都市"として特定の国に属さない方向で準備を進めている。パワーバランスの観点から“アルヴェリアがすべてを抱える”ことを避け、また南方国境の"防衛線の過伸長"も避けるためだ。
当面はアグレイア侯が治安維持を担うが、将来は"自警団"へ移行を予定。自治は国籍を撤廃のうえ、"商人と職人の選挙"で議会を構成する。
稚拙でも、これは"ライナス・ウォルムの夢見た民主の芽"だ。
もちろん、各国から送り込まれる有力者の"金と影響力"が選挙を濁らせるかもしれないし、アルヴェリアが何もしなければ"汚職"も広がるだろう。
だが、それでも試す価値はある――というのは建前でもあり、アルヴェリア王国だけで手いっぱいなのだから"自分たちでもがんばって国を良くしろ"という本音もヴァリスには同時にあったのだが。
* * *
さらに半年が過ぎ、"戴冠の日"。
ヴァリスが"王"に、レイナが"王妃"になる日が来た。
ミリアとフェリルをはじめ、皆が見守るなか、厳かに儀礼は進む。
ヴァリスは隣に佇むレイナの美しさに目を奪われた。
レイナは静かに微笑み、彼の視線を受け止める。
その慈愛に満ちた姿に“悪役令嬢”の影はない。――いや、"もともとなかった"。
「……やはり、キミは国母に相応しい」
いつか囁いたのと同じ言葉が、自然と口から漏れる。
レイナは、あの時と同じようにぱちりと瞬き、しかしあの時と違う言葉で返した。
「わたくしだけではなく、ミリアもフェリルも待っているのですから、急いでいただかないと♡」
視線の先で、ミリアの好奇心に満ちた瞳と、フェリルの儚げな瞳が柔らかく光る。
ヴァリスはレイナに向き直り、胸に手を当てる。
「もちろん、この全霊をかけて――」
"悪役令嬢モノの王子に転生したので知識チートで令嬢たちを幸せにします"
Fin.
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