音の旅路
@haniwaseizin
第1話
第1話 挫折の残響
春斗は、ギターケースを押し入れにしまい込んだまま、もう数か月も触れていなかった。
高校時代に組んでいたバンドは、文化祭のステージを最後に解散した。夢は大きかったが、仲間との衝突や、自分の未熟さが原因でバンドはバラバラになり、残されたのは苦い思い出だけ。
――自分には才能なんてない。
――音楽の道を選ぶなんて無謀だったんだ。
そう言い聞かせるように春斗は音楽から距離を取った。
アルバイトと大学の講義に追われる毎日。
それでも夜になると、ふとした瞬間に脳裏にメロディが浮かぶ。耳の奥でギターの残響が鳴る。
彼の心のどこかで「まだ終わりたくない」と叫ぶ声があった。
だが、それを認めるのが怖かった。夢にしがみつく自分を笑うのは、誰よりも自分自身だったからだ。
ある晩、駅前を歩いていたときだった。
ふと立ち止まり、ストリートピアノから流れる旋律に耳を奪われる。
澄んだ音色に、暗がりを切り裂くような力があった。
鍵盤の前に座っていたのは、長い黒髪を揺らす少女――海香だった。
春斗は立ち止まり、心の奥で何かが微かに震えるのを感じた。
忘れていたはずの情熱の残響が、静かに目を覚まし始めていた。
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