第7話

 翌日。まだ朝日が昇りきらぬ頃、ザーハンは落ち着かぬ足取りで屋敷を出た。黒い外套を深く羽織り、あたかも人目を避けるかのように。だが向かう先は決まっていた。町の聖堂である。


 広場では、冬の寒さを忘れさせるように人々のざわめきが満ちていた。子どもたちが色とりどりの衣をまとい、歌の練習をしている。笑い声が混じり合い、澄んだ鐘の音が空に溶けていった。


 ザーハンは石壁の陰に立ち、腕を組んでその様子を見つめた。彼の鋭い視線が一人の少女に吸い寄せられる。小さな身体に、繕いを重ねた古びた服。だが、彼女の瞳は驚くほど澄んでいた。


「……あの子が」


 司祭が静かに現れ、耳元で囁いた。ザーハンは眉をひそめたまま、少女を見据える。


 少女は歌を口ずさむ。声は細く、かすれがちだ。けれど不思議なほど胸に響いた。そこには、貧しさや孤独を超えてなお残る、生きようとする力があった。


 ふと、少女の視線がこちらに向いた。

 ほんの一瞬、目が合った。


 ザーハンの心臓が強く跳ねる。逃げるように顔を背けた彼は、自らの動揺に驚いていた。


 ――なぜだ。

 ――なぜ、あの子の目は……わしの胸を射抜くのだ。


 司祭はそっと口を開いた。

「ザーハン様。あの子には、夢があります。『サンタクロースに会いたい』と。……それは贅沢でも奇跡でもない。ただ、誰かに愛されたいという祈りにすぎません」


 ザーハンは答えられなかった。

 ただ、寒風に混じる少女の歌声を、心の奥で拒み切れずにいた。


 その夜。金庫室に戻った彼は、金貨を見つめながら初めて思った。

「……これほどの富を積んでも、なぜ胸の穴は埋まらぬのか」


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