クトゥルフ短編集03 踏みにじられた友情

NOFKI&NOFU

第1話 ありふれた日常

「おい!シオン、ケイタ!元気だったか?」


運転席のトシオが、弾む声で振り返った。

車内に広がるのは、久しぶりに会う幼馴染三人の、少し照れくさい空気。


「うーん……正直、ボチボチかな。仕事して寝て、起きて仕事……。『社会人ガチャ外れ』ってやつだね」

シオンは小さく肩をすくめ、疲れを滲ませた表情を隠せない。

(でも……こうして集まれるだけで、嬉しい。大人になっても友達に会えるのって、やっぱり奇跡だ)


「お前、昔から真面目だな」

「律儀じゃなくて、真面目。訂正ね」

「ははっ、変わってねぇ!」


助手席のケイタが大げさに笑う。


「今日は思いっきり遊ぼうぜ!俺、もう三十時間くらい笑う覚悟できてるから!」

ケイタの笑顔はいつも通りだ。だが、シオンはどこか引っかかるものを感じた。


「……ケイタの元気、相変わらずだね」


トシオは口角をにやりと上げ、ケイタを挑発するように肩を叩いた。

その瞬間、風が車をかすめ、森の向こうから低く響く音がした──まだ何も起きていないのに、シオンの背筋が寒くなる。


「じゃあさ──肝試しでもどうだ?」

「は?」

「最近SNSでバズってる廃墟スポットがあるんだ。行ってみたくないか?終わったら俺の知ってる店で飲み直すって流れ。完璧じゃん」


シオンの目が、好奇心と不安で揺れる。

「えっと……ほんとに命までは取られないよね?」

「おっけー!怖すぎるとシオンに“抱きつきシールド”発動するから!」

「やめて!それ一番ムカつくやつ!」


笑いが弾ける車内。まるで子どもの夏休みのような空気。

こうして三人は懐中電灯と応急セットを用意し、夜の郊外へと向かった。




森は静かすぎた。

街の喧騒から隔絶され、鬱蒼とした木々の間に、ぽつりと廃墟が佇む。


「ここが噂の場所か……」


懐中電灯の光が壁を照らす。苔むしたヒビ割れと剥がれ落ちた漆喰。文化財の落ちこぼれのような佇まい。


「心霊スポット……?ただの空き家じゃん」

シオンの声が震える。

だがケイタは胸を張り、勇敢を気取って一歩前に出る。


「俺が先に行く!肝試しは突っ込んでナンボだろ!勇敢な探検隊長ケイタ、出動!」

「待てバカ!ホラー映画なら真っ先に死ぬ役だぞ!」

トシオが慌てて引き留めるが、ケイタは笑いながら闇へ進む。


「また、ケイタったら冒険心出しちゃって、怖いもの見たさが強いのも分かるけど…」


「安心しろ『ギリギリで生き残るお調子者枠』だから」

(根拠ゼロだろ……)シオンは思わず心の中で突っ込んだ。


ケイタが廃墟の裏手へ消えた瞬間、風がぴたりと止む。

森を覆う静寂の下、葉擦れの音さえ、耳鳴りのように脳に響く。



次回 第2話「深淵への一歩」

──ケイタの瞳に映るのは、もう『友』の姿ではなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る