春のこたえあわせ

椎名喜咲

拝啓

 拝啓、立春とは名ばかりでまだまだ寒い日が続いております。

 ――と書き出してみてはいいものの、なかなか次の筆が進みません。誰かに手紙を送るという行為自体疎いもので礼儀作法ができているのかもわかりません。貴方のことだから、まさか私にわからないことなんてないのではないかと訝しむかもしれません。けれど、それこそ誤解です。あのときは見栄を貼っていました。一年分先輩だったことへの、見栄です。今の貴方も、私と同じ立場にいるのだと思うと少し感慨深くもあります。

 約束通り、手紙を出すことができました。少し、というよりだいぶ遅れてしまいましたけれど。

 手紙を書く決心に時間が掛かりました。なにせ、私は本来、自分の本音を誰かに打ち明けることなんてしません。おそらく、私がそうしたのはただひとりでした。貴方で二人目ということになります(こんな表現をすれば、彼女さんに誤解を受けることになりますね)。

 あの日。たった二日間の出来事です。

 あの冬の季節に、私は貴方と出会ったのです――。

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