第11話 偏屈な収集家

週末、航汰は早速、調査に乗り出していた。

彼の最初のターゲットは、被害者・山崎辰五郎の人物像を探ること。

バスケ部のOBで、信用金庫に勤めている先輩を捕まえ、山崎家の資産状況や近隣での評判について聞き込みを行ったのだ。

月曜日の昼休み、航汰は興奮した様子で私の元へ報告に来た。

「聞いてくれよ莉子、あの山崎辰五郎って爺さん、とんでもない偏屈だったらしいぜ」

航汰の話を要約すると、こうだ。

山崎辰五郎は、代々続く地主の家系で、その資産は計り知れない。

しかし、その性格はとにかく気難しく、人間嫌いで有名だった。

特に金銭に関しては異常なまでに執着し、実の息子である和彦が事業に失敗した際も、一銭たりとも援助しなかったという。

「そのせいで、和彦は相当な額の借金を抱えてる。あちこちの金融機関から融資を断られて、最後はヤバいところにまで手を出してるって噂だ」

航汰の言葉に、私は眉をひそめた。

金の恨みは、殺人の動機としてあまりにも古典的で、そして強力だ。

「事業パートナーの高田って人は?」

「そっちは評判いいぜ。温厚で、誰にでも腰が低い。山崎の爺さんとは正反対のタイプだな。二人がなんでパートナーを組んでるのか、不思議がる声もあったくらいだ」

正反対の性格。それは時に、強い信頼関係を生むが、同時に激しい対立の火種にもなり得る。

「それから、もう一つ。山崎辰五郎の趣味のことだ。やっぱり、ただの道楽じゃなかったみたいだぜ」

航汰はスマホを取り出し、あるウェブサイトの画面を私に見せた。

それは、アンティーク専門のオークションサイトだった。

そこには、信じられないような高値で落札されたオートマタ、つまり、からくり人形の写真が掲載されていた。

「山崎辰五郎は、この世界の超大物コレクターだった。彼のコレクションは、美術館級の価値があるって話だ。あいつは人間は嫌いだったが、この人形たちだけは、まるで我が子のように溺愛していたらしい」

写真の中で、精巧な人形がガラスの瞳でこちらを見つめている。

その無機質な表情が、なぜかひどく不気味に思えた。

偏屈な資産家、借金まみれの息子、温厚なビジネスパートナー、そして謎めいたからくり人形。

事件の登場人物は、一癖も二癖もある者たちばかりだった。

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