第6話 コンビニエンスストア

「じゃあそういう訳で、来週からテストが始まるからな。ちゃんと勉強しとけよー」


「「はーい」」


「じゃあこれで帰りの学活を終わる。学級委員、号令」


「起立、礼、ありがとうございました」


「「ありがとうございましたー」」


 放課後。来週からテストということもあり、みんな僅かに鬱々としている。


「透~!!」


 奈切が俺の席に寄り、俺の机に突っ伏せる。


「どうしたんだ?」


「テスト勉強付き合ってぇ~!!」


「…あー、そうだったな」


 奈切はそこまで頭が良くない。この学校自体は偏差値の高い学校という訳では無いが、奈切は校内偏差値が40とかそこらだろう。


「補習は嫌だよぉ~!!」


「大丈夫だって。家帰ったら教えてやるから」


「やったぁ!透、ありがとぉ~!」


「ちなみにどの教科がダメとかあるか?」


「うーん…、全部!」


「…」


 呆気に取られた。それもそうか。それでなきゃ泣き込んで来るほど俺にお願いしないか。


「透!朗報だ朗報だ!」


「なんだよ篤斗」


「大会が終わったからって、今日から1週間部活オフなんだってよ!!」


「へぇ、良かったじゃん」


「だからさ…!」


「…」


 すんごく嫌な予感がする。


「勉強教えてください! お願いします!」


「…はぁ」


 そうだよな。そうだろうと思った。


「じゃあ今日俺の家に来いよ。奈切も合わせて3人で勉強会だかんな」


「おっけおっけ! マジで助かった!」


「…むー」


 奈切がこの時不服そうな顔をしている事に俺は気づいたのだが、なんか可愛かったのでそのままにして置いた。


「じゃあ帰るか、奈切」


「うん!」


「ってか俺、新しいお前ん家知らないからついて行っていいか?」


「あれ、そうだっけ?」


「前のお前の実家なら知ってるけど、新しい家は行ったことねえな」


「そうだっけ?」


「まぁ俺は部活で行く暇なかったし」


 それもそうか。俺はあれ以降バドミントンが出来ていないが、篤斗は続けている。ここ、永犬高校はバドミントンの強豪校なので、一緒に過ごす時間は必然と減った。

 もちろんそれでも仲はいいままだが。


「じゃあついてきなよ」


「ああ。お前の一人暮らしの家が綺麗かどうか見てやんよ。まぁどうせお前の事だから隅々までピカピカだろうけどな」


「まぁそうだなー」


 クイックイッ

 奈切が俺の服の裾を引っ張る。


「? どうかしたか?」


「…透ぅ、お腹減ったぁ」


「よし篤斗!! コンビニ寄るぞ!!」


「過保護」


 そして俺たちはすぐ近くにあるコンビニへと道草を食うのだった。


「今日はちょっとお菓子沢山買ってもいいよね?」


「まぁ多分深夜くらいまで勉強漬けの予定だしな。糖分補給の体でいっぱい買ってもいいぞ」


「やったぁ! 透好き好き~!」


「んもういっぱい食え!!」


「…ふへへ」


「あっ、すっごい悪い笑顔してたぞコイツ。透。見ろよこの…」


「可愛い」


「もうどうにでもなれ」


 そして俺たちはコンビニに入る。


「わーい! グミグミ~」


「コンビニなんていつ以来かなぁ」


「俺は部活終わりに結構くるけど、透は来ないのか?」


「ああ。なんだか性に合わなくてな」


「へー。確かにお前がコンビニ入ってるとこ全然見かけねえわ。数年前俺たちと入ったっきりか?」


「…確かそうだな」


 中学生時代、メンバーに無理やり連れていかれ、コンビニに入ったことがある。

 だがやはりなんだか気に食わず、栄養食を1個買ったくらいだったか。


「あの時のお前の渋~い顔と言ったら…、、ちょっと、まって、ちょ、ごめん…」


「…んだよ」


 篤斗は腹を抱え、顔を真っ赤にして大爆笑し始めた。


「ブーッははははは!ちょっとやべぇ!思い出しただけでキツいわ!ひっでえ顔してたぞあの時のお前!ちょっ、腹よじれる!!」


「うるせぇよ!」


「ひーっ、ひーっ、悪ぃ悪ぃ…!でも、コンビニ入るだけであの顔って…ぷっ、くくく…ごめん無理だわぎゃははははははは!!」


「笑い過ぎだろ流石に!」


「いや、あの顔凄かったからな?まじで!ちょっと耐えられねぇはははははははは!」


「マジでコイツ…」


「はーっ、はーっ、ふぅ。ちょっと落ち着いたわ…。でも、あれだけコンビニを毛嫌ってたお前が、奈切の目線の先にあっただけで入るのを即決するって、よほど奈切が好きなんだな、お前」


「まぁそうだな。奈切に対する愛なら誰にも負けないし」


「すっげぇ自信だな。…にしても、あの時のお前の顔…!ごめんやっぱ無理!!」


「もういいっちゅーねん」


 俺は大爆笑で腹を抱えてうずくまる篤斗を後にし、奈切の元へ向かう。


「…透、コンビニ嫌だった?」


「なっ、聞こえてたのか」


「そりゃあねぇ、あんなおっきい声で話されたら店内に響き渡るよ」


「…」


 恥ずかしい限りだ。穴があったら入りたいです。


「まぁそれはともかく、なんか、ごめんね?」


「何が?」


「私のために、嫌いなコンビニに入ってくれたんだよね?私、透のことなんも考えずに…」


「待て待て」


 俺は奈切の話を遮る。


「奈切、思い詰めすぎだ。俺は好きでこのコンビニを選んだんだよ。まぁ、奈切の為ではあるけど」


「…透」


「大丈夫、お前が好きだからやっただけだよ」


「~!! …♡」


 奈切の眼がハートになる。


「せばもう遠慮なぐ買ってしまう!透のぶんも私が買ってけるぅ!」


「はは、あんまり変なの買わないでくれよな」


 こうしてグミを大量に購入した奈切と一緒に俺はコンビニを出た。


「おう、おかえり」


「お前いつの間に外にいたのか」


「あの後も数分くらいツボってな。今もちょっとニヤけが…」


「はいはい行くぞー」


 コンビニに寄った時間を除けば20分ほどかかる場所に俺たちの家は位置している。

 そこそこ綺麗なアパート。その2階の端の部屋が俺たちの家だ。


「んじゃ、失礼しまーす」


「そっちのソファー座っといて。今部屋の準備するから」


「へいへーい」


「私はここでグミ食べてる~」


「おっけ」


 そうして俺は自分の部屋に戻る。

 勉強机の類を整理している間、リビングから篤斗の大声が聞こえた。


「え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え!?!!!」


「どうしたどうした!? そんな大声出して!!」


「お前ら2人って同棲してんの!?!?!」


「あれ、言ってなかったっけ」


「言ってねぇよ!! クラスメイト誰もそれ知らんわ!! 初耳!! ガチで!!」


「そんな驚くことか?」


「いやいや、高校生カップルが同棲とか普通に有り得んだろ!? え、そこの感覚すら無いのかいアンタは!!」


「いやー、意外と簡単だぞ?」


「普通だよね?」


 俺の意見に奈切も同調してくれる。


「だよな」


「…そうだった。この人たちSNSの類をいじらない珍しい人類だった。現代の常識はコイツらに通用しねえんだった」


 …そんなにおかしい事か?同棲って?


 こんなちょっとしたハプニングはありつつも、俺たちは勉強会を始めるのであった。

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