第3話 秋田犬の住まいについて

 俺の彼女はめちゃくちゃ可愛い。


「透ぅ~、おはよぉ~」


「おはよ、奈切。昨日はごめんな」


「いーのいーの。ってか全然面白く無さすぎてギャグだって気づけなかったよ~」


「…はい」


 無自覚に突き立てられる刃に俺は吐血する。…受け止めきれるはず無いだろこんなん。


「よし、それじゃあ朝ごはん作るから学校の支度しといて」


「うん~」


 そう、今更だが俺たちは同棲している。…というより奈切をうちで引き取っていると言った方が正しいのか。


「透のごはん美味しいから今日も楽しみだなぁ~」


「あはは、そう言ってもらえて嬉しいよ」


 高校生になって一人暮らしを始めたのだが、それにあたって奈切も一緒に住むことになった。


「ほら、できたぞー」


「ちょっと待ってぇ、まだ着替えてるからー」


 今日の朝ごはんは目玉焼きとベーコン、簡素なサラダにそれから白米。至って普通の朝ごはんだ。


「お待たせぇ。わぁ、今日も美味しそう!」


「目玉焼きは何かける?醤油?ソース?」


「うーん、塩コショウってあるっけ」


「あぁ、あるぞ」


「じゃあ塩コショウお願い~」


「おっけー」


 そして塩コショウを持って俺も奈切の横に座る。


「「いただきま~す」」


 はむはむと目玉焼きに手をつける奈切。


「どう?美味いか?」


「ん~♡美味しぃ~♡」


 可愛いな、こいつ。

 俺は奈切の頭を撫でてやる。


「…! えへへぇ♡」


「可愛すぎてもう!!」


「透ぅ~♡」


 だめだだめだ。これじゃあ遅刻してしまう。


「ほら、早く食べちゃうぞー」


「…む~。 ん! ん!」


「頭撫でないから。ご飯食べるから」


「…透ぅ。撫ででぐれねのぉ?」


「…もういいや!!」


 奈切を全力でわしゃわしゃすることにした。こんな詰められ方されたら流石に不可抗力だってば。





 …そして案の定ご飯は冷めたのであった。


 …なんなら遅刻もしかけた。









 ◇◇◇


「危ねぇ、遅刻しかけたわまじで…」


「おう、お疲れ。今日体育あんのに今からそんな体力消耗して大丈夫なんか?」


「今日シャトルランだろ?いいよ、ある程度手抜くし」


「まぁ、それならいいけどよ」


 そっか、今日1時間目からシャトルランか…。


「おうお前ら、朝の学活やるから席着けー。学級委員、号令」


「やべやべ」


 俺と奈切は急いで席に着く。


「起立、気をつけ、礼」



 奈切の席は俺よりも結構前だ。だからこちらから一方的に観察することが出来る。…きもいって?それは自覚してるから言わないでください。

 でも本当に見てて楽しいんだって。


 ペン回しをしている。めちゃくちゃ上手い。後ろ姿からでもわかるドヤ顔をしている。

 あれ?これワンチャン消しゴムでもいけるんじゃね?みたいな発想で消しゴムを回し始めた。


 …カワイイッッッ!!!



「…で、連絡は終わりだ。学級委員、号令」


 あれ、もう朝学活終わりか。


「起立、気をつけ、礼」


「「ありがとうございましたー」」


「よっしゃ透! 体育館行くぞ!」


「…元気だね、篤斗は」


「今日はシャトルラン最後まで残って、モテモテコース王道まっしぐらだからな!」


 まあこの学校の体育は男女混合だからいい所見せるには持ってこいではあるけど、それだけじゃないだろ…。

 単純な篤斗に呆れつつ、俺は体操服を持って体育館に向かう。この学校は体育館に更衣室があるので、そこで着替える。


「うわっ!篤斗の腹筋バキバキすぎるだろ!!」


「うん? あぁ」


 男子更衣室にて、制服から体操服に着替えている時に1人のクラスメイトが声を上げた。


「まぁな。丁度最近大会だったし、今が1番筋肉ついてるな」


「にしてもすげぇよコレ! 本当にお前高校1年生かよ!?」


「下手なボディービルダーよりあるんじゃねえか…?」


「流石にそんなにねぇよ。でもその辺の高校生程度の拳じゃこの腹筋はビクともしないぜ?」


「言ったな? そいやぁっ!」


 バチィン!!


「…効かねぇな?」


「つ、強え…! 鍛え方が違ぇよコイツ!」


「うっわマジですげぇ!」


「ふっ、そうだろそうだろ?」


 篤斗は部活で1年生だけどエース格だ。スポーツマンとしての肉体はその辺の大人も顔負けだ。


「…ま、このクラスには俺よりえぐい筋肉あるやついるけどな…」


「ん?なんか言ったか?」


「いや別に何も無いぜ。ほら、早く着替えねえよやっつんにドヤされるぞー」


「あっ、やべぇやべぇ!」


 あと1分で授業開始時間を示す時計を指さし、篤斗は更衣室を出る。俺もそれに伴って更衣室を後にする。

 ちなみにやっつんとは体育教師の愛称だ。本名は谷澤やざわ りくだ。


「はいじゃあ今日は事前に伝えておいた通り、シャトルランをする。男子は運動部なら100は超えたいところだな? どうだ鹿島?」


「へっ、余裕ですよ」


「まぁお前なら100回くらいならいけるか。じゃあ各自ストレッチして、10分後には位置についてるように!」


「「はーい」」


 シャトルランかぁ…。全学生のトラウマと言っても過言では無いだろう。音楽に合わせて20メートルを行ったり来たりするだけ。…それが辛いんだっつの。


「透~!」


 奈切が寄ってくる。


「奈切、どうだ、自信あるか?」


「うーん…。ないなぁ。透は無理しちゃだめだからね?」


「分かってるよ」


「じゃ、ストレッチ手伝って!」


「はいはい」


 長座の姿勢の奈切の背中を押す。


「そうだ、1位以外のやつには罰ゲーム用意してるからな!」


「「えー!!」」


「頑張って1回でも記録は伸ばした方がいいぞ! それから1位の奴には逆に豪華景品が用意されていると来た!!」


「「なんだってー!!?」」


「豪華景品は1位になってからのお楽しみ…。さ、あと7分…しっかりとコンディション整えろよ!」


「「うおぉぉぉぉぉぉお!!」」


 シャトルランなのにめちゃくちゃ盛り上がってる…!?

 こんなシャトルラン、初めてだ…。

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