『秋田犬にはもう飽きた件www』とふざけたら秋田出身の犬系彼女が泣きついてきた

赤海 梓

第1話 秋田犬系彼女

 私立永犬ながいぬ高校、1年生にはとある女の子がいた。

 小町こまち 奈切なきり。茶髪ボブヘアーの、秋田出身の女の子だ。そんな女の子には彼氏がいるのだが、


とおる~!!今日も大好き!!」


「おっと、急に抱きついてきたら危ないだろ」


「えへへ、ごめんね。んだども大好ぎ大好ぎ!」


 そう、彼女は時々彼氏に対して犬系……いや、秋田犬系彼女になってしまうのだった……!







 俺、坂村さかむら とおるはただの高校1年生だ。特に誰かと違っているとこはない。極端に友達が多い訳でも少ない訳でもない。

 まあ1つ、少し現実味を帯びない点があるとするなら、


「透~!一緒に帰ろ!」


「ん、あぁ」


 めちゃくちゃ可愛い彼女がいるという事だ。

 彼女の名前は小町こまち 奈切なきり。秋田出身の、めちゃくちゃ可愛い彼女だ。

 今も俺の左腕にしがみついて来て可愛い。もう、ホントに可愛い。


「えへへぇ~。透、透!」


「どうかしたか?」


「呼んだだけだよ~。透っ!」


 ん可愛い!可愛すぎて死ぬ…!!

 奈切は殺す気かってレベルで彼女は俺に甘えてくる。所謂犬系彼女というやつである。ある意味心臓に悪い。


「にしても、昨日の雨と打って変わって今日はよく晴れてるな」


「そうだねぇ。私は雨の日も好きだけど、カラッとしてる晴れの日が好きなんだよなぁ」


「ああ。俺も晴れが1番好きだな。そういや、近々ある文化祭もこの位の天気だといいな」


「あ~、確かに。永犬祭、1ヶ月後だっけ?」


「ざっとそのくらいか」


 1ヶ月後、永犬高校文化祭「永犬祭」が行われる。屋台だったり教室展示だったりステージ発表だったり…と様々な、大きな行事の1つだ。


「俺たちのクラスは何やるんだろうな」


「かき氷の屋台やりたいなぁ。今年は9月後半でも暑いだろうし」


「確かにそうだな。氷があれば涼しいだろうし、提案してみるか」


「うん!」



 氷…か。

 俺は彼女と出会って半年くらい経つ。あれはそう、今年の2月のことだったか……。



「おう、相変わらずイチャイチャしてんなお二人共!!」


「うおっ、篤斗。俺が今から回想シーンに入ろうとしてたのに、邪魔すんなよ」


「なんだお前」


 後ろから肩を組んできた男は鹿島かしま 篤斗あつと。俺の中学校時代からの友人である。


「というか篤斗、今日は部活無いのか?」


「ああ。明日大会だから、各自ケアしとけだってよ!」


「お前、ゲーセン行く気だろ」


「あ、バレた?」


「だろうな」


「やっぱ透には適わねえな!」


「お前さ…」


「いいだろー。俺のおかげで団体戦優勝したんだからな」


「まあそりゃそうだけども…。全く。中学の頃から変わんねえな」


「へっ、ゲームより面白いもんなんてこの世に無いからな」


「明日大会ならせめて家帰ってストレッチくらいしとけよ」


「やっだよめんどくさい。俺の身体の硬さ、ストレッチガチで地獄なんだからな?」


「地獄の柔軟か。じゃあ今度俺が手伝ってやるよ」


「いや無理無理無理無理!!お前ガチめに容赦ないじゃん!!キツすぎるって!」


「お前の身体はそのくらいしないと…」


 クイックイッ


「……」


 奈切は無言で俺の左腕を引く。


「あっ、ごめんごめん」


 奈切に話題を振っていなかったので、拗ねてしまったのだろう。俺は彼女の頭をなでなでする。


「ん~~~♡」


「……くっ、可愛すぎるっ…!」


 うちの彼女可愛いが過ぎるんですが?


「よーしよしよしよしよし」


「くぅ~ん♡」


「なんなんコイツら」


 友人からの冷たい視線を浴びせられてしまった。


「おまえら本当に距離近いよな。そんなにイチャイチャして周りの目とか気にならないのか?」


「え?カップルってこの位の距離感が普通なんじゃないのか?」


「そんな片腕に彼女がしがみついてるカップルなんてそうそういねえだろ」


「いーのいーの。私は透が好きだからこうしてる訳だしぃ~」


「街中のカップルなんてこの位の距離感だろ」


「…世間知らず過ぎるぞ、このカップル」


 いや、普通のカップルってこのくらいの距離感じゃないのか?


「…まぁ、このズレた貞操観念もある意味の愛か…」


「えへへへ、透っ、透~」


「よしよし」


(まぁ、こいつらが幸せならそれでいいけどさ)



 ブゥゥゥン

 ベシャッ、ビシャビシャッ



 …!? ものすごい勢いで走ってるトラックが水溜まりの水をはねさせながらこっちに向かってる…!!


「危ねぇっ!!」


「きゃぁっ!?」


 ビシャビシャァン


「うっ、冷てぇ。大丈夫か、奈切」


 この時の奈切の心の中はただ1つであった。




 濡れたうちの彼氏、イケメンすぎんか…!?




「可愛い顔には……かかってねえな。よかった」


「~~!!」


「とりあえず、俺はびちゃびちゃだから早めに帰ろっか」


「透」


「…? なんだ?」


「やっぱし透はかっこいいなぁ!!もう大好ぎ大好ぎ!!だーーーーーーいすぎだぁ!!透ぅ~~♡」


 彼女の口調が秋田弁になってしまった。

 そう、彼女はいつもは意識して通常語を話しているが、感情が高ぶると秋田弁になってしまうのだ。


「わっ、ちょちょ、俺もうびしょ濡れだから!!あんま抱きつかない方がいいって!!」


「そんなんもう関係ないって!!透の彼女で良がっだだよ私は!!もう大好ぎ大好ぎ~♡」


「…全く、仕方ないやつだな。よーしよしよし」


「ん~♡」


 こうして俺たちはびしょ濡れのまま抱き合い、その後急いで家に帰り、一日を終えた。






























































「アイツら…、俺の事忘れていやがるな」


 びしょ濡れの篤斗は虚しく呟くのであった。

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