本編完結【累計20万PV感謝】貧弱魔物使いのモンスターパレード

アスチェリカ

命知らずの貧弱魔物使い

1話 貧弱魔物使いの始まり


二十一世紀半ば──突如として世界各地に現れた異形の構造物。


それらは人類が「ダンジョン」と呼ぶようになった未知の領域だった。

入口はビルのロビーのように整然としているものもあれば、地中から口を開けた洞窟のようなものもある。中に足を踏み入れれば、そこは現実世界とは隔絶された別空間──魔物が跋扈し、自然法則すら歪んだ迷宮が広がっている。


発見当初は軍や警察が封鎖を試みたが、ダンジョンは時間とともに増え続け、世界各国は方針を転換。危険を伴う代わりに、内部では莫大な価値を持つ資源や魔法的アイテムが手に入ることが判明し、管理体制を整えて“利用”する道を選んだ。


こうして誕生したのが「探索者」と呼ばれる職業である。探索者はギルドに登録し、スキルを駆使してダンジョンに挑み、素材や財宝を持ち帰る。


成功すれば一攫千金、失敗すれば命を落とす。命知らずと夢追い人が入り混じる、危険で華やかな職業だった。


スキルは人によって適性があり、戦士・魔法使い・弓使いといった戦闘型から、回復役や支援を扱う魔法職、さらには「魔物使い」や「召喚士」といった物まで多岐にわたる。


だが、いずれの職業であっても共通するのは──自分の身を守れない者は長く生き残れない、という現実だ。


そんな世界に、一人の新人探索者――諸星渚が、無謀な野望を抱き、今日足を踏み入れようとしていた。



探索者ギルド本部、登録窓口。

 

朝一番の受付ロビーには、スーツ姿の職員や武装した探索者たちが行き交い、空気は妙な熱気と緊張感に包まれている。

その一角、受付カウンターの前で、黒髪の青年が申請書を手に立っていた。

諸星渚──十八歳。今日、正式に探索者としての初日を迎える。


「はい、スキルは――『テイマー』と『召喚士』……二つとも支援系、しかもソロで……ですか?」


端末を覗き込んだ受付嬢が、思わず眉をひそめる。

渚は軽く頷き、胸を張って答えた。


「ええ、それが僕のやりたいことなんで。」


「……やりたいこと、ですか。まあ、止めはしませんが……かなり危険ですよ。」


そう言いつつも、彼女の視線には「この新人、すぐ死ぬだろうな」という薄い諦めが混じっていた。

戦士や魔法使いならともかく、魔物使いと召喚士の組み合わせは、自身の基礎能力の低さで有名だ。下手をすれば、他のスキルを習得した探索者と比べ生存能力が著しく低く、同階層の雑魚敵にすら致命傷をくらい、やられる可能性が高い。


それでも渚の顔には、不思議と不安の色はなかった。

胸の奥にある野望──自分だけの魔物軍団を作るという夢が、彼を突き動かしていた。


だが、その夢は登録後すぐ、冷水を浴びせられることになる。


登録を終え、初期装備と探索者証を受け取った渚は、ロビーの片隅で先輩探索者たちと顔を合わせた。

彼らは同じ登録日組ではなく、すでに何度かダンジョンに潜った経験のある先輩達だ。俺の学校でも先輩達でもある。中でも、背中に片刃の大剣を背負った若い男――安藤が渚に声を掛けた。

 

「よう、渚。……テイマー習得したんならとりあえずなんかテイムしとけよ。それだけでだいぶ楽になるからさ。」


渚は少し言いづらそうに視線を伏せ、言葉を選んだ。

 

「……テイムした魔物を、とりあえずでテイムしたくないんです。なんか、捨て駒として扱うみたいで嫌なんです。」


安藤は眉を上げ、しばし渚を見つめたあと、低く笑う。

 

「気持ちは分からんでもないが……それは命よりも大事なもんかね?」


「勿論命も大事です。でも、仲間にした魔物を使い捨てにするのは違うと思うんです。俺にとっては、戦力じゃなくて大切な仲間なんで。」


そのやり取りを聞いていたもう一人の先輩の唐川が、肩をすくめる。


「まあ、低階層なら多少の無茶しても死にはしないだろうけど……考え直したほうがいいわよ。ダンジョンは常に命かけて潜ってるんだから。」


渚は頷いたが、その決意は揺らがない。

テイム枠を空けておく理由は、効率ではなく信念──それは、命が一番の探索者の世界ではほとんど理解されない考えだった。


その日の夕方、渚は初めてのダンジョンに向けて、必要最低限の装備と、召喚用の魔法触媒だけを抱えて街を出た。傍目にはダンジョンを舐めてる馬鹿か、ただの命知らずに見えるだろう。


だが渚の胸には、確かに鼓動する夢があった。

──仲間たちと歩く、自分だけの魔物の軍団を作るという夢が。


 

 

 

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