第十話 交戦
――――いやいや、そんな事ないし?
ていうか、急に、どうした?
やっぱりこないだの、根に持ってる、とか!?
思わず応戦したくなる……けど、ぐっと、堪えて。
謎マウンティングか嫌味なんだとしても、流そう!
ご近所さんなんだから、穏便に、穏便に……
「まぁ、ルールって大事ですよね!」
「うちは離乳食もベビーフードだったし今どき文明の利器は使わないと損よね〜!」
……はあ?
それって私の離乳食は手作り派なこと当てこすってます? ウチだって体にいいものを、って出汁から何から工夫してるんですけども?
「……ま、まぁ忙しいですもんね〜! 美咲さん。ベビーフード、お手軽ですもんね」
「ベビーフードだって楽じゃないのよ、好き嫌いだってあるし、これしか食べないとかもあって……」
はぁ? そんなん手作りだってあるわよ。
「ベビーフードは、H社ですか〜?」
「そうそう、H社!」
――ふ、かかったな。
「――――でもH社って異物混入騒ぎ有りましたよね〜」
「…………」
「私は危なくてベビーフードは使えなかったな……。やっぱり手作りの方が何入れてるとかハッキリ分かりますもんね!」
「……何よ! 自分はナチュラル育児気取ってるつもり?」
「……はい?」
「今どき離乳食手作りでノースマホなんて古いのよ! 専業主婦だからできてるんでしょ〜! 私は働いてるから無理かな〜?」
「あら仕事されてる方は偉いですねぇ……赤ちゃんの時からスマホ漬けで、食べるものと言ったらレトルトばっかり! お小さいうちから大人並の感性、育ちそうですよね〜?」
「なんですってぇ?!」
「お仕事漬けでお子さんに手をかけれないからって、――ウチを僻まないでもらえます?」
「僻み――私が、貴方に?!」
「自分磨きに一生懸命みたいですけど、それするぐらいならお子さんと遊んでた方が建設的じゃありません?」
「なによ!貴方なんて――」
――あの、お客様? どうかその辺りで……
看板男子くんがとーじょ〜
「聞いてよ! この女――」
「喧嘩ふっかけたのは貴女の方な気がしますが」
――まーまーまーまー……。折角のコーヒーが台無しですよぅ……
困り顔の、看板男子。
マスターは奥のまま。素知らぬ顔で豆を挽いている。豆の香りがしてくる……ああ、いい香り。
「今日は帰ります。――それじゃ」
後ろでぎゃーぎゃー言ってたけど無視した。
■
カランカラン――。ドアが開く。
――あ、お久しぶりです〜
横浜くんが迎えてくれる。
相変わらず爽やかな可愛い系だなぁ看板男子。
――あれから、大丈夫でした?
心配そうな顔。
「あ〜……」
あれから。色々あった。
向こうの方がご近所に顔が広いからある事ない事吹聴されて――
辛うじて繋がってる方から聞いたけど、もう酷いのなんのって。
言ってない事まで言ったことになってるし、私が一方的になじったように言い触らされて――
精神的に参ってしまった。
亮ちゃんは、大丈夫! ご近所なんて、そんな付き合い無いんだし、嫌われてても死ぬ訳じゃないじゃん? だと。
もー、そーゆーのじゃないのに。
それ以降――連絡アプリもブロックして絶縁状態の、冷戦だったのだが――。二ヶ月ぐらいしたら、急にしおらしくして。
■
あの時はごめんなさい。
生理とかじゃないのに、何故かとてもイライラして。
貴方との育児の捉え方の違いに、自分の育児を否定されてるような気がして――
しばらくしたら、頭が冷えて。
申し訳なかったです……
■
「……よかったら、また仲良くしてください、だって〜」
――それで、どうしたんです?
「ま~私も、言い過ぎた面もあるし……」
私は私で、美咲さんの仕事バリバリにしてて、上品かつお洒落で要領のいいところにひがんでいたのかもだし――。
何より、悪口吹聴されるのに疲れちゃったのよね。
――わ〜! おとなの対応ですね!
看板男子は拍手付きでほめてくれる。
「……そんな事ないわよ。あ、深煎りで」
――かしこまりました!
「はぁ」
兎に角、疲れた。あの件は一段落したし、またこのコーヒーに癒やされて――
って。あれ? このコーヒー、こんなもんだっけ、かな?
■
報告書
対象 成人女性 三十代前半の女性二人
A群(■■■■群)とB群(コントロール群)に分けて対照調査を行う。
内服 月に四回
結果 B群はトラブルにも落ち着いて対処できる精神状態だったのに対し、A群はヒートアップし激昂、B群が居なくなった後も店員にも長々と当たるなど、精神状態は悪いといえる。
投与を止めて二ヶ月後、クールダウンしB群に謝るなどの冷静さを見せる。やはり、投与による精神状態の悪化が疑われる。
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