第四話 青いぶつぶつ

 ピンポーン


 インターホンが鳴る。

「あ、隣の奥さんね、きっと。お野菜くれる約束してたのよ……」


 と。ぽん! パソコンの通知。ポップアップ。メールが来たみたいだ。


「あ、あれの催促だわ……ちょちょちょ、また今度ね、この話は!」


 母さんはわたわたと去っていった。

 ボクは、肩透かしな気分で、あの子のきのこを見つめる。茶色で、白い。何も問題は、ない。

 


 では、青い、きのことは――? 


 あの子のきのこは、母さんがバター醤油で炒めて夕飯に出してくれた。聞いてた話と違う。塩じゃないの? と聞くと。


 あら古風ね〜! と返された。

 最近だと違うらしい。


 恐る恐る、食べる……。

 あ――

「へ~! おいしいね」


「そう? よかったね! おいしいと感じたら相性がいいって、昔から言われてるのよ」


「そうなんだ! 母さんもどう?」


 にこにこと、ボク。美味しいものは皆でシェアして――


「いや私が食べても仕方ないでしょ~」

 困った顔で、母さん。



「なんで?」



「わかってないなぁ、仲良くなりたい二人が食べ合うから意味があるんでしょ――母さんが食べてもねぇ」

 首をすくめる。それにね、と続ける。


「自分が食べてほしくない人に自分のきのこ食べられるほど嫌なものはないのよ。母さんはその子に食べていいよって言われてないでしょ?」


「まぁ……」

 不承不承、ボクはうなずく。


 そうゆうもんなの? 


 またしても異世界常識か。まぁ、仲良くしたいから人にプレゼントしたものを、他人に渡されてしまうようなものか。そう考えると、納得できるような気がする。



「そうゆうこと!」

 びし、と明後日の方向を指さしして語る母さん。



 う~ん。異世界日本、ほぼ日本かと思いきや――、一筋縄ではいかないな、やっぱり。

 


 次の日。

 眠い……「ボク」は朝が弱いみたいだ。体の特性は、今の体に準拠するようだった。

 ちょっとした発見。前の体なら、朝早いぐらい何ともなかったのにな。


 教室に着く。あの子は、もう来ていた。心が沸き立つ。なんだろ、この――


「おはよ」


「おはよ~!」

 気恥ずかしい。向こうもそうなのか、えへへ、とはにかんでいる。


「……昨日、食べてくれた?」


「うん!食べたよ~! 美味しかったな! 母さんがバター醬油にしてくれてね?」



「美味しかったんだ、よかった……」

 

 あの子はほっとしたような表情。美味しいと相性がいいって知ってるの、かな。ボクは、顔が少し赤くなるのを感じた。


「私も美味しかったよ。またやろうね!」


 おお、お互いに美味しかった、とな? それは両想い的な感じなのかいやそんな事は? その辺、異世界常識に食い込む感じだ。


 むむむ。即断はよくないな、たぶん。

 ラブじゃなく、ライクなのかもしれない。

 その辺どうなんだろう? よくわかんないな~



「かーさーん」

 帰宅後、いの一番に母さんのとこへ。母さんはいつものようにキーボードをばちょばちょ言わして何か仕事をしている。


「きのこの事、もっと教えて! 後で、って言ったじゃん!」


「はいはい、なんだっけ……」

 仕事が忙しいのか? 母さんの顔はややげそっとしている。忙しいのに悪いな、という気持ちと早く聞きたい気持ちがせめぎ合う。遠慮した方が、いいのかな?


「あ、今……忙しかった?」


「だけども、可愛い息子の質問には答えるわよ~」

 何が聞きたいの? と促される。


 質問は二つだ。

「青いきのこがどうとか……ってのと、きのこ食べると仲良くなるってのは、両想い的な、アレなの?」


 母さんは、あら、という顔をして、

「もしかしてお互いに美味しかったのかしら?」

 と質問してくる。


「です、ね」


 また母さんの顔がニヤついている。あらあら、と前置きしてから、


「それとこれとは違う……と言いたいとこだけど、きっかけにしたい人はいるからねぇ


 ――まぁ、人を好きになるのって、いきなりラブになる人もいればライクから入る人もいる訳じゃん? 


 だから補助的なものだと、母さんは思うな」


 この辺、人によるけどね、と付け加える。



「好きに、なっちゃいましたかぁ?」



「なってない!!」

 反射的に否定する――いや好き……だけど、これは。確かに、ライクなのかラブなのか微妙なとこだ。


 母さんは茶化してごめんね、と言って。

「でもきのこきっかけで付き合うこともあれば、永遠にいい友達な場合もあるから。ほんとに一概には言えないのよ」


「そうなんだ……」


「小学生ぐらいなら、普通に友達として、だと思うけどね?」


 まぁそらそうだよな、なるほど。

「ちなみに、だいたい一ヶ月おきに三回ぐらい食べ合ったらお互いに仲良くなったな、と思うから、その辺でもうしなくなるよ」


 なるほど。それでまたしようね! って言ってたのか。納得なっとく。

 


「で、青いきのこの方だけど」

 


 あ、今度はそっちね。

 母さんは真剣な顔で告げる。


「青いぶつぶつがあるきのこの人を見かけたら、近づかないで。そんで母さんにすぐ言って。ましてや、食べるなんて絶対にしちゃ駄目よ」


「なんで?」



「青いぶつぶつは病気の証なの。  


 青いぶつぶつがあるきのこを食べると病気が移っちゃうから食べちゃ駄目だし、


 そもそも、……あんまり関わってほしくないな」

 


 ふぅん。病気、か。だからあんなにチェックしてたのか……。もし青かったら――病気だったら。ボクにも移っちゃうって事だったのね。


「わかったよ~」


「かるいっ! ほんとにわかってる? 

 大事なことなんだよ! 

 青いぶつぶつがある人は自分が治りたい為に、嘘ついて食べさせる事だって――」


 母さんはわめく。


「わかってるよ! へーきへーき」


 軽いウインク。おっけ、おっけ! この時、ボクはあんまりわかっていなかった、のかもしれない――

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