第三話 疑念
■
次の日。気だるい月曜も泰葉が居れば明るくなるんだ。
いつもはのそのそと登校するが、今日はシャキッと自転車を走らせる。
昨日の事を話したかった。
学校に、急ぐ。教室についた。泰葉は、もう登校している。早い。
「よかったね! あそこ」
開口一番に、泰葉。どうやら同じ気持ちだったようだ。心が沸き立つのを感じる。
ウキウキして前の席に座る。どうせこの席の主はまだ登校してこないだろう。
「ふふふ、ハマったな、お主……」
「うん。あれから、またコーヒー飲みたくなってさ!」
「いいじゃん!」
これはいい傾向だ。また一緒に行ってくれそうだ。泰葉はテンション高く続ける。
「家のインスタント飲んでみたんだけど……」
不穏な空気。顔が固くなる。徐々に声のトーンも下がってゆく。
「お、おう……」
インスタントと、あそこのコーヒーを比べたら――
「全然、あそことちがくて」
「だよね……」
「正直、インスタントがただの茶色い苦い汁にしか感じなくて……」
「すっご嫌な言い方するね……」
苦笑いの私。
「いやほんとのことなんだもん!」
「これはあくまで個人の感想です。効果には個人差があります」
「やめぃ」
とにかく。
「またいこーよ!」
「うん! いいねいいね!」
と、いう訳で。コーヒー飲み会の週一開催が決定したのです。
楽しい日々。そんな日々が。崩れる時がくるなんて――
■
泰葉には恋人がいる。
太朗くんって子。私たちよりいっこ歳下の、後輩くんだ。
二人は周りからみてもラブラブで、踏み込めないな、と思わせる空気感があった。
週末はいつも二人で過ごしてるみたい。でも。
最近――ここ二ヶ月ぐらいは土日のどちらかは喫茶店な訳で。
いいの? と聞いてみたらば。
入り浸ってる訳じゃないし、平日は一緒だし、土日だって喫茶店終わりで会ったりもする訳だしね!
これは趣味の範囲内ですよ。との事。問題ないと、思っていたが――
■
「聞いて!」
コーヒー飲み会も板についてきたある日。いつものように登校。
いつものようにお喋り――と、思いきや、登校してきた泰葉の様子が変だった。
私の顔を見るなり、開口一番まくし立てるように喋る。
「どうしたの?」
「太朗君がね、ここ数ヶ月例の喫茶店行ってる事――浮気じゃないか、って言うんだよ!」
「ええ……?」
突然の発言に力が抜ける。寝耳に水、とはこの事。心当たりがなさすぎる。的外れなことを言われて怒るというより、むしろ呆れてしまう。女子二人だよ? 浮気のうの字もない。
「でも私も行ってる訳だし?」
「信じて貰えないんだよ〜」
「高校生で友達と、喫茶店常連なんて……他に、男がいるんだろ! って……」
――偏見もいいとこだ。
そんなに束縛の激しい人だったの? 太朗君って。いやこれは束縛なのか? 疑心暗鬼。そんな感じ。
「兎に角、今度は三人でいこ? そしたらきっと、誤解も解けるよ」
そう言うしか、なかった。
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三人でいつもの曜日、時間に待ち合わせる。
違う曜日だと寧ろ嫌なんだって。疑ってるからかな?
……根が深い。
カランカラン。店内に響き渡るいつものベル。うう、癒される……。
もう今日は修羅場だ。そんな気がする。
「ここが、例の……?」
太朗君は疑わしげだ。
「そうだよ〜」
泰葉は平静を保っている。火のないところに煙、立てて欲しくないもんねぇ――
――こんにちは! ようこそ、今日は、新しいお友達ですか?
横浜くんは、今日も爽やか。ああ、私の癒しよ、こんにちは。
「あ、この子は私のカレシでして……」
――カレシさんですか! それは素晴らしい……。デートの時とか、待ち合わせにでも使ってくれたら嬉しいです〜。
横浜くん、マイペースだ……。
空気を読んだのか、空気を無視しているのか。何が正解なんだと言われても困るしねぇ。
太朗君はと言えば。イケメンウェイターの登場にややムッとしている――ような気がする。
「どうも。……席は?」
どうぞどうぞ! こちらへ――
三人で、味のしないコーヒーを飲んだ。
太朗君は喋らないし。泰葉は黙っているし。私は一生懸命話を振るんだけど「ああ」「……うん」しか返ってこなくなって。
居たたまれなくなって止めてしまった。やがてコーヒーが無くなると。
誰ともなく、席を立ち始めた――
■
今日は晴れている、喫茶店にも行ってきた、と言うのに。
気持ちは晴れではなかった。二人の後ろを歩く。不穏な空気が流れているのを感じる。
たぶん、今日は
そんな気がした。
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