【第一章:光はいつか牙に変わる】


1-1【約束の彼方に笑う獣】

彼らが住む地は、「芭の国(ばのくに)」と呼ばれ、時は、人が生まれ滅亡と進化への綱渡りをするまでの世のこと。

神と人とが、栄光を願い共に歩みしも、それは儚く散った。

小さな優しさが、やがて血に変わるとも知らずに。

__これは、愚かでありながらも愛おしい者たちが紡いだ物語。


 神獣たちは、ひっそりと山奥にある小さな村に住んでいた。遡ることその国が『藺(りん)』と呼ばれていた頃のこと。古くから神獣と人間が深く関わり合い互いを必要としていた。その時はまだ神獣は「神の獣」として仕え、人間も神獣をその存在を重んじ、敬った。それはまさに「神とその民」が最も穏やかで在れた時代だった。双方が笑い合い良い距離感、良い関係を築けていた。

 やがて時は流れ、その国が『藘(ろ)』と変わる頃。神獣たちは人間との血が混ざり合い人の姿へと変わり始めた。同じ頃、人間の間で血を流す争いが絶えなかった。神獣たちはそれを止めるために多くの犠牲を払って力を尽くした。__が、それすらも無念に散っていった命が数え切れないほどあった。その命を無碍にするかのように人間たちに変化が現れた。なんと、人間たちは神獣たちを崇めることを忘れ、物珍しさに神獣たちが暮らす小さな村に足を踏み入れようとしていたのだ。しかし、その小さな村はそう簡単には見つからなかった。いくら山を探そうともその村は存在を眩ませている。それもそのはずだ。獣と言っても神に仕え、神の力を受けるに値する器を持つ獣だ。この獣たちが住むその小さな村の存在を眩ますことなんて容易いことだろう。そんな完璧に近しい神獣たちにも優しすぎる隙があった。それはとある小さな出来事。本当に小さなことである。小さな小さな優しさが双方の信頼と交わりを崩した。その優しさは、ただ共存を望む獣が欲深き人間に向けられたのである。それが、互いの夢を崩れるなんて神さえも予想はできなかった。

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