第二十二話:東京の街と、新しい眼差し
僕は再び、東京の喧騒の中にいた。
満員電車に揺られ、ビルの谷間を歩く。誰もがスマートフォンを眺め、早足で通り過ぎていく。それは、僕が旅に出る前と何も変わらない風景だった。
しかし、僕の心は、もはや旅に出る前とは違っていた。
旅に出る前、僕は東京のすべてが嫌いだった。人の多さ、競争社会、そして、孤独感。すべてから逃げ出したかった。しかし、この旅で、僕は多くのことを学んだ。
椎葉村で出会ったユキさんの言葉を思い出す。「不便さが人と人を繋いでる」。東京という街も、一見すると無機質に見えるが、僕が心をオープンにすれば、温かい繋がりは生まれるはずだ。
僕は、近所の小さな定食屋に入った。旅に出る前は、コンビニ弁当で済ませていた場所だ。店主は、僕が久しぶりに来たことを覚えてくれていて、にこやかに「おかえり」と声をかけてくれた。
「ただいま」
その一言が、僕の心を温かくしてくれた。
僕は、これまで、東京での生活を「消耗戦」だと考えていた。しかし、見方を変えれば、東京は、僕がこの旅で得た学びを試すのに、最適な場所かもしれない。
僕は、ITのスキルを活かして、新しい仕事を探し始めた。ただ給料が高いという理由ではなく、自分のスキルが、誰かの役に立っていることを実感できる仕事。
ある小さなITベンチャー企業が、僕の目に留まった。その会社は、地方の特産品をオンラインで販売するプラットフォームを開発していた。それは、僕がこれまで旅で見てきた、地方の豊かな自然や、そこで暮らす人々の暮らしを、テクノロジーの力で支える仕事だ。
面接で、僕はこれまでの旅の話を正直に話した。
「なぜ、安定した会社を辞めて、旅に出たんですか?」
社長の問いに、僕は答えた。
「自分が本当に何を求めているのか、分からなくなったからです。でも、旅をして、僕は、自分が本当にやりたいことを見つけました。それは、テクノロジーの力で、誰かの暮らしを豊かにすることです。」
僕の言葉を聞いた社長は、静かに頷き、こう言った。
「うちの会社は、大企業のような安定性はない。でも、社員一人ひとりが、自分の仕事に誇りを持っている。もし、君が、その旅で得た熱意を、この会社で発揮したいなら、私たちは歓迎します。」
僕は、その場で入社を決めたいと申し出た。
東京という街で、僕は、新しい自分を見つけることができた。それは、旅に出る前は、決して見つけられなかった自分だ。
僕の旅は、まだ終わってはいない。
この東京で、僕は、僕自身の「理想の場所」を、少しずつ創り上げていく。
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