第十九話:働く場所と、新しい仕事

ニセコでの三日目、僕は街の中心部にあるコワーキングスペースを訪れた。観光客が減ったオフシーズンでも、この場所には多くの人がいた。彼らは皆、真剣な表情でパソコンに向かっている。

「何かお探しですか?」

受付にいた女性が、僕に声をかけてきた。彼女は、この施設のコミュニティマネージャーだという。

「実は、この街で働く場所を探していて。どんな仕事があるのか、知りたいんです。」

僕がそう答えると、彼女は少し驚いた表情をした。

「ニセコで仕事を探している方は、珍しいですね。冬のスキーリゾートの仕事が主なので、この時期は求人も少ないんです。でも、IT関連の仕事なら、通年で募集しているところもありますよ。」

彼女は、僕がシステムエンジニアだったことを話すと、すぐにいくつかの企業を紹介してくれた。その中には、ニセコの観光産業をITで支えるスタートアップ企業や、地元の食材を活かしたECサイトを運営する企業など、興味深いものがたくさんあった。

「ニセコでは、ただの労働力ではなく、自分のスキルを生かして、この街に貢献したいと考えている人を求めています。日本人も外国人も関係なく、アイデアや技術を持っている人は、すぐに受け入れられますよ。」

彼女の言葉に、僕は胸の高鳴りを覚えた。

都会で働いていた頃、僕の仕事は、会社の歯車の一つでしかなかった。大きなプロジェクトの一部を任され、言われた通りの作業をこなす日々。自分の仕事が、誰かの役に立っているという実感は、ほとんどなかった。

しかし、ニセコで紹介された仕事は、もっと人々の暮らしに密着していた。僕がこれまでに培ってきたITのスキルを、ニセコの観光や産業に生かすことができる。それは、僕がこれまで求めてきた「働く喜び」そのものだった。

「僕が作ったシステムが、この街にいる人たちの笑顔につながるかもしれない」

そう思うと、僕はワクワクした。

この旅に出てから、僕は何度も「働くこと」について考えさせられた。椎葉村の蕎麦農家、日南市の釣り人、五島の漁師。彼らは皆、自分の手で何かを生み出し、その結果を直接感じられることに喜びを感じていた。

そして、ニセコで出会った人たちは、僕に、**「自分のスキルを、誰かのために使う喜び」**があることを教えてくれた。

それは、僕にとって、新しい働き方のヒントだった。

この街は、僕がこれまで想像していたような、ただの観光地ではない。異文化が交じり合い、新しい価値観が生まれ、人々がそれぞれのスキルを生かして、この街をより良くしようと努力している。

僕は、この街で、もう一度、新しい自分を見つけられるような気がした。

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