第十四話:漁師町の賑わいと、働く人々の背中
長崎市内での滞在を終え、僕は長崎の「離島」を見てみることにした。長崎県には、大小合わせて600以上の島がある。その中でも、アクセスが比較的良く、暮らしが垣間見られる島として、五島列島が頭に浮かんだ。
フェリーに乗って、僕は五島列島の一つ、福江島へと向かった。デッキに出て潮風を浴びる。長崎港から福江港までは、3時間ほどの船旅だ。その間、僕はスマホの電源を切り、ただ海を眺めることに集中した。
都会では、常に時間に追われ、移動中もスマホを手放すことはなかった。しかし、この旅に出てから、僕は徐々にデジタルデトックスの心地よさを知るようになった。情報過多な日常から離れ、自分の内側に意識を向ける。それが、旅の本質なのかもしれない。
福江港に到着すると、活気に満ちた漁師町の風景が僕を出迎えてくれた。大小様々な漁船が停泊し、漁師たちが網の手入れをしたり、水揚げされた魚を運んだりしている。彼らの引き締まった体と、日に焼けた顔は、この海で生きる厳しさと、それに対する誇りを感じさせた。
僕は、港の近くにある市場に入ってみた。そこには、獲れたての新鮮な魚介類が並んでおり、活気に満ちている。
「にいちゃん、どっから来たんだ?このアジは朝獲れだよ、美味いぞ!」
威勢のいい声で話しかけてくれたのは、大きな魚をさばいている男性だった。
「東京からです。魚が新鮮で、つい見てしまいました。」
僕がそう答えると、男性は笑いながら言った。
「そうだろう?五島の魚は最高だ。この海が俺たちに恵みを与えてくれるからな。毎日が漁との戦いだよ。海が荒れれば出られないし、大漁のときは徹夜で作業することもある。でも、そのぶん、獲った魚が誰かの食卓に並ぶのを見ると、やりがいを感じるんだ。」
彼の言葉は、椎葉村の蕎麦農家、日南市の釣り人の言葉と重なった。
「自分の手で何かを生み出す喜び。」
それは、都会でシステムエンジニアをしていた僕が、これまで感じることのなかった感情だった。
僕は、これまで「住みやすい場所」を求めて旅をしてきた。それは、景色が美しい場所、便利で暮らしやすい場所、温かい人との繋がりがある場所。しかし、僕は今、それらの要素に加えて、**「働く喜び」**も、僕にとっての「理想の暮らし」を構成する重要な要素であることに気づき始めていた。
働くことは、生活のためだけではない。それは、自分という存在が、誰かの役に立っていることを実感できる、かけがえのない時間だ。
五島の海と、そこで働く人々を見て、僕は改めて、自分の「働くこと」に対する価値観を問い直していた。
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