第十一話:長崎の空と、異国情緒の香り

飛行機が長崎空港に着陸する。僕は機内の窓から、複雑な地形に浮かぶ島々と、深い青の海を眺めていた。この景色は、宮崎の雄大な海とはまた違う、静かで歴史を感じさせるものだった。

空港からバスに乗り、長崎市の中心部へ向かう。街に近づくにつれて、坂道が多くなり、西洋風の建物や石畳の道が見え始めた。それはまるで、別の国に足を踏み入れたかのような感覚だった。

今回の旅では、特定の場所を決めずに、気の向くままに歩いてみることにした。僕が降り立ったのは、長崎の主要な観光地であるグラバー園や大浦天主堂に近いエリアだった。

石畳の坂道を登っていくと、風に乗って、どこからか甘い香りが漂ってきた。その香りに誘われるようにして歩いていくと、一軒のカフェが見えた。店先には、美しいステンドグラスが飾られており、異国情緒あふれる佇まいだった。

「いらっしゃい。」

僕を迎え入れてくれたのは、穏やかな笑顔の女性だった。彼女は、この店を一人で切り盛りしているのだという。

「この香りは、なんですか?」

僕は香りの正体を尋ねた。

「これは、カステラを焼いている香りです。長崎では、お菓子屋さんがたくさんありますから、色々な場所でこの香りがしますよ。」

彼女はそう言って、焼きたてのカステラとコーヒーを出してくれた。一口食べると、素朴な甘さが口の中に広がり、旅の疲れが癒やされていくようだった。

「どちらからいらっしゃったんですか?」

「東京です。実は、移住先を探していて、今は旅の途中なんです。」

女性は驚くことなく、静かに頷いた。

「長崎は、坂が多くて住むには少し大変かもしれませんね。でも、その分、景色は綺麗ですよ。それに、海も山も近いですし、何より人が温かい。みんな、お互いのことをよく知っています。」

彼女の言葉は、どこか懐かしさを感じさせた。それは、椎葉村で聞いた「人との繋がり」に似ていた。しかし、長崎のそれは、もっと多様で、異文化が交じり合って生まれた、独特の温かさのように感じられた。

長崎は、鎖国時代に唯一開かれていた窓口だ。多くの異国の文化が流入し、この街は独特の歴史と文化を築き上げてきた。その歴史が、この街の人々の心にも、何かを育んでいるのかもしれない。

旅の目的は、便利な暮らしや、美しい景色を探すことだけではない。その土地の文化や、歴史に触れることも含まれているのだと、僕は改めて感じた。

カフェを出た後、僕は坂道を登り、長崎の街並みを見渡せる場所へと向かった。そこから見えるのは、複雑に入り組んだ地形に、家々がひしめき合うように建っている独特の風景だった。

夜になれば、この家々の明かりが、宝石のように輝くのだろう。

僕の旅は、この街で、どんな新しい物語を紡ぎ出すのだろうか。

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