3話 捜索 ~屋上~
僕達が次に向かったのは屋上だった。
先ほどクウギョが屋上で何かトラブルがあった様子を伺わせていたので、ついでに見に行こうという話になったのだ。
因みに、下の階に行く階段は2つあったのだが、屋上へと続く階段はその内の1つにしかなかった。
扉を開けて屋上に出ると、そこには3人の姿があった。
「はー! あぶなかったっす!」
「だから言ったでしょうに。こういう無茶なことはするべきではないと」
「やっぱ脳みそが少ないからそうなるんだよなあ」
「ねえねえ、何があったの~?」
ユウリくんが駆け寄ると、ツバメくんが深いため息をつく。
「サスケ君が突然『この場所から脱出する方法を思いついたっす!』と言って屋上に走っていったんだよ。それで屋上の柵を乗り越えて細いところをどんどんと進んでいって……」
「そしたらちょうど外に出そうなところで、なんか見えない壁にぶつかったっす!」
悪びれた様子のないサスケくんに、ヒナタくんがカンカンに怒る。
「『ぶつかったっす!』じゃないって! マジで死にそうだったじゃないですか! 自分が受け止めなかったらそのまま中庭へダイブですよ!」
「あはは。でも結果的に大丈夫だったので問題ないっす!」
「お前なあ! 自分の運動神経に感謝しなさい!」
「ん? ああ、俺っち、身軽だからなあ!」
「そうじゃなくて! ここでいう自分は自分、犬飼ヒナタのことで……ああ! こいつといるとなんかおかしくなってきます!」
「あー、もううっさいっすね。黙るっす」
そこでサスケくんが自分の口を両手で塞いだ途端だった。
「っ! っ! っ!?」
ヒナタくんが口をぱくぱくしながら目を丸くしていた。
まるで声を出そうとしているのに出ないような、そんな様子だ。
そしてサスケくんを睨みつける。
「これって一体……?」
僕が呆然としていると、ツバメくんがやれやれと肩をすくめる。
「これはサスケ君の『能力』だね」
「え!? サスケくんの能力って相手を黙らせることが出来るの!?」
「そうっすよ! そしてそれだけじゃないっすよ、コータっち!」
口から手を離し、にひひ、と笑うサスケくん。
直後にヒナタくんに頭を叩かれる。
「あいたっ!」
「最初からこうすりゃよかったですよ。無駄に暴力はいけないとか思ったのが間違いでした」
「ひどいっすよ! この暴力犬! 保健所に通報するぞ!」
「どうぞどうぞ。通報して外に出られるならば本望ですよ」
また喧嘩が始まった。喧嘩するほど何とやらだ。
「で、さっきのヒナタの能力の続きについて教えてくれないかな~」
そんなものも意に介さず、ユウリくんがツバメくんに尋ねる。
「えっと、サスケ君の能力は『見ざる、言わざる、聞かざる』でして、特定の相手を視界を奪う、言語を奪う、聴覚を奪う、という能力らしいよ」
「はえ~。めちゃくちゃ強そうだね~」
確かに、相手の感覚を奪う能力はかなり応用も効きそうだし、それこそ殺人にもつなげることが出来そうだ。
「確かに強いっすけど、でもきちんとデメリットもあるっすよ」
「デメリット?」
ヒナタくんの腕をつかんで防御しながら、サスケくんは説明する。
「まず1つ目が、1人にしか出来ないことっす。全員の視界奪ったりすれば強かったりするっすけどねえ」
「じゃあ基本1対1でしか使う意味がないんだ」
「そうっす。それともう1つ、こっちが致命的なんすけど……」
そう言ってサスケくんは自身の眼を両手で塞いだ。
「あっ!」
「いたっ!」
するとヒナタくんが途端にバランスを崩し、サスケくんに倒れ掛かって屋上で重なり合った。
「いきなり眼を塞ぐんじゃないですよ! 離れろ!」
「ヒナタっちが上なんだからさっさと退くっすよ」
「じゃあ視界を塞ぐのを止めろ! くっついていて生暖かくて気持ち悪いんですよ!」
「まず退いてもらわないと手が動かせないっす」
「そ、そうなんです? じゃあ自分動きますよ」
「あん」
「変な声を出すんじゃないですよ!」
騒がしくしながらようやく2人は離れる。ヒナタくんはげっそりとした様子だ。
対してサスケくんはけろりとした様子で「こういうことっす」と手を広げる。
「相手の奪う箇所は、自分も同じように奪われるっす。目には目を、耳に耳を、口には口を、っすね」
成程。
自分の手で塞いだところが相手が使えなくなる。
すなわち、なんのメリットにもならないのだ。
更には両手まで使ってしまっているのだ。
「デメリットが大きすぎるね……」
「そう、そうなんすよコータっち! なんで神様は俺っちをこんな能力にしたんすかね!」
「さ、さあ……僕には能力がないし……」
「はっ! そうっした! すまなかったっす!」
サスケくんが謝罪を口にする。
「いいよいいよ。全然気にしていないから」
「そういうわけにもいかないっす! 罰としてヒナタっちの聴覚奪っておくんで」
「なんでだよ」
「おいふざけるな! やめてくださいよ!」
「なーんにも聞こえませーんっす」
ぎゃーぎゃー騒ぐヒナタくん。ある意味、聞かざる、が一番使いやすいのかもしれないな。
それはともかくとして、僕はツバメくんに尋ねる。
「そういえばツバメくんもサスケくんの能力を知っていたみたいだけど、それって、えっと、いいの?」
「ああ、能力を知られることのデメリット、だよね」
はぁ、とツバメくんはため息をつく。
「ボクもそう思ったんだけど、この2人があけっぴろげ……というか何故か自慢風にお互いに言い合っていたので、秘密にするのがバカらしくなってきたんだよね」
「そうなんだ……」
なんとなく想像がつく。
「ちなみにユウリは『探し物を見つける能力』だよ~」
唐突にユウリくんがそう発言した。
「え? 言っていいの? さっき僕に『他の人には言わないで』って言ってたじゃん」
「うん。この3人はなんか悪そうじゃないし、言った方が面白いって思ったんだ」
「それは、能力、で?」
「能力で~」
ニコニコとしているユウリくんを他所に、ツバメくんはぽかんと口を開ける。
「まさかあの2人と同じような者がもう一人いるなんて……」
「えへ~驚いた?」
「……頭が痛くなったよ」
混乱するだろうなあ。
じゃあここは僕が交通整理をしてあげようか。
「と、ともかくさっきの話に戻るんだけど、ここから出られない、ってことだったんだよね?」
強引に話を最初に戻した。
すると言い争っていたサスケくんとヒナタくんも動きを止め、うん、と頷いて前方を指差す。
「建物の外に出ようとしたんすけど、さっきも言った通り見えない壁みたいなモノがあって、跳ね返された感じ」
「自分もその見えない壁に触りましたけど、本当に材質も何もわからないただの壁って感じでした。弾力性もなく、かといってざらざらしているのでもなく、なんというかこの世の物質ではないような、そんな感じでした」
「そうなんだね。ちょっと触ってみたいけど、でもあそこまで行くのは怖いなあ」
細い足場で落ちたら真っ逆さまだ。
「こっちの壁を登ることが出来たら分かりやすいんだけどね~」
ユウリくんが中庭へ通じる吹き抜けとは反対方向にある壁を触りながら呟く。
確かにちょっと登れそうにない。
柵も低いし、先には壁が無くて外に出られそうに見えるし、そこを行きたくなる気持ちは分かる。
「じゃあ屋上はこんなところだね~。ところでさ~」
ユウリくんが3人に向かって声をかける。
「この後、せっかくだから一緒にこの建物を見て回らない? ユウリとコータとさ~」
「助かる!」
真っ先に手を取ってきたのはツバメくんだった。
「この2人がすぐにケンカするので! 抑えるのに人がいるとかなり助かる!」
「誰がすぐにケンカするっすって?」
「いやいや、こいつが悪いんですって」
ああ!? と2人がにらみ合う。
成程、これは辛いだろう。
「せっかくだし僕も賛成かな。一緒に見て回ろうよ」
「いいっすよ」
「オッケーです」
サスケくんとヒナタくんも了承した。
こうして僕達は5人で捜索をすることになった。
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