第3話
エリスと共に「幻の秘境」の入り口にたどり着いた俺は、目の前に広がる光景に息をのんだ。
断崖絶壁に囲まれた、まるでこの世のものとは思えない場所だった。秘境の入り口は、巨大な岩でできた、重々しい扉で閉ざされている。
「この扉、開けられるか?」
エリスが俺を見上げて言った。彼女の顔には、緊張と期待が入り混じったような表情が浮かんでいる。
俺は扉に近づき、その表面に触れてみた。ひんやりと冷たい。
「こんなの、馬鹿げてる」
俺の体が覚えているガストンの声が、頭の中でこだまする。
『お前みたいな無能な男に、こんな重い扉が開けられるわけがない!』
でも、俺はもう、あの頃の俺じゃない。俺には、この力を信じてくれるエリスがついている。
俺は扉に手をかけ、ぐっと力を込めた。
ミシミシ…
扉は少しも動かない。
「やっぱり無理か…」
思わず弱気な声が出てしまった。
「諦めるな、ロイド!」
エリスが俺の背中を叩いた。
「あんたの力は、こんなもんじゃないだろ? もう一度、やってみよう」
彼女の言葉に、俺はもう一度、扉に向き合った。
深呼吸をして、全身の力を扉に集中させる。
俺の体が、熱くなっていくのを感じた。
「うおおおおお!」
俺は叫びながら、ありったけの力を扉にぶつけた。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
重々しい音を立てて、扉がゆっくりと開き始めた。
「すごい…!」
エリスが目を丸くして、驚きの声を上げる。
俺は、もう返事をする余裕もなかった。ただ、目の前の扉を開けることだけに集中した。
そして、ついに、扉は完全に開いた。
秘境の中は、薄暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。
俺たちは、松明を手に、ゆっくりと奥へと進んでいく。
行く手には、次々と困難が待ち受けていた。
「ロイド、あそこを見て!」
エリスが指さした先には、深い谷があった。谷の向こう側には、目的の宝物があるらしい。
谷には、一本の細い橋がかかっている。橋は、今にも崩れそうなほど脆かった。
「この橋を渡るしかないみたいだ。でも、重い荷物を持って渡るのは無理だな…」
エリスが困った顔で言った。
俺は、橋の前に立って、じっと見つめた。
「…エリス、俺に任せてください」
俺はそう言って、橋を渡り始めた。
俺は、エリスが持っていた、宝物を入れるための大きな袋を肩にかけた。
その袋には、たくさんの道具や食料を詰めて、重くなっていた。
俺は、この重い袋を運びながら、橋を渡り始めた。
ミシミシミシミシ…
橋は、俺の重みに耐えきれず、今にも崩れそうになる。
「ロイド! やめなさい! 危険すぎるわ!」
エリスが叫んだ。
でも、俺は足を止めなかった。
俺には、この橋を渡り切る自信があった。
俺は、一歩一歩、慎重に、そして力強く、橋を渡っていく。
ガコン!
橋の一部が崩れ落ちた。
俺は、バランスを崩しかけたが、なんとか耐え抜いた。
俺は、ガストンに、そしてセーラに言われた言葉を思い出す。
『お前は無能だ』
『お前の力なんて、何の役にも立たない』
違う!
俺の力は、今、この瞬間に、誰かの役に立っているんだ!
俺は、橋を渡り切り、谷の向こう側にたどり着いた。
「やったな、ロイド!」
エリスが、満面の笑みで俺に駆け寄ってきた。
俺は、彼女の笑顔を見て、心から嬉しくなった。
俺は、自分の力が、誰かの役に立つ喜びを、初めて知った。
それからも、俺たちは次々と困難を乗り越えていった。
分厚い壁を壊し、巨大な岩を動かし、俺の怪力と耐久力は、秘境の攻略に不可欠なものだった。
そして、ついに、俺たちは、秘境の最奥部にたどり着いた。
そこには、まばゆいばかりの光が満ちていた。
光の中心には、黄金の剣や、宝石が散りばめられた冠、そして、たくさんの金貨が積まれていた。
「…これが、伝説の秘宝…」
エリスが震える声で言った。
俺は、ただ呆然と、その光景を眺めていた。
こんなにもたくさんの財宝を、俺は初めて見た。
「ロイド! 早く、荷物を運び出そう!」
エリスが俺の肩を揺すった。
俺は、用意していた大きな袋に、金貨や宝石を詰め込んでいく。
重い。
とても重い。
でも、俺は、この重さが、とても心地よかった。
この重さは、俺の力が、誰かの役に立っている証拠だから。
俺たちは、秘宝をすべて運び出し、秘境を後にした。
街に戻ると、俺たちは一躍、英雄になった。
「すごい! 『幻の秘境』を攻略したのか!」
「ロイドさん、あなたは本当に素晴らしい!」
街の人々が、俺たちの周りに集まり、称賛の声を上げた。
俺は、人々の称賛の声に、少し照れくさくなった。
でも、それ以上に、俺の胸は、誇らしさでいっぱいだった。
「俺は、無能なんかじゃなかったんだ…」
俺は、心の中で、そうつぶやいた。
俺の力は、誰もが持っているわけじゃない。
それは、俺だけの、特別な才能だったんだ。
そして、俺は、莫大な財を手に入れた。
俺は、もう、貧乏な荷車引きじゃない。
俺は、この街で最も裕福で、最も名声のある人物になったんだ。
俺は、エリスと共に、新たな人生を歩み始める。
もう、誰も俺を「無能」だとは呼ばないだろう。
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