前の学校でマドンナと呼ばれていた銀髪美少女が、同じタイミングで転校してきたモブ男子の僕にだけ素顔を見せてくれるようになった
白玉ぜんざい
第1話 僕と彼女のプロローグ①
「それでは最後に、転校してしまうお友達を大きな拍手で見送りましょう」
担任の言葉を合図に、クラスメイトの拍手が重なる。言われて起こったものにしては、熱がこもっている拍手だ。
クラスメイトたちの、行かないでくれという気持ちが伝わってくる。
僕、富士田次郎は教壇に立ちながら、ひしひしとそれを感じていた。
クラスメイトの中には「行かないでくれえええ!」「俺はこれから何を楽しみに学校に来ればいいんだッ!」「さみしいよー」みたいに感情的な言葉を漏らす者もいた。
なるほど。
感動的な別れのシーンだ。
けれど。
僕は一ミリの動揺もなく、ただ無表情で拍手を浴びるだけだった。いや、なんなら浴びてすらいないかもしれない。
だって、この拍手は僕の隣に立つ女子生徒に送られているものだから。学園のマドンナとさえ言われた、超絶美少女、雪村真白さんへ。
一つとして、僕に向いているものはないのだと、ここで過ごした半年間が告げている。
けど、まあ、こんなもんだ。
誰からも見向きもされない、平凡を絵に描いたようなモブ男子。それが富士田次郎のキャラクターだ。
きっと一ヶ月も経てば、みんなは僕のことなんて忘れてしまうかな違いない。
こうして、最終登校を終えた僕は、この学校を去った。
*
関西地方、大阪。
義理と人情に溢れた街として知られるここは、かつて天下の台所と呼ばれていたようだけど、勉強熱心でもない僕はその理由は知らない。
道を歩けばわいわいガヤガヤ騒ぐ人がそこかしこにいる。途切れることのない会話、ボケとツッコミの応酬。
笑いの為ならば自らの危険すら厭わないストイックな姿勢。面白さに対してどこまでも真摯な精神。
そんな環境に身を置き、一週間。
三学期の始まりと同時にここ、青北高校へ転校してきた僕だったけれど、ものの見事にぼっちとなっていた。
思い返せば転校初日。
教壇で、『はじめまして。富士田次郎です。親の転勤で大阪に来ました』という何の面白みもない普通の自己紹介をしたのが原因の一つ。
あとは、そのあとの選択が間違っていたのかも。
『富士田クンってあれやな、なんかアニメとか好きそう』
ホームルームが終わったときに一人の男子生徒が話しかけてきてくれた。後ろにはお付きの男子が二人。構図からして、この三人組の最高権力者が真ん中の男子だと言うことが分かる。
明るい色に髪を染めたチクチク頭の男子生徒。陽キャっぽいオーラも纏っている。ちなみに僕、陽キャの類はあまり得意ではない。
『え、あ、まあ』
しかしながら、突然の話題振りに僕は上手く返せなかった。事実、アニメとかが好きなわけだから、尚のこと悩んでしまったのだ。
『なんやねんそのリアクション、つまんな。そこは「誰がオタクやねん!」やろ』
『……あはは、ごめん』
事実オタクなんだから、そのツッコミは間違っているだろ。いや、この場合はとりあえずツッコミ入れればよかったのか?
『ほんま、だからいつまで経っても童貞やねん』
『だ、誰が童貞だよ……?』
今度は思い切ってツッコミを入れてみた。まあ、自信ない発言にはなってしまったけど。
すると、チクチク頭の男子は後ろにいる金魚のフンAとBに視線を配る。そして、おかしそうに噴き出した。
『だよ、やって! めっちゃ標準語やんキモ!』
『しかも絶対童貞やしな?』
『おもろー』
ゲラゲラと下品に笑い、満足したのか三人は『ほなな、童貞オタククン。また』と言って行ってしまった。
その言い方だと僕が童貞に目がないみたいじゃないか、とツッコミを入れる間すらなかった。
それ以来、僕に話しかける生徒はいなくて、転校生ブーストもなく、晴れてぼっち。
もうちょっと興味持ってもよくないですかね、と思うけれど、それも仕方ないと思える情報をこの前仕入れた。
どうやら、僕と同じタイミングで別のクラスに転校生が来ていたらしい。しかも、超絶美少女なんだとか。
これはすれ違った男子二人の会話から入手した情報だ。残念なことに、この一週間で盗み聞きスキルが確実に上がっていた。
「おい、また姫が告白されるらしいで!」
「まじで? 今度は誰や?」
「安藤先輩!」
「あの?」
「そう!」
どの安藤先輩なのかは分からないけど、この学校にもマドンナ的な女子生徒がいるようだ。
騒ぎながら教室から出ていく男子生徒を眺める僕の脳裏に蘇ったのは、一人の女子の姿だった。
雪村真白。
同じクラスで、どういうわけか同じタイミングで転校することとなった女子生徒だ。
そう。
最後の日に僕への拍手を全て掻っ攫っていったあの子。なんて、あの子がいなかったらお通夜みたいな空気だったろうから、むしろ助かったまである。
彼女は紛うことなき学校のマドンナだった。
――百八人。
それが、雪村真白が入学から転校までに受けた告白の公式記録だ。凄いだろ、煩悩の数と一緒なんだぜ。
転校がなければ、これからもっと増えただろうに残念だ。まあ、彼女が転校していなくても僕は転校したから、結局知ったこっちゃないわけだけど。
この学校の姫とやらは、果たしてどれだけの記録を持っているのやら。友達一人いない僕に、それを確認する術などないわけだが。
「……はあ」
窓際一番後ろ。
ラブコメの定番ポジションだけど、僕の人生にそんなイベントは起こらない。
彼女なんてできなくてもいい。
僕はただ、楽しい学校生活を過ごしたいだけだ。薔薇色じゃなくてもいい、けれど灰色でもないような、ラノベとかで見る楽しい毎日を送りたいだけ。
なのに。
現状、ぼっち。
……先が長すぎるぜ。
*
今日も今日とて、誰との会話もないまま一日が終わった。
それはもはや日常茶飯事なので落ち込む理由にもならないけど、今日はそれに加えてクラスメイトに『お前誰やっけ』とか言われたので、ちょっと凹んでいる。
話題性では同じ時期の転校生に負けているのは分かるよ。超絶美少女とやらに勝てるなんてはなから思っていないから。
でも、一応僕も転校生属性じゃないか。興味を持てとは言わないけど、せめて名前くらいは把握しとこうよ。
そんな一幕に辟易しながら、僕は靴を履き替える。
周りには、ちらほらと同じように帰宅する生徒がいた。みんな、友達やら恋人やらと一緒に帰っていて、独りぼっちなのは僕だけ。
「……帰ろ」
がくりと肩を落としながら歩き出したときだった。
どん、と何かに……というか、誰かにぶつかってしまう。
「きゃっ」
「わ、ごめんなさい」
可愛らしい小さな悲鳴に、思わず謝罪をする。発生から謝罪までの時間を測定したら、そんじょそこらの人には負けないかもしれない。
などと、思いながら女子生徒の方を見る。あれだけ可愛らしい声を出したのだからさすがに女子だろう。
そこには、目を見開いて僕を見つめる女子生徒がいた。それも超絶美少女。
「……え?」
本当に美少女だったというだけでも驚いたのに。
「えっと……」
そこにいたのは、ただの超絶美少女じゃなくて。
「……富士田、くん?」
「……雪村、さん?」
雪村真白。
前の学校を、俺と同じ時期に転校したはずの超絶美少女だった。
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